医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

循環器の最新情報を患者に役立てるための書

心血管内イメージング 血管内エコーと血管内視鏡 山口徹 編

《書 評》町井潔(聖路加国際病院,三井記念病院顧問)

 本書は,副題が「血管内エコーと血管内視鏡」となっているが,実質的にはほとんど冠動脈のイメージングについて書かれている。
 冠動脈内エコーと内視鏡は5~6年前より実用化され,はじめは研究レベルであったものが,その後カテーテル径の縮小や装置全体の改良により急速に普及し,多くの病院でルーチンに行なわれるようになっている。本書はこの最新の検査法について,装置,使用法,適応,冠動脈造影やPTCAとの関係について網羅したわが国では最初の本である。
 本書では,数多くの術者が自分の経験を基にして執筆している。画像診断は見てすぐわかる反面,人による読み方のわずかな差が問題になることがあり,その点で異なる人の読み方は臨床上大変役に立つ。読者は読みながら執筆者による微妙な違いに気づくし,また自分で取り組む際に,それらが大いに参考になることを実感するであろう。
 また,本書は冠動脈造影をルーチンにやっている人が,冠動脈内エコー,ドプラ,血管内視鏡を手掛ける場合,すぐに役立つものである。同時に,一般の心臓医がこの新しい情報を知るためには必読の本である。いやしくも心臓専門医ならば,自分が実際にやっていなくても,この程度は知っておく必要があろう。
 本書は新しい冠血管内エコーと内視鏡について網羅した内容を持っている。冠動脈造影をやっている人には,これらの新しい情報を患者のために役立てたい時の実用的参考書として,また,一般の心臓医には今や必須と考えられる新しい知識を提供する本として,是非ご一読をおすすめしたい。
(B5・頁232 税込定価14,420円 医学書院刊)


C型肝炎の現状を克明にとらえたテキスト

C型肝炎 林紀夫,清澤研道 編

《書 評》織田敏次(日本赤十字社医療センター名誉院長)

 医学書院よりこの度,林紀夫,清澤研道両博士の編集による『C型肝炎』が上梓された。現在,活発に肝炎の臨床に専心しておられる両博士である。同好の士あい集い,現状がより克明にとらえられている,ぜひお薦めいたしたい。

わが国の肝炎研究の土壌

 国をあげてのわが肝炎研究陣も,B型には一応のメドを……。さては非A非B型肝炎へと,行政の支援もとりつけたやさきの1988年秋,筆者に一通の招待状がカイロン社のRutter氏より届く。非A非B型肝炎ウイルスの診断法を開発したので評価してほしいと言われる。早速にNIHでの会合に向かうのだが,内心おだやかではない。しかし,本物ならば1日も早く手に入れなければならない。その秋にはRutter氏が来日し,西岡久壽彌博士とともにさるホテルで朝食をとりながら,交渉に熱が入る。おかげでC100-3抗体をいち早く手に入れ,数か月後にはわが国での全貌をほぼ把握し,輸血によるC型肝炎は激減,不幸中の幸いと言わねばなるまい。
 それ以後のC型肝炎の成績が本書にはほぼすべて,要領よく網羅されている。
 第1章には「C型肝炎ウイルスの基礎」。日本のHCV基礎研究グループのup to dateの研究成果が実にわかりやすく述べられている。わが研究陣のこれまでの生データをまとめて立派に構成されている。HCV研究の中で,日本の基礎研究グループが果たしてきた役割を客観的に知ることもできる。わが国の肝炎研究の土壌を感じさせられる。

