医学界新聞

神経の再生への道

 神経細胞の軸索は長い糸状の突起で,細胞体から神経インパルスを伝達する働きをするが,中枢神経系のニューロンは,軸索を再生する能力を発生の間に失ってしまうことが知られている。この再生能力を回復させることができれば,臨床への応用に限らず,多方面に非常に有益なものとなるだろう。
 このたびマサチューセッツ工科大学の利根川進たちは,細胞の生存促進に非常に幅広く役割を果たすことが知られている原癌遺伝子bcl-2 が,網膜軸索の成長と再生をin vivo でもin vitro でも促進することを明らかにした。
 bcl-2 は,プログラムされた細胞死,すなわちアポトーシスを阻害する能力を持つが,今回見つかった能力はこれとは関係がないらしい。実際,抗アポトーシス物質であるZVADは,ニューロンの生存は促進するが軸索の成長には何の効果もおよぼさない。bcl-2 が持つこの新しい機能は,ニューロンの損傷や神経変性疾患の治療の新たな基盤となる可能性がある。

“nature”30.January1997より