医学界新聞

1・9・9・7
新春随想(3)

肝硬変合併肝癌の第5の治療法

長谷川 博
(茨城県立中央病院長)


 肝硬変合併肝癌の治療は,リピオドール系の肝動脈塞栓術,腫瘍切除術,エタノールの注入,それに最近の陽子線治療の4つに大別される。しかし,私は5つ目の治療があると確信しつつ新年を迎えた。
 発想の原点は苦し紛れの治療依頼から始まった。約5年前に友人E君が「兄弟の1人が尾状葉にも肝両葉にも,計8~9個の散在性腫瘍があり,TAE(肝動脈塞栓療法)を4,5回反復してもらったが,1万ナノ以上のAFP(アルファフェトプロテイン)が依然として上がるばかり」と言う。
 平成3年に赴任した茨城県立中央病院での私の方針は「原発は5個まで,転移は10個までは取る……ただし,取りやすい場合のみ」であったから困り果てた。苦肉の策で開腹のうえ局所注射をすることにした。国立がんセンター時代に作った「1ミリ単位の正確さで刺せる」小道具(USガイド下で針先もよく見える)を持って前立ちをした(日本消化器外科学会に発表)。詳細は省くが,患者は4年8か月後の現在も健在で肝臓には腫瘍が見えない(ただし当院で肺転移を胸腔鏡下に2回切除した)。
 よく聞く話だが,外科医は乱暴,内科医は慎重と……。私は外科医のせいか,そうは思わない。エタノール注入の時に,肝静脈らしい血管に4~5cc(控え目でも2cc)白い影が流れ込むのをエコーで見ていると,身の毛がよだつ。私なら開腹してやってもらうだろう。繰り返し開腹するのは手間と負担が大きいので,1回のチャンスに何度も角度を変えて刺し,ハレーションを起こすエタノール注入を最後にする。
 このような第5の肝硬変合併肝癌の治療の良い点は,関係者-関係科がギブアップした患者さんに使える点で,多忙な手術室と「気を使う術後管理」がネックかもしれないが,1つのブレークスルーであろう。
 最近も,TAEもエタノール注入も適応外の症例(右・中肝静脈周辺に多発する肝癌結節とS6断端の再発)に対し「第5」の治療を行ない,術後CTでは全部の結節が動脈,門脈相とも染まらず,丸い小壊死巣に変わったのが確認され,AFPも10ナノ以下に低下し健存中の経験がある。
 「見放し見放された症例の一部」への,控え目な新年のご挨拶としたい。