最前線に立つ若い臨床家に有用

 第2章,3章を構成しているのは,これらの基礎研究に裏打ちされて開発された新しい技術が新しい成果を示す「C型肝炎の診断と疫学」,「C型肝炎の病態」である。新しい技術のcriticalなevaluation,そしてその技術を使って何がわかったか,それらはC型肝炎ウイルスおよびその感染症の理解にどのように結びつくのか,多岐にわたり記述されている。読みごたえのある章である。
 ただこれらのデータもまた,常に新しいデータによって変わるべきものである。C型肝炎ウイルス感染の最大の問題は,高い頻度の慢性化である。そしてウイルスこそ肝癌の元凶。なおこれには一段のブレークスルーが必要であり,人一倍それを認識している編者の意図を逆に感じることもできよう。
 第4章,5章は実際の臨床と治療法が詳述されている。特に患者のマネージメントについてきめ細かく書かれている。最前線にたつ若い臨床家には有用であることはいうまでもない。
 それにつけても……。国立予研の宮村達男博士がHoughton氏とともに1982~83年にかけて,設立まもないカイロン社に向かう。非A非B型肝炎の肝組織と正常な肝組織から各々RNAを採り,肝炎の組織のみに存在する特異的なRNAを“引き算”法により採り出そうとする。いくつかのクローンは採れたが,それは全て細胞に由来するもの。志方俊夫教授より提供された貴重な日本のチンパンジーの肝組織からは,よいRNAが採れず,途中からCDCのBradley氏と手を組み,キャリアチンパンジーの血漿からライブラリーをつくったところで宮村氏は日本に帰る。Houghton氏はその後もひたすら,執拗に追い続ける。Kuo氏が加わりハイブリダイゼーションによる“引き算”ではなく,cDNAを発現させた蛋白を,患者の特異的な抗体によって分別し,ウイルスに特異的なRNAを採ろうと。Choo氏はライブラリーを……,ついに155塩基対の5-1-1クローンが採れた。
 わが国の肝炎研究陣が積み重ねてきた研究成果を将来につなげるためにも,“元気を出そう日本”,あらためて思うのである。
(B5・頁306 税込定価11,330円 医学書院刊)


災害医療全般を網羅した画期的な書

災害医療ガイドブック 坪井栄孝,大塚敏文 監修

《書 評》小林国男(帝京大救命救急センター教授)

阪神・淡路大震災により災害医療への関心が深まる

 平成7年1月17日に神戸を襲った阪神・淡路大震災は,全国民を震撼させるとともに,わが国がいかに災害に対して無防備であるかを印象づけた。これまでにも災害はわが国で頻発しているが,局地的であったり人口の少ない地域に起こったために,国民の強い関心を引くには至らなかった。そのため医療関係者で災害医療に関わりをもつ医師はきわめて少なく,医学教育のなかで災害医療が取り上げられることもなかった。したがって,災害医療に関する単行書は,神戸に大震災の起きた以前には皆無であったといっても過言ではない。阪神・淡路大震災を契機にたくさんの書物が刊行されたが,これらは震災時の体験や,それを基に防災や災害医療のあり方を問う報告書の類がほとんどである。
 このたび,医学書院から刊行された『災害医療ガイドブック』(監修:坪井栄孝,大塚敏文,編集:国際災害研究会)は,災害医療全般を網羅した画期的な出版物であり,災害医療への関心が深まった今,誠に時宜を得た書といえよう。
 本書は3つの章から成り立っている。第1章の災害各論では,地震,火山の噴火,風水害などの自然災害はもちろんのこと,化学災害,航空機や列車の事故,テロや戦争などの人為的災害をも含むいろいろな災害について,個々の災害にみられる特徴とそれに対応した災害医療のあり方が述べられている。過去に起きた事例も記載されており,読者の興味をそそるように工夫されている。第2章の医療活動は,国内緊急災害活動と国際医療活動に分かれている。国内の活動では,災害現場での緊急活動に必要な手順,関係諸機関との連携,必要資機材の調達や管理,情報の管理,局地的災害に備えての病院の災害活動などが具体的に述べられている。一方の国際医療活動では,水の確保や被災民の保健衛生管理など救援現地での活動に不可欠な事項,救援出動や撤退に際しての手続きや留意点などが具体的に解説されている。第3章の災害医療の基礎知識では,防災体制や災害医療の基本的事項が記載されている。戦陣医療の存在しないわが国では,災害医療の専門家はきわめて少ないといわれているが,執筆陣は国の内外で積極的に災害医療に取り組んでいる数少ない専門家たちであり,彼らの熱意が行間から伝わってくる。

災害医療教育の教材として格好の参考書

 本書はガイドブックとした表題が示すように,実践を視野に入れて書かれており,全体で200頁の読みやすい本に仕上がっている。しかし,適切な災害医療のテキストがないわが国の現状を考えると,災害医療の基礎知識の第3章をもう少し充実させてほしかったというのが私の感想であるが,これは少し贅沢な注文であろう。災害医療の医学教育への導入が求められている一方で,災害医療の教材がないのが教育現場の課題と言われている。本書は災害医療の実践の手引きとしてばかりでなく,災害医療の教育の教材としても格好の書と考えられる。本書が災害医療の教育や実践に広く活用されることを期待するものである。
(B5・頁216 税込定価7,004円 医学書院刊)


