医学界新聞

「看護におけるケースマネジメント」をテーマに

第29回聖路加看護大学公開講座が開催される


 さる1月11-12日の両日,第29回聖路加看護大学公開講座(委員長=聖路加看護大教授 羽山由美子氏)が,聖路加看護大学のALICE C. ST. JOHN Memorial Hallにおいて開催。新校舎への移転を完了し,学内での記念すべき初の公開講座となった。
 「ケースマネジメントの問題は介護保険制度の成立如何にかかわらず,看護の仕事を切り離して考えられない。また高齢化,慢性疾患の増加,医療費の高騰と国民医療費抑制策など,今後の医療のあり方は看護サービスの提供の仕方についても再検討を迫っている」(羽山氏)との認識で,「看護におけるケースマネジメント-クライエント主体のケア提供システム」をテーマに設定。G.S.ラム氏(アメリカ・Carondelet Health Network)とT.ハリントン氏(聖路加看護大客員教授)による講演と,パネルディスカッション「日本におけるケースマネジメントの実践とそのあり方」が開かれ,450名の参加者とともに活発な討議が展開された。

アメリカにおけるケースマネジメント

 ハリントン氏は「ヘルスケアシステムの動向とケースマネジメントの概観/発展」と題し講演。1970年代から始まったアメリカのヘルスケアシステムの変革の中に,ケースマネジメントの概念が登場した由来や必要性が生じた背景,またその発展の歴史的経緯を概説し,診断群ごとに在院日数と平均的コストをあげたDRGといったケースミックス方式や,最近日本でも話題となっているクリティカルパス(「対談」参照)等は,マネジドケアの中で発生した,医療費抑制・コスト効率が非常に強くでた手法であることを述べた。
 また,「ケースマネジメントの導入に際しては,他職種との連携が必要」と指摘。医師の処方の均一化,専門職同士の連携の緊密化,専門職が自分自身のやり方を調整できる,などの効果が生じたことを報告するとともに,「他職種間の話し合いは,現在ナースがリーダーとなって推進している」ことも明らかにした。さらにクリティカルパスについては,「患者にとっても経過の具体的モデルが示され,目標ができると同時に患者とのコミュニケーションが促進される点でよい結果をもたらした」と述べる一方で,「何度も入院を繰り返すようなハイリスク者を対象に行なうなどの基準を,病院ごとに決める必要がある」と言及した。
 ハリントン氏の講演を踏まえてラム氏は「アメリカのヘルスケアにおける看護ケースマネジメント」の中で,アメリカにおいてケースマネジメントが必要となった背景を補足的に説明。ケースマネジメントですべてコストが下がるわけではないが,例えば精神科のように顕著に効果が上がる患者群のあること,また,ケースマネジメントの定義は無限にあることを指摘した後に,「この概念の導入が看護婦にもたらした最大の効果は,以前よりはるかに患者中心のケアになったことと,地域を基盤にした実践に変化したことである」と強調した。

ケースマネジメントの概念を臨床の場に

 その後ハリントン氏が再登壇し,実際にケースマネジメントの概念をリハビリテーション病棟に導入した経過を解説。「導入に際しては,すでに存在するプログラムで不足はないとする保守的な意見や,自分たちの固有の役割・地位が失われるのではないかという他職種からの危惧,抵抗に直面したが,特にソーシャルワーカーの抵抗が大きかった」ものの,導入した結果むしろチームとしてのまとまりができたこと,それぞれの職種の専門性を生かした棲み分けが可能になったことなどの利点をあげた。
 また,ケースマネジャーが臨床上と財政上の責任を持つようになった具体的な効果として,(1)在院日数の短縮,(2)保険会社の合意が得やすくなった,(3)看護婦も含めたスタッフの意識・モラルの向上などをあげ,「ケアの質を上げ,コストを下げることに成功した」との成果を述べた。  一方,ハリントン氏と同様に講演を通して実際にケースマネジメント導入の具体的事例を報告したラム氏は,質疑応答の中で「看護婦は経済面に関わるべきではないという固定観念があったが,今後はコスト意識のある看護婦が必要になるだろう」と語った。また,ケースマネジャーには社会資源に関する知識,患者のアセスメント能力,他職種との連携能力や患者とのコミュニケーション能力など様々な素養が要求されるが,そのすべてを教育の場で教えるには限界があることから,「柔軟性を持つ人材の育成が教育の大きな目標になるだろう」と示唆した。

日本での実践報告をパネルで

 山田雅子氏(セコム在宅医療システム),秋山正子氏(白十字訪問看護ステーション),青山幹子氏(板橋区役所衛生部)の3氏をパネラーとして迎えたパネルディスカッション「日本におけるケースマネジメントの実践とそのあり方」では,それぞれの立場から,現在の日本におけるケースマネジメントの様々な類型を検証した。
 まず,聖路加看護大学博士課程に在学中でもある山田氏は,民間企業の立場から発言。ケースマネジメントの「ケアの効率化・コストの低下・質の保障」という要素の中から,がん化学療法を病院で行なった場合と,在宅で民間企業がケアサービスを行なった場合のコスト比較を行なった。  次いで秋山氏は,ケースマネジメント業務に現在最も近い実践を行なっている訪問看護ステーションの立場から実例を紹介。他職種と現場の看護職がどうすれば質のよいケアを提供できるのか,実際の現場の中にケアマネジメント的要素がどのくらいあるのかなどを述べた。
 最後に青山氏は,板橋区の「おとしより保健福祉センター」における実践例を報告。板橋区は住民本位の先進的な医療・福祉の統合に努めているが,その中でもケースマネジメントの役割を担う機関として作られた同センターでの経験を,日本でのケースマネジメントの先進事例として発表した。