医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


緩和ケアの現場のニーズに具体的に応える

緩和ケア実践マニュアル 武田文和,斎藤 武 監訳

《書 評》森田文恵(川崎市立井田病院)

 本書は,緩和ケアに携わる医師と看護婦が求めている癌患者のケアのすべてにわたり,具体的な方法を提示し,また実践の現場でもすぐに役立つように工夫されている書である。内容は,臨床の現場で最も問題となる「痛み」「コミュニケーション」「痛み以外の不快な症状のコントロール」「ケアの展開」という4つのセクションに分け構成されている。

キーポイントをあげ実践を助ける

 各セクションでは,キーポイントとなる事項をあげ,実践にあたっては1何を理解するとよいか?,2必要な情報は何か?,3何を実践するか?,4実践の評価は?の4つに分けて示してある。また,必要に応じて具体的示唆となる「ケアの実際のコメント」をコラムとして設けてあり,臨床で効果的に活用できる仕組みになっている。
 セクションA「痛み」では,基本的な痛みの評価方法について,その原因を把握する際に必要となる情報を細かくアセスメントし,患者さんと話し合いながら治療目標を設定していく援助方法が示されている。また,臨床現場でしばしば問題となる鎮痛剤を使用する上での副作用への対処法や,患者さんが鎮痛剤を拒否する場合の対応についても具体策が提示されている。さらに医療チームの中で,患者さんの痛みに対する評価に差がある時の問題についても触れており,チームとしての改善策を得るためのコメントも示されている。
 セクションB「コミュニケーション」では,癌の診断について初めて患者さんに話さなければならない時の基本方針の立て方や,患者さんがどの程度まで知りたいと思っているかをつかむ質問の方法や話し合うための準備,理解度のチェックについても多くの場面を設定し,かつ具体的なコミュニケーションがあげられている。中でも,スタッフが患者さんに関わりすぎた時や,患者さんが何も話さなくなった時にどのようにチーム内で解決していけばよいかという点についても記述されているが,これはカンファレンスをする際に非常に役立つと思える。
 セクションC「痛み以外の不快な症状のコントロール」では,口臭,食欲不振,口内の荒れ,嘔吐,嘔気,便秘などの消化器症状や錯乱,不眠,呼吸困難についてまで,さまざまな方向からのアプローチが記されている。またここでは実際に行なったケアの評価,さらには将来に起こりうる問題についてもその援助方法が示されているのはありがたい。

患者サイドに立ったケアの展開

 セクションD「ケアの展開」では,患者側のニーズの中でも,民間療法を望む場合や霊的なニーズへの対応について説明されている。患者さんは,不治の病気のために藁をもつかむ気持ちとなるであろうし,残り少ない日々の生活の質の向上を願い,自ら積極的に選択できることで,この現に存在する最悪な事態を乗り切れるという気持ちにつながるのであろう。患者さんが民間療法や霊的なニーズについて話した時に,医療者である私たちは患者さんへの援助で何か見落としているものはないだろうか,またこれ以上の援助ができないという印象を患者さんに与えていないだろうか,ということについて話し合う必要がある。
 時として,患者さんは何か他の要求を民間療法を受けたいという表現で訴えていることがある。今でも全力で治療にあたっているという医療者からの説明がもっとほしいと思い,そのことで安心感を得たいという気持ちを表していることもある。そのようなことを確認した上で,患者さんの考えている民間療法や霊的なニーズがどのようなものであるのかを,患者さんや家族の方から情報をアセスメントし,現在行なっている通常の治療の有用性についても説明する必要があるだろう。
 このセクションでは,このような患者さんのさまざまなニーズへの対応のほか,病棟をもっと家庭的な環境にすること,また死が近づいた患者さんを個室に移すべきかどうかという問題についても,患者サイドに立ったケアの展開が詳しく説明されている。

