医学界新聞

「基本的臨床技能の教育法ワークショップ 」開催

身体診察や医療面接の効果的な教育・評価法を学ぶ


 昨年11月22-24日,東京の日赤武蔵野女子短大で,「基本的臨床技能の教育法ワークショップ」(主催=日本医学教育学会「基本的臨床技能教育法ワーキング・グループ」)が開催された。
 このワークショップは,卒前教育において,基本的な臨床技能(医療面接や身体診察など)を学生に効果的に修得させるための教育・評価の手法を学ぶことがテーマ。各医科大学・医学部の臨床技能教育担当者(予定も含む)28名が参加し,合宿形式で行なわれた。なおスタッフは上記ワーキング・グループ主任の津田司氏(川崎医大教授)の他,畑尾正彦氏(日赤武蔵野女子短大教授),伴信太郎氏(川崎医大助教授),藤崎和彦氏(奈良医大教授),中村千賀子氏(東医歯大)の計5名が担当した。

 ワークショップ参加大学
岩手医科大学       金沢医科大学
自治医科大学       信州大学
埼玉医科大学       藤田保健衛生大学
防衛医科大学       関西医科大学
千葉大学         大阪医科大学
日本大学         大阪市立大学
帝京大学         近畿大学
東京大学         兵庫医科大学
順天堂大学        和歌山県立医科大学
東京医科大学       岡山大学
東京女子医科大学     広島大学
聖マリアンナ医科大学   山口大学
横浜市立大学       九州大学
北里大学         佐賀医科大学

先進的な教育手法を ワークショップ形式で学習

 ワークショップは (1)臨床技能教育の目標,(2)臨床技能教育の方略と評価,(3)臨床技能の評価表作成,(4)医療面接の臨床技能教育,(5)身体診察の臨床技能教育などの項目に沿って進行した。要所要所で津田氏らによるレクチャーもあったものの,構成の中心は小グループ(4班)でのディスカッションと全体討議。提示される課題ごとにグループでディスカッションを行ない,それぞれの結論を全体討議で報告し,議論するという形式で行なわれた。

 

 医療面接・身体診察の学習法として,書物,講義,見学,練習などの方法が考えられる。また,評価法にはペーパーテスト,口頭試問,そして実地試験に最適とされるOSCE(objective structured clinical examination:客観的臨床能力試験)がある。ワークショップでは,効果的な教育手法とされるロールプレイ(学生同士が患者役,医師役,評価者となって練習する)やSP(模擬患者,標準模擬患者=患者役として一定の標準的対応ができるよう訓練を受けた者)を用いた練習,またOSCEによる評価についての具体的な学習がなされた。

学生のつもりでロールプレイ

 ロールプレイ,SP,OSCEについては,解説・グループ討議(導入にあたっての問題点など)の他,参加者がその実際を体験する場面も設定された。
 はじめに参加者が互いに医師役・患者役となって,医療面接のロールプレイを実施。グループ討議で感想を抽出した後,今度は各グループに1人ずつのSP(東京SP研究会所属)を迎え,グループの中の1人が医師役となって,初診患者を想定した医療面接実習を行なった。SPに関しては,その後の討議で「学生同士のロールプレイよりも臨場感,緊迫感がある」「SPからのフィードバックは有用」「コミュニケーション能力の教育に適している」などの意見が出された。さらに医療面接の意味や具体的な教育手順,教育上の留意点などについての解説も行なわれた。
 身体診察に関しては,各大学での現在の教育の問題点についてディスカッション。設備・人員不足,目標設定,評価,実施時期,テキスト,男女共学の場合の配慮など,克服すべき課題があげられた。またレクチャーでは,アメリカの教育用ビデオや,オランダ・リムバーグ大(本紙第2219号参照)の教育を解説したビデオ,また各種の教材も紹介された。

OSCEの実際を体験

 2日目までの議論を経て,ワークショップ最終日には実際に,武蔵野日赤病院の研修医(1年目)5名を受験者役にしたOSCEが行なわれた。
 会場となった体育館には5つのステーション(試験場所)が置かれ,ワークショップ参加者たちはグループに分かれて,評価者として各ステーションに配置された。患者役には,医療面接ではSPが,その他のステーションでは現役の医学生が扮した。
 各ステーションで出された課題はそれぞれ(1)医療面接,(2)バイタルサイン,(3)腹部診察,(4)脳神経診察(5つめのステーションでは休憩)。受験者は1ステーション5分間の実技を終えたのち,2分間のフィードバックを受け,次のステーションへと移動する。評価者は各受験者に対する評価を評価シートに記載し,交代でフィードバックも担当した。
 OSCEについては文献や言葉でいくら説明されても,実際の様子を体験しないことにはその概要をつかみにくい。デモンストレーション終了後の全体討議では,課題の出し方や試験時間,国家試験への導入の可能性など,参加者から具体的な質問が出され,OSCEに対する理解の深まりをうかがわせた。

 
 

すぐにでも実践できる

 今回のワークショップのねらいは,ここで学んだ教育手法を各大学ですぐにでも実践できるように,細かいノウハウまで修得すること。そのため,配付された資料は,医療面接・身体診察教育の基本や方法の解説,ロールプレイ用の症例(シナリオ),またOSCEの評価シートや評価マニュアルなど,そのまま教育の場で使用できる内容になっている。周到に準備された資料には参加者の評価も高かったようだ。
 参加大学の中にはOSCEなどを導入する計画をすでに立てているところもあり,主催者側では1年以内に参加者にアンケートを送り,各大学の状況を調査することにしている。なお同様のワークショップは今後も継続して行なわれる予定。