医学界新聞

第10回日本エイズ学会開催

化学療法の現状を満屋裕明氏が講演


 第10回日本エイズ学会(会長=神奈川県立こども医療センター 長尾大氏)が,さる12月6-7日,横浜市の関内ホール他で開催された。
 学会では,臨床,疫学,分子生物,治療薬,予防,ケア,社会医学などの各領域で,約190題にのぼる一般演題が発表された。また,E.R.Stiehm氏(UCLA Children's Hospital)による「Maternal‐Infant Transmission of HIV Infection」,満屋裕明氏(米国立癌研究所)による「エイズの治療・現況と展望」の2つの特別講演の他,シンポジウム「HIV/エイズとカウンセリング-わが国におけるエイズカウンセリングの経過と展望」(座長=エイズ予防財団 山形操六氏,広島大保健管理センター 児玉憲一氏)などを企画。
 さらに一般公開シンポジウムとして,「HIV感染症のトータルケア」(座長=都立駒込病院 根岸昌功氏,神奈川県立こども医療センター 池田正一氏)が最終日に行なわれた。

多剤併用療法の効果

 エイズ治療薬AZTの開発者の1人である満屋氏は特別講演で,まず抗エイズ薬の現状について,逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤を中心に解説した。
 逆転写酵素阻害剤では,昨年までのアメリカとヨーロッパの治験で,AZT単独療法に比べて,ddI単独,AZT+ddI併用,AZT+ddC併用の各療法のほうが良好な結果(エイズ発症阻止,延命効果など)を得られることが確認された。また,非ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤であるネビラピン(昨年アメリカで認可)と,AZT,ddIとの3剤併用療法が,非常に高い抗ウイルス効果を示したことも報告されている。さらにプロテアーゼ阻害剤については,昨年アメリカで認可されたリトナビアとインディナビアの他にも,現在いくつかの薬剤が開発中である。満屋氏は昨年の国際エイズ会議でも報告されたように,AZT+ddI+インディナビアや,AZT+3TC+インディナビアの併用療法が,高い抗ウイルス活性を示すことを紹介。多剤併用の課題として多剤耐性の出現などを指摘した。

多剤耐性発現のメカニズム

 満屋氏は「アメリカで95年の秋まで4種だった認可薬剤数が9種に増えた現在,エイズの化学療法は大きな転換期にさしかかっていると言える」と発言。克服すべき問題として,(1)長期投与による慢性毒性の出現,(2)薬剤耐性HIV―1変異株の出現,(3)現存する化学療法のみでは免疫応答能の回復が不十分,(4)化学療法で延命した患者に悪性腫瘍が好発,(5)臨床効果の評価方法の開発,(6)高騰する治療費の6つをあげ,薬剤耐性の発現についてはさらに次のように解説した。
 HIVは,逆転写酵素に突然変異を起こし複数のアミノ酸を置換させて薬剤耐性を獲得するとされる。満屋氏はAZT+ddC併用療法時のアミノ酸置換場所などについての知見をもとに,多剤耐性発現の機序を詳説。HIVは複数のアミノ酸置換により自らの増殖能を犠牲にして薬剤耐性を獲得するが,さらに置換を加えて,結果的には増殖能を復活させると考察した。また,プロテアーゼ阻害剤に対する耐性HIVの出現についても言及。活性部位に近い部分が置換を起こすことで耐性が獲得されることから,その薬剤の再デザインによる耐性出現防止の可能性を示した。
 最後に満屋氏は,長期のウイルス増殖抑制と再感染の防止によってHIV感染症の「治癒」が実現するとの展望を述べ,今後も「基礎研究と表裏一体となった治療薬のデザインが必要」と結んだ。