臨床でおこりうるさまざまな問題への対応を提示してくれる

 緩和ケアについては,「ホスピス」という限られた施設のスタッフだけでなく,すべての医療スタッフが知っている必要がある。
 看護教育や医学教育において,一部の教育機関ではデスエデュケーション,緩和ケアといった形での教育を授業に取り入れているところも出てきた。その内容は,実際に告知の場面を学生それぞれが,患者,家族,医師,看護婦などの役割を分担しロールプレイングを行なった後に,全員でディスカッションをしたり,自分が癌になり余命3か月と診断されたと想定し,残される家族や愛する人へ手紙を書いてみるといったユニークな授業となっている。
 しかしながら,このような取り組みをしている教育機関はまだまだ少なく,欧米に比べるとやっと一歩を踏み出したばかりの状況である。
 本書は,臨床でしばしば起こりうるさまざまな問題に対し,医療チームとして行なおうとしている決断や,直面する問題解決に向けての助けとなる行動,アプローチの方法をわかりやすく提示してくれる良書である。緩和ケアに携わる医療者は特にであるが,看護を実践するすべての人や看護学生にも,ぜひとも薦めたい1冊である。
(A5変・頁296 税込定価3,090円 医学書院刊)


元気をくれる24時間体制の実践記録と分析

始めよう! 24時間訪問看護・介護 村嶋幸代 編集

《書 評》河 正子(東大講師・成人保健・看護学)

 訪問看護の実践は,増大する必要性に応えて地道に続けられてきた。しかし「24時間訪問看護・介護」となると,“それは理想だと思うけど……”という声があがるのではないだろうか。
 本書はそんなためらいの声に対して“大丈夫”と実践の記録を提示してくれる。さらにその実践の緻密な分析・評価から今後の指針を導き出し,「始めよう!」と元気よく呼びかけてくれる。

24時間体制の本質とは-示唆に富む事例・分析結果

 本書は厚生省から助成された「平成6年度訪問看護ステーションによる24時間看護・介護のモデル事業」,平成7年度の「24時間対応型在宅ケアシステム」のモデル事業の成果により編集されたもので,3部構成となっている。
 第1部はモデル事業からの実践記録「現場から-24時間体制を試みて」であり,豊富な事例が提示される。自分自身が病院やホスピスで出会った事例と重ねあわせながら一気に読み進んだ。そして“24時間看護・介護”が基本的にごく普通の観察やケアから成り立つものであることがよく理解できた。
 24時間体制の本質は,第2部のモデル事業の分析結果「24時間訪問看護・介護の必要性と効果」において一層明確になる。対象者からの緊急コールに備えて24時間待機すればよいというのではない。24時間密着してケアをしなければならないというのではない。要は対象者と介護者の“24時間の生活の流れ”をよく知り,いつ何を援助するのが最も効果的であるか判断することなのである。分析結果から示唆される「時刻ごとに発生するニーズ」と「まとめて対応できるニーズ」という視点から,早朝や準夜帯の訪問の意義がより明らかとなる。また,的確なケアプランと緊急対応の保証があればターミナルケースへの対応も十分可能であるということが納得でき,心強い。

多様な視点と具体的な方法の提示

 第2部の後半には,訪問看護ステーションの管理面,さらに社会的コスト面での検討があり,広い視野へと導かれる。しばし制度の充実に思いを馳せる。
 続く部分では「そのひとらしさを24時間支えることの意味」が論じられる。セルフケア理論による事例のきめこまかな分析である。多様な視点の絶妙な配置。訪問とは他者が生活に入り込むことになるという点が検討されていることも嬉しい。
 そしてしめくくりの第3部「始めよう!24時間訪問看護・介護」。24時間訪問看護・介護に取り組むための方法が具体的に示されている。モデル事業に参加した訪問看護ステーションが24時間体制をどのように整備したかは,即役立つ情報であろう。加えて,特に頁を割いて書かれた看護職と介護職の役割とその連携についての論述は時宜にかない,両職種の今後の発展・協働への示唆に富む。
 熱意と理性との幸せな結びつきを実践と学術的思索により実現された編者,執筆者,事例提供者諸氏に敬意を表し,在宅ケアに少しでも関心のあるすべての人に,本書をお薦めする。
(A5・頁200 税込定価2,266円 医学書院刊)