医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

不妊を知るバイブル

不妊治療ガイダンス 荒木重雄 著 

《書 評》北村邦夫(日本家族計画協会クリニック所長)

結婚したカップルの10組に1組が直面する現実 

 1991年に,国連人口基金から発表された世界人口白書には,「女性が本当の自由を得るためには,自身が出生力をコントロールできるようになることだ」と記されている。妊娠するかしないか,産むか産まないかの決定権を女性自身が行使できるようになろうということだ。しかし,残念ながら今日の日本をみても,まだまだ「女は産むべきもの」という決めつけが強い。嫁ぎ先での舅,姑から「孫の顔が早く見たい」と求められて精神的なプレッシャーを感じている女性は少なくない。結婚しているカップルの10組に1組は子どもをもうけることが困難な不妊という現実があるのに,周囲は,このような2人に対して厳しい。
 生殖医学,中でも最近の不妊治療の進歩は驚くほどだ。かつては絶対不妊と言われていた卵管障害なども,今では体外受精-胚移植により妊娠の可能性を高めることができるようになった。男性不妊の原因としてあげられる精子減少症や無精子症には,他人の精子を受精する方法がとられている。倫理的な問題を含んでいるとはいえ,代理卵子,代理母なども出現し,不妊治療の進歩は不妊女性にとっては大きな福音であるかのようにも見える。しかし,それがために,ますます脅迫的な妊娠願望を抱かされている女性もいる。妊娠に一縷の望みを抱く女性と,不妊治療の進歩に賭ける医者との果てしない治療へのマラソンが始まる。
 結婚後の若く,はつらつとし,最も充実しているはずの20代後半や30代を医者通いに終始させてしまっていいのだろうか。もちろん,納得づくめの行動であるならば,それを否定はしない。しかし,女性は産むことが当たり前と言わんばかりの社会の犠牲になっているとしたら問題だ。産めない女性,産まないことを決めた女性にもやさしい社会であることこそ,成熟した社会の証ではないだろうか。

最先端の医療現場からの提言

 わが国の女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツに思いをめぐらしていた矢先,『不妊治療ガイダンス』に出会った。私の学生時代の恩師でもあり,わが国にあって世界に誇れる研究者の1人,荒木重雄先生の著作だ。カラフルな図版と欄外に書かれた引用文献の説明が読書欲を高めた。なかでも,不妊治療で守らなければならない2つの原則に,私の悶々としていた気持ちが一気に晴れることになった。(1)出生児が幸せに生きることができる医療であること,(2)第三者の苦痛やリスクを伴う生殖医療技術は用いるべきではないこと。
 不妊治療に当たる医師とそれを求める不妊カップルがややもすると目先のことだけにとらわれて見えなくなっている問題を,最先端の医療の現場から提言されたことに大きな意味がある。しかも,「できること」と「できないこと」とを明確にした点が小気味いい。この原則を遵守した医療が行なわれるならば,患者と医師との間に,従来にも増したいい関係を築くのに役立つだろうなと妙に感じ入った。 
 今年度から厚生省が事業化した不妊専門相談センターにおける相談マニュアルとしても広く活用できるものと確信している。
(B5・頁120 税込定価4,944円 医学書院刊)


MRIを学ぶ若い医師,研修医に最適

MRI診断演習 荒木 力 著

《書 評》高橋睦正(熊本大教授・放射線医学)

MRI読影力涵養のための入門書

 山梨医科大学の荒木力教授が『MRI診断演習』をご出版になったが,このようなMRI読影力涵養のための入門書が最近求められていたときでもあり,誠に喜ばしい。
 本書は月刊誌「medicina」(医学書院発行)に「MRI演習」として掲載されたものに全面的な改訂を加えて再編集し,出版されたものである。本書では,まず症例を呈示し,設問に解答することによってその章がスタートする。この設問はその症例の最も基本となる所見についての設問であり,読影上の最も重要なポイントを示すものである。次にその所見を示す疾患や鑑別診断について詳しい解説がなされている。鑑別診断はとくに詳しく記述され,同様なMRI所見を示す疾患がよくまとめられている。その疾患の理解に必要な文献があげられているほか,その画像や症例に関する解説が表や図を用いてなされている。また,その疾患についての必要事項が所々に「Note」として追加してある。
 本書で取り上げた症例はMRIの適応となるすべての領域にわたっており,頭蓋内疾患が多く24例,脊髄・脊椎疾患4例,胸部疾患4例,腹部疾患9例,骨盤部疾患8例であり,合計48症例が採用されている。巻末のAppendixおよびIntermezzoでは,磁気共鳴映像法の全般的な解説がなされており,MRIの原理や用語についていきとどいたわかりやすい説明がなされている。
 本書は,MRIをこれから診療に用いていこうとする人々や,MRIのいわゆる初学者のために書かれたもので,MRI読影についての基本的な態度,方法,考え方,とくに所見の把握から鑑別診断,最終診断に至る過程を学ぶことができる。放射線科医のみでなく脳神経外科,腹部外科などの各領域の若い医師,研修医に本書を広く推薦したい。荒木教授はこれまで数多くの著書を手がけられているが,どの著書も若い読者らに人気を博しており,今回出版された本書も同様に広く愛読されるものと信じている。
(B5・頁448 税込定価11,330円 医学書院刊)