医学界新聞

第17回日本臨床薬理学会 開催


 昨今の薬害問題に端を発し,医薬品の安全性のチェックや許認可制度など,医薬品行政は現在,大きな曲がり角に立っていると言えよう。そのような中,第17回日本臨床薬理学会が,水島裕会長(聖マリアンナ医大教授)のもとでさる11月1-2日の両日,東京の京王プラザホテルにおいて開催され,注目を集めた。
 今学会では,参議院議員でもある水島会長の「本学会は医薬品行政に対して学問的に取り組む使命を持ち,学問の発展に寄与することと同時に,なお一層社会的責任を果たすべきである」という意図を強く打ち出し,従来の学問的・研究的発表とともに,特別講演「Drug Research and Development Service in the United Kingdom」,会長講演「今後の医薬品開発と臨床試験」,また菅直人氏(前厚生大臣)がキーノートレクチャーを行なったシンポジウム「転換期の医薬品開発と医薬品行政」,ファイアサイドディスカッション「IRB(施設内審査委員会)の現状と問題点」など,医薬品行政と関連の深いテーマが企画された。


会長講演:今後の医薬品開発と臨床試験

 水島氏は,学会開催に先立って刊行された同学会編集による『臨床薬理学』(編集委員=日本臨床薬理学会認定医制度委員会:医学書院刊)の中の「新薬開発の展望」の章で,「民間のシンクタンク“医学・医療問題新政策研究会”によるわが国の医薬品開発の実態調査によれば,現在,国内で発売されている医薬品の総数(収載品目)は1994年7月の時点で,14,194と世界でも類をみない医薬品王国となっている。しかし,このうち極めて有意義と評価されるもの(A:画期的なもの,B:次に画期的といえるもの,C:それほど画期的ではなくても類似品がないか,類似品よりかなり有用性に優れるもの)はわずかに49で,Aランクにおよんでは2つしかない」と指摘している。
 そしてまた,「日本の医薬品は同種同効品の数が極めて多いことが嘆かわしい特徴である」とも記しているが,会長講演「今後の医薬品開発と臨床試験」においてもこの点を強調し,「これまでのわが国の医薬品開発は,国民のため,また国際貢献の観点からも数多くの問題点がある」とした上で,同時に参議院厚生委員会における発言や,厚生省に提出している「医薬品の行政改革のための質問書」など自身の体験に基づいて,この問題を解消すべく動き出した行政の動向を紹介した。
 ちなみに前掲書の中で水島氏は,「今後の医薬品開発のあるべき姿」として,(1)製薬会社,医学・薬学者および国民の自覚,(2)新医薬品の審査および薬価を付ける上での工夫,(3)国際的ハーモナイゼーションを視野に入れた臨床薬理学の発展,(4)医薬品開発センターの設置,(5)新薬研究促進会議の設立などを列挙している。また,1993年に施行されたorphan drug(希少疾病用医薬品)法案を概説。同法案には(1)患者数5万未満の重篤な疾病,(2)代替法がないなど,医療上特に必要性が高い,(3)開発の可能性が高い,などの基準があるが,「この制度は公布されてからまだ数年であるが,医療をめぐる医学会や国民のニーズ,すなわち“安全かつ画期的な医薬品を1日も早く医療現場へ”という要望に対して,極めて重要な制度であろう」と述べている。
 一方,新薬の臨床試験に関しては,1990年から「GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施に関する基準」が施行された。
 このGCPの骨子は,(1)治験は治験依頼者と医療機関の契約により実施する,(2)施設内審査委員会(IRB)の承認が必要,(3)被験者が治験に参加する際にインフォームド・コンセントが必要,(4)治験におけるGCPの遵守に関する記録の保存の4点であるが,水島氏は特に臨床試験の改善に今後最も必要と考えられる「インフォームド・コンセント」や「臨床試験の評価グループ」についても言及した。

シンポ:転換期の医薬品開発と医薬品行政

 会長講演に引き続いて行なわれたシンポジウム「転換期の医薬品開発と医薬品行政」(司会=水島裕氏,浜松医大 中島光好氏)では,まず菅直人前厚生大臣が登壇してキーノートレクチャー「国としての方針」を講演。菅氏は,「“省益”より“国益”が優先する」という持論を背景に,厚生行政の最高責任者として経験した数多くのエピソードを,時にユーモアを交えながら語るとともに,薬害エイズと今後の薬害防止対策のみならず,薬事行政組織の再編,O‐157対策も含めた国民および国際貢献のための医薬品開発,介護保険を含めた今後の医療保険改革,行政改革を含めた今後の政治の展望など,広範な分野にわたる意見を披露し,会場との活発な討論に応じた。