医学界新聞

人間の尊厳と看護科学をテーマに

第16回日本看護科学学会が開催される


 第16回日本看護科学学会が,稲岡文昭会長(日赤看護大教授)のもと,昨年12月6-7日の両日,東京・新宿区の日本青年館で開催された。
 「人間の尊厳と看護科学」をテーマに据えた本学会では,開会冒頭に行なわれた会長講演「看護への叡智」のほか,特別講演「国際救護と人間の尊厳」(日赤学園 近衛忠輝氏)およびシンポジウム(1)癒しの概念と看護実践(司会=聖路加看護大 中山洋子氏,日赤看護大 筒井真優美氏),(2)看護診断と実践家の能力(司会=健和会臨床看護研究所 川島みどり氏,日赤看護大 黒田裕子氏),(3)新しい法律・制度と人権(司会=神戸市立大 中西睦子氏,日赤看護大 武井麻子氏)が開かれ,各セッションで熱心な討議が行なわれた。
 また,一般演題(ポスターを含む)は200余題におよび,看護教育,看護管理,看護実践,コミュニティケア,慢性病および障害を持った人へのケア,看護研究といった部門に分かれ発表が行なわれた。その中でも,多くの参加者が詰めかけた看護管理の部門では,看護管理の新たな方向性が示されるとともに,フロアの参加者も討論に加わり,その実現の可能性に関する討論が熱く交わされた。さらに,高齢者や慢性病に関するセッションでも現実を見据えた問題が指摘される一方,今後の看護の可能性が示唆される発表などが行なわれた。

看護診断と実践家の能力に焦点

 シンポジウム「看護診断と実践家の能力」では,最初に司会の川島氏から「日本の看護界にも導入されはじめた看護診断をめぐっては様々な意見があることは事実だが,今回はその是非をめぐる論議ではなく,的確な看護診断と実践家の能力はどのように連動するのかについて学術的に論議したい。看護診断を用いるために,実践家にはどのような能力がなぜ必要とされるのかに 焦点を当てたい」との主旨が述べられた。
 幸阪貴子氏(国立がんセンター中央病院)は「臨床における看護診断導入の効果的な学習の進め方」を発表。1995年に導入されたスーパーコンピュータにより,がん研究部門だけでなく,診療支援体制,患者サービスの分野でも連携が図れる情報システムの構築が可能となったことから,看護部でも情報の効率的利用促進のために,看護診断を導入。「的確な教育計画をもって看護診断を前提とした看護過程が展開できる」ことを目的に,中堅以上のスタッフが事例検討を中心としたグループワーク学習をした経過を報告。診断ラベルとコンピュータの関係についても解説した。
 山崎不二子氏(国立習志野病院看護学校)は,国立肥前療養所でのコンピュータによる看護過程・看護診断支援システムの開発運用に関して,「臨床からみた看護診断の有用性」と題し意見を述べた。「看護診断を看護過程の中に位置づけ,システムとして運用すると臨床看護では有用な結果を生み出す。また,看護婦による看護過程・診断の展開能力が本質的には重要である」と強調した。
 一方,井上郁氏(高知女子大)は「看護診断の影響と課題」の中で,「流行りとなっている看護診断」に対し,「新たなシステムとして改革するだけの必要はあるのか。使わないといけないと思っているのではないか」など疑問を呈した。井上氏は,「ラベリングのマニュアル化は,ラベルに当てはめるだけでよしとする可能性もあり,特に基礎教育では学生の自由な発想をおさえてしまいかねない。分析をすればするほど人間性を見失うことになるのでは」と危惧し,看護ケアの特性からの問題点を批判的に吟味する必要性を訴えた。
 最後に野島良子氏(広島大)は,看護者の妥当な看護診断能力を育成するためには,基礎教育において手がかりと推論の関連についての丹念な学習指導から出発する必要があるとの見解から,「手がかり,推論,そして看護診断能力の発達」と題し口演。初心者が理解すべき「人は何らかの手がかりによって推論(判断)している」などの7つの判断過程の原則を提示した。

フロアからも多くの発言が

 総合討論の場では,「学生にとって看護診断は関心づけへの道具となる。抽象化したラベリングではなく,イメージしたラベルづけが必要」(千葉大 薄井坦子氏),「看護診断は完成されたものと捉えられがちだが実際には動いている。現場で使えることを前提として推進していくもの」(阪大 松木光子氏)など,看護診断と看護実践能力や事例研究との関連について,壇上とフロアで熱心な論議が交わされた。
 本学会は,演者と参加者がともに意見交換をする時間が多く割かれたのが特徴でもあった。それでも討論途中で時間切れとなったのは,学会に期待するものが大きいからとも言えるのではないだろうか。次回は中西睦子会長(神戸市看護大)のもと,本年12月5-6日の両日,神戸市で開催される。