医学界新聞

第8回日本生命倫理学会開催


 第8回日本生命倫理学会が,竹内一夫会長(杏林大学長)のもと,さる10月23-25日の3日間,東京・新宿の安田火災海上本社ビルで開催された。
 今回は「生から死への生命倫理」をメインテーマとして掲げ,特別講演「フランスとヨーロッパにおける安楽死」,教育講演「バーチャルリアリティ技術による生命倫理のための緩和医療への利用」をはじめ,6題のシンポジウム,8つのテーマ別セッションで約70題の演題が発表され,広い学際的領域にまたがる生命倫理について活発な討論が行なわれた。

国際化の中での生命倫理

 初日に行なわれたシンポジウムI「生命倫理の国際化」(座長=日大教授 坂本百大氏,阪医大教授 太田富雄氏)では,国際化が進む中で生じるさまざまな生命倫理上の問題や,それらについての対応が論じられた。
 その中で坂本氏は,生命倫理は1960年代後半の技術革新に伴うテクノロジー・アセスメントの一環として生まれたものであり,古来からのいわゆる「医の倫理」とは一線を画するものであることを強調。また,科学技術革新が地球規模に拡大するにつれ,環境倫理への展開を見せはじめた生命倫理の思想は,その基礎となった欧米的なヒューマニズムや基本的人権の思想との齟齬が生じつつあることを指摘した。
 また,生命倫理の思想は現在微妙な転換点に立っているとし,「欧米的人権思想,ヒューマニズムの思想と東洋的な倫理思想とをいかにして調和させることができるかが,これからの最大の課題である」と述べた。

尊厳死と生命倫理

 2日目のシンポジウムIII「尊厳死とDNR(Do Not Resuscitate:)」(座長=社会保険小倉病院 武下浩氏,杏林大教授 三川宏氏)では,先端医療の発展に伴い生じる新たな倫理上の諸問題の中から,とくに尊厳死に関する問題に焦点を当てた討論が行なわれた。
 尊厳死の問題の中心となったのは患者(またはその代理人)の意思の尊重に関するものであった。立石彰男氏(山口大助教授)による「救急・集中治療領域での患者の尊厳とDNRの決定」においては,救急患者など意思確認が不可能な場合の「自己意思の尊重」について論じられ,意思決定代行者はどのような人物であるべきか,疾病罹患前に得られたリビングウイルが真に有効か,といった課題が提示された。
 リビングウイルの問題に関しては,赤林朗氏(東大)の「アドバンス・ディレクティブ(事前指示)の日本社会における適用可能性」においても触れられ,患者の意図はどのようにして医療者側に示されたらよいかが論じられた。