不妊治療の最新情報をわかりやすく解説

不妊治療ガイダンス 荒木重雄 著

《書 評》金城清子(津田塾大教授)

不妊治療の現状を科学的・客観的な情報を提供

 不妊治療をめぐる動きはここのところ目まぐるしい。日本で体外受精がはじまった10年前とは,状況が著しく変化してきている。インターネットを通じて有料で優秀な精子と銘打って募集したら,大勢の提供者が名乗りでてきた。もともとは女性の不妊を治療するために登場してきた体外受精だったが,男性の不妊を治療する有効な技術が開発されて脚光を浴びている。
 本書では,不妊治療についての最新の医学情報が,よく整理され,たくさんの写真,絵図,グラフなどを使って,わかりやすく説明されている。そして不妊治療について,いたずらに期待をあおるのではなく,成功率などのデータもきちんと載せて,不妊治療の現状についての科学的・客観的な情報を提供している。一般不妊治療は1-2年,体外受精などの治療は1-2年と,治療の目安をはっきり書いているのも,治療を受ける人々にとって親切である。
 不妊治療を受けるのは,ほとんどの場合女性である。夫と一緒に行ったときには,医師は丁寧に説明してくれたのに,次に1人で行ったら何を聞いても答えてくれなかったなどという話がある。著者は,「素人には説明が難しいなどという治療はありません」と言い切っているのはさすがである。そして治療を受ける前に必ず説明を受けるようアドバイスしている。

医師から不妊に悩む人までを対象に

 本書は,医師,不妊相談・不妊学級の関係者,不妊に悩む人々などを対象としている。しかし体外受精は,不妊治療の範囲にとどまらない。外国では,受精卵の遺伝的特性を検査して,望ましい受精卵だけを女性の身体に戻す,着床前診断がすでに実施されている。体外受精は,将来,すべての人々にかかわりを持ってくるであろう。
 ところで日本の体外受精の歴史を振り返ってみると,心臓移植の場合と同じく,順調な滑り出しをしたとは言い難い。体外受精が一般の人々の理解を得て,その実施にあたっての幅広いコンセンサスを形成していく必要があるが,本書はそのためにもよい解説書である。新聞,テレビなどの関係者も,本書を読むことによって,いたずらに「倫理が問われている」という報道だけでなく,何がどう問題なのかを的確に報道してもらいたい。
 最後に一言。一般の医療では,インフォームド・コンセントの確立が大きな課題である。しかし不妊で生命を奪われるわけではないのだから,治療を受けるかどうかは,カップルの選択である。そのことを明らかにしていくために不妊治療では,「インフォームド・チョイス」という言葉を使ったらどうだろうか。
(B5・頁120 税込定価4,944円 医学書院刊)


救急医療を高いレベルでまとめた手引き書

今日の救急治療指針 前川和彦,相川直樹 総編集

《書 評》山本修三(済生会神奈川県病院)

 近年,わが国の救急医療は,一次,二次,三次救急という階層的体制の整備の下で,飛躍的に発展・普及,定着してきた。その発展の過程において,救急医療は試行錯誤を繰り返しながらも,救急医学という学問的基盤の進歩に支えられ,確実なものになりつつある。
 このように救急医学およびその臨床応用としての救急医療の専門性が明確にされる中で,これまでの各科対応の救急疾患に対する考えかたも大きく見直されつつある。
 今回,医学書院から発行された『今日の救急治療指針』は,このような広い分野にわたる救急医療の現時点での知識と技術をまとめたものである。その内容は生命危機への対応,機能障害の予防への対応など救急医療に共通する優先処置を柱に,一次から三次救急までの実用的な内容を含んでいる。

