医学界新聞

「家族看護」の実践者,L・ライト氏が来日

「家族看護モデルワークショップ」が開催される

森山美知子(山口県立大学)


 昨年11月23日(東京),24日(大阪)の両日,家族アセスメント・介入モデルの開発で知られるロレイン・M・ライト氏(カナダ・カルガリー大教授,家族看護ディレクター)とファヴィー・ドゥアメル氏(カナダ・モントリオール大助教授)が来日し,「家族看護モデルワークショップ」(座長=東大教授 杉下知子氏)が開かれました。今回のワークショップは,主に教育者を対象としたもので,「家族看護モデルの紹介」からはじまり,「家族看護研究の実際~その動向と諸問題」や「家族看護教育」に関する両氏の講演を中心に行なわれました。また,昼食時には軽食をとりながら両講師となごやかな雰囲気の中で意見交換をする場も設定。この昼食会は参加者の関心も高く,多くの質問も出されました。

「家族看護学」とは

 従来の病院看護では,入院している患者の背景に家族があるというとらえ方で,その中からキーパーソンとなる人を見つけ出し,その人を中心に食事指導や病状説明を行なう方法をとっていました。しかし,1970年代の後半から発達してきた「家族システム看護」は,例えば食事療法が守れない患者に対しては,家族を集め,家族全体で患者を支えるべく,ともにどうしたらよいのかを話し合っていくというように,患者を含む家族を1つの単位とみなして看護をするという方法です。
 ここでは,従来から行なっているような家族への精神的・身体的サポートや助言・教育をするというだけではなく,家族本来の持っている自然治癒力を最大限に引き出すことを目的に,その問題解決への糸口を見出すための介入をします。家族は常にどこかでバランスも保っています。ですから,このバランスを崩した家族へ介入,援助し,患者と家族の起こす悪循環を解決することで,家族はバランスを取り戻すはずです。
 このような,家族自体を治療・介入の対象とした家族システム看護を展開するためのモデルを開発したのが,今回の講師であるライト氏です。ライト氏は,現在カルガリー大で家族看護学を講義する一方で,大学院生らと「家族看護外来」を開設し,家族の治療,援助にあたっています。また,家族看護学の世界的第一人者として活躍しており,1988年にカナダのカルガリーで開催された第1回国際家族看護学会の会長を務めました。この学会は,以降1991年(米・ポートランド),1994年(モントリオール)と3年ごとに開催されています。ライト氏はその他にも毎年5月に世界中の看護婦を対象に「家族看護学」のセミナーを開催,講演を行なうなどの活動とともに,“Nurses and Families-A Guide to Family Assessment and Intervention, 2nd ed.”(M.Leaheyと共著)を出版。1994年度の“American Journal of Nursing”誌の“Book of Year”の1冊に選ばれ,その翻訳は欧州各国におよび,日本では『家族看護モデル―アセスメントと援助の手引き』(医学書院刊)として,筆者が日本版にアレンジして紹介させていただいています。

家族看護研究は実践に基づいて

 ライト氏らは「カルガリー家族看護アセスメントモデル」を紹介し,家族の構造や家族の発達,家族の機能などを解説。また北米の中流階級家族の一般的なライフサイクルを紹介するとともに,北米が抱える最大課題の1つでもある離婚した家族,再婚した家族,養子をとった家族のライフサイクルとそのアセスメントの枠組みなどを披露。さらに家族研究と家族関連研究の違いなどを示し,実践に基づく家族看護研究の必要性を強調。これまでにどのような研究がなされてきたのかについても,家族看護研究のテーマなどから紹介するとともにその問題と課題についても解説しました。ただ,参加者(東京161名,大阪143名,看護大学,短大,看護学校等の教員52%,大学院生15.5%,大学・短大生5.3%,臨床看護婦22.7%)の多くは,「家族看護教育をどのように行なうのか」に期待されていたかと思いますが,短い時間の中では十分に展開することができませんでした。

日本人はインタビューを好むか?

 会場ではアンケートをとりましたが,その中には「内容が盛りだくさん」や「学術的・研究的すぎて現場とは乖離」「実践場面をもっとビデオなどで」などの意見がありました。一方で,「研究と実践の相互乗り入れが必要,実践抜きには説得力を持たない」「地域においては家族への援助を求めていないケースもある」という意見や,「西洋的発想モデルが日本でどこまで有用か,日本人はインタビューを好むのか」「日本の家族は境界が明瞭で他者の介入を許さないのでは」と危惧する声もありました。
 しかし私たち(森山と山口県立中央病院看護部)が患者さんや家族にインタビューの趣旨を伝えると,患者さんたちは快く承知してくれますし,いまだに拒否をされたことはありません。むしろ最近では,家族インタビューをしていることを聞きつけ「私の家族にも話を聞いてほしい」と願い出る患者さんもいるほどです。ですから,なによりも「まずやってみる」という姿勢も,これからの看護実践においては必要なのではないでしょうか。このことは,私だけではなく,当日講師をされたライト,ドゥアメル両氏の意見でもあることを申し添えて,報告に代えさせていただきます。
 なお,本年11月に南米チリのヴァルビディアにおいて,第4回国際家族看護会議が開催されますが,筆者は山口県立中央病院の看護婦らとともに,これまでの体験を基にした演題発表を予定しています。