医学界新聞

“成人病への新たな挑戦!”をキャッチフレーズに

第31回日本成人病学会開催


 厚生省の諮問機関である公衆衛生審議会・成人病難病対策部会は,昨年末,「生活習慣病」という概念を導入する意見具申を行なった。
 折りしも,さる1月14-15日に東京のシェーンバッハ・サボーにおいて開催された第31回日本成人病学会(会長=筑波大学教授 杉下靖郎氏)では,「成人病への新たな挑戦!」をキャッチフレーズに掲げ,改めて現時点における成人病対策を検討。特別講演,教育講演,会長講演,シンポジウム「成人期のIntervention治療の現状」,パネルディスカッション「成人病管理のあり方」,「痴呆の予防は可能か」の他,循環器,糖尿病,消化器,加齢,脳・神経,呼吸器,感染症,代謝・内分泌,アレルギー・自己免疫の9領域にわたる一般演題が発表された。


「成人病への新たな挑戦-循環器疾患を中心に」

 前記の審議会の意見具申は,「加齢」という要素に着目して用いられてきた従来の「成人病」という概念を,生活習慣という面からとらえ直したもので,「今後,この疾病概念については,『生活習慣病(lifestyle related diseases)』という呼称を用い,“食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣が,その発症・進行に関与する疾患群”と定義することが適切である」としている。また,両者の概念は医学的には異なるが,対象となる疾患の大半は重複しており,3大成人病と呼ばれてきた癌,心臓病,脳卒中をはじめ,高血圧疾患,糖尿病,気管支喘息などが該当する。

「壮年期の成人病」に対する管理

 会長講演「成人病への新たな挑戦-循環器疾患を中心に」で杉下氏は,他の多くの病名や概念が欧米で作られたのとは異なり,「成人病」はわが国で作られた言葉であることを指摘。30年におよぶ学会の歴史とともにその社会的背景を概説した。
 成人病が結核に代表された感染症に代わって注目され出してから約1世代が過ぎようとしている。そして,成人病も含めた医療全体の改善によってわが国の寿命は急速に伸び,それに従って高齢化が最重要関心事になっている。杉下氏は,「われわれに与えられた課題は,老年になって健やかに老いるために“壮年期の成人病をいかに管理するか”である」と述べるとともに,一方では,相対的に若年齢人口が減少している現在,その年代層に対する健康管理が重要であると説いた。
 また高い死亡率を示している循環器疾患,特に「心不全」の基礎疾患としての虚血性心疾患については,壮年期の虚血性心疾患は冠動脈一枝病変が多いのに対して,老年期では多枝病変が多く,心不全に陥りやすいことを指摘。「“人は血管とともに老いる”と言われるが,その老いの始まりを壮年期に早く発見し,進展をできるだけ遅らせることが,成人病としての循環器疾患に対する理想の対策であろう」と再び強調して講演を結んだ。

「痴呆の予防は可能か-成人期からの対策は?」

 パネルディスカッション「痴呆の予防は可能か-成人期からの対策は?(司会=東海大 篠原幸人氏,日本医大 赫彰郎氏)」では,近年医学的・社会的にも注目を集めている「痴呆」に対する成人期からの対策が,(1)脳血管性痴呆,(2)アルツハイマー病,(3)感染症の3つの視点から論じられた。
 まず篠原氏が痴呆の原因と発現機序を概説。痴呆とは,(1)記憶の障害,(2)判断力・思考力・性格変化の随伴,(3)社会生活・日常生活の明らかな障害を指すが,「診断上重要なことは,その有無だけでなく,治る痴呆(treatable dementia)を見逃さないことである」と指摘。また,小林祥泰氏(島根医大)は脳血管性痴呆の発現機序を解説。その中でも特に白質病変に起因する症例の重要性を検証するとともに,「脳血管性痴呆は長期間かけて発現する例が多く,早期からの危険因子の管理とライフスタイルの改善が重要である」と強調した。
 AD(アルツハイマー病)については,岡本幸市氏(群馬大)が,(1)家族性ADの原因遺伝子としてプレセニリン1と2の発見(1995年)が研究上のトピックス,(2)ApoE4遺伝子の存在が危険因子,(3)PETやSPECTの画像診断による早期診断の有用性,さらに(4)アセチルコリン系賦活薬による薬物治療ヘの期待を概説した。
 続いて,痴呆をきたす中枢神経系の感染症については,プリオン病研究の第一人者である立石潤氏(九大名誉教授)が,CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病),スクレイピー,BSE(狂牛病)などのプリオン病を,PrPc(正常なプリオン蛋白)からPrPSc(感染型プリオン蛋白)への立体構造の変化を図示しながら解説。また,最近イギリスで発生したv-CJD(変異型CJD)や,GSS(ゲルストマン・ストロイスラー症候群)に言及しながら,「プリオン病は感染症と遺伝子病の両面を持ち,自己蛋白の変化による発病というまったく新しい機序を有する疾患群であるため,この発病機序の解明は,ほかの原因不明の疾患の病因解明にも有用である」と示唆した。