救急医療のすべての分野を網羅

 本書は第1章,救命処置を要する致死的病態の項目に始まり,症状,徴候からのアプローチ,各科救急疾患,外傷,中毒,環境異常などに加え,救急のための手技,検査・診断なども独立した項目として取り上げられている。また,感染の問題,集団災害への対応なども重要な項目として解説されており,最後の第14章,救急医療体制の知識・法規に至るまで救急医療の全ての分野を網羅している。
 本書の著者らは,現在,救急医学に携わる現場の指導者を中心に,各科救急疾患の部分ではそれぞれの専門家が担当し,各項目で一定の書式のもとにまとめられている。したがって,それらの内容は単なるノウハウではなく,新しい内容を盛りこんだ理論にも触れており,また,手技では具体的な記載に加え,ピットフォールも記述されている丁寧さがある。付録として,救急室の整備と機器,救急常備薬,救急薬品の投与法,検査基準一覧なども記載されている。
 構成では目次に続いて,欧文略語がまず整理されており,本文,付録のあと末尾の索引は邦文,英文索引がそれぞれ独立して記載されているのも本書を使いやすくしている要素といえる。ハンディに救急処置室で利用できるタイプの本書であるが,その中に必要なものが全て整理されて含まれていることに編集の苦労が伺える。
 本書の総編集は東京大学の前川和彦教授と慶應義塾大学の相川直樹教授があたっているが,このお2人が救急医学の分野で医学,臨床の実力を備えた優れた論客であることはよく知られている。このお2人の編集姿勢が本書のきめのこまかさと厳密さにつながっているといえよう。
 本書は救急医療の知識,手技など現在の高いレベルでまとめあげた手引き書として極めて利用価値が高い本であり,研修医はもちろん,各科のレジデント,さらには救急医療に携わるベテランの医師に至るまで,利用されうる実用書といえよう。
(B6・頁800 税込定価13,390円 医学書院刊)


世界的な胆石研究の成果を一冊に

Cholelithiasis Causes and Treatment 中山文夫 著

《書 評》奥田邦雄(千葉大名誉教授)

 このたび私の畏友,九州大学名誉教授中山文夫君が医学書院より『Cholelithiasis Causes and Treatment』を上梓された。本書は素晴らしい名著であるの一言に尽きる。
 最初の頁にAschoff教授が1909年に描いたコレステロール結石の割面の絵が示されているが,驚くほど正確に克明に描写されている。序文に中山教授が九大第1外科に入局して三宅博教授から「胆石をやらないか」と言われ,即座にそのように決心したこと,胆石の材料となる胆汁の理解のため有機化学を勉強され,外科医としてユニークな地位を打ち立てられた経緯が述べられている。中山教授は学問はもとより,語学に非常に長けておられ,この本の英語は日本人が書いたとは思えない高級なものである。

正確で詳しい1500の文献

 内容は胆石の分類から始まり,胆石症の病理,世界の胆石症の疫学,胆石の組成の地理病理学的な相違などが詳しく述べられている。疫学の章の中に中山教授の前二代続いた三宅教授の御写真が載せられている。筆者は中山教授の主宰したある国際会議の機会に二代目の三宅博教授にお目にかかる幸運にめぐまれたことを思い出す。
 次の章は胆石の形成機序に関する詳しい解説で,コレステロール結石の生化学的基礎,すなわち胆汁の組成,その変化,胆汁酸の役割,核形成の機序,胆嚢の機能と石形成のかかわりあい,病因因子に関する諸情報とその解析,色素結石の形成機序,動物における胆石の形成,胆石の実験的研究,胆石症の臨床,診断法,ウルソ等を含めた治療法,そして最後の章で肝内胆石症を詳しく述べておられる。三宅教授の頃,日本では肝内結石が非常に多かったが,最近著明に減ってきたことは筆者自身経験し興味を持ってきた点であり,その経時的変化も詳しく述べられている。
 この本の特筆すべき特徴の1つは正確で詳しい文献である。1500に近い文献がアルファベット順に,著者を略さないで示されているということは,それだけの文献を本文中に引用しているということであり,個々のstatementが責任をもって,すなわち文献に基づいてなされているということである。現在の日本の医学書の過半は内容の個々のstatementに責任のない書き下しに近いものである。その違いは学問を真面目にやった学者とそうでない本書き屋の違いであり,後者は中山教授を見習ってほしいものである。

最もup dateな内容

 私事になるが,中山文夫君が九大第1外科教授に選ばれた時,私は久留米大におり,周囲の話題になったことを覚えている。九州大学は臨床の教授に生化学者,すなわち学問をやるほうを選んだということに私は非常な共感を覚え,そのアカデミーを賞賛したことがこの間のような気がする。中山教授は世界の胆石研究のメッカをさらに維持推進され,その成果がこの本の形となって残されたものである。正確でわかりやすく,最もup-dateな内容を誇る本である。諸説粉々の胆石生成機序を含めて極めて理解しやすくかつ簡明に解説されている。一般の消化器病を専攻する医師をはじめ胆道系に関心のある方々に是非この本を読まれるようお勧めすると同時に,中山教授ならびに奥様ハンナ様の今後のますますの御健勝を祈り上げて筆を置く。
(B5・頁312 税込定価14,420円 医学書院刊)