医学界新聞

オーストラリア大使館で行なわれた
「臨床疫学ワークショップ」-今年も開催予定

小グループ学習で臨床疫学のエッセンスに触れる


 evidence-based medicine(客観的事実に立脚した医療)の基本となり,医療の有効性を評価するための手法である臨床疫学(clinical epidemiology)について,関心を寄せる医療従事者が増えてきている。
 昨春には,臨床疫学の医学教育における実践で知られるオーストラリアのニューキャッスル大の研究者を招いた「臨床疫学ワークショップ」(主催=臨床疫学ワークショップ実行委員会,後援=オーストラリア大使館,オーストラリア政府国際教育機構)が,東京・港区のオーストラリア大使館で,2日間にわたって開催された。
 開催のきっかけとなったのは,1995年に東大で行なわれた,ニューキャッスル大教授(臨床疫学)のR.F.Heller氏の講演。臨床疫学に関するこの講演に対する反響が大きかったことが,企画に結びついたという。今年も6月頃に同様の試みが行なわれる予定があることから,昨年のワークショップの内容を紹介する。

小グループ学習を中心に

 今回のワークショップは,主に臨床に携わる人に臨床疫学の手法を知ってもらうことが目的。そのため,それまで臨床研究のデザインや結果の分析法などのトレーニングを受けたことのない人が対象とされた(なお,プログラムはすべて英語で行なわれるため,参加者にはある程度の英語力が要求される)。参加人数は全国から応募した23人(臨床医16人,看護系大学院生5人,その他2人)で,この中にはマレーシアからの留学生も含まれた。
 ワークショップは講義と小グループ学習で構成されたが,中心は小グループ学習。7-8人ずつ3つのグループに分かれ,それぞれのグループにファシリテーター(進行・サポート役)が日豪1名ずつつく。ファシリテーターには,ニューキャッスル大からHeller氏の他に生物統計学講師のL.Lim氏,J.Page氏の計3名が,日本側から伴信太郎氏(川崎医大),福原俊一氏(東大),山本則子氏(東大)があたった。
 セッションのテーマは(1)臨床研究論文の批判的読み方(2回),(2)メタアナリシス(先行の研究成果をデータに基づいて定量的に評価する方法),(3)臨床研究のデザインの方法について。これら3つのトピックスは,まったく別個のものではなく,臨床疫学において互いに密接なつながりを持つ要素である。
 このうち「研究計画のデザイン」のセッションは,実際に臨床研究の計画を持参した3名の参加者の研究計画を,各グループで批判的に検討して,よりよい研究プロトコールを作り上げるというもの。それぞれの研究計画の内容は(1)未破裂脳動脈瘤の治療,(2)胃内視鏡検査における超低容量の鎮静薬の効果,(3)糖尿病患者における自律神経障害の評価に関する研究であった。
 1回のセッションの時間は2時間半で,毎回組み合わせを変え,2日間で計4回のセッションを実施。各セッション終了後にはプレナリーフィードバックとして,全体の場で各グループでの議論の結果が報告された。

参加者の評価

 終了後の参加者アンケートでは,メタアナリシスと研究計画のデザインのセッションに対する評価が高かったという。
 また,臨床経験20年の医師の感想に「今までこういうことを知らずにいたが,日々の臨床につながる研究ができるかもしれない。もっと勉強したい」とあったように,すべての参加者がこのワークショップの意義を認めていた。「疫学を臨床に結びつけて考えたことはなかったが,こういうやり方もあるのだというおもしろさを感じた」という感想も出された。
 参加者の多くがもともと臨床疫学に関心を持っており,モチベーションが高かったこともよい成果を得られた一因と言える。自分自身の臨床の場での実践を研究対象にしたいという姿勢があり,そこに,目の前の患者の問題解決に直結する,臨床で使える技法としての臨床疫学を学ぶ動機づけがあったようだ。
 臨床疫学に関して,このような公募のワークショップが行なわれたのは初めての試み。関心はあっても実際にどういう方法をとるかを知らない人に,そのエッセンスを伝えるというワークショップの目的は十分達せられたと言える。
 なお「臨床疫学ワークショップ」に関する問合せは,東京大学医学部国際交流室(FAX 03-3815-9097)まで。