医学界新聞

ユニークな手作りセミナー

自治医科大学地域医療学サマーセミナー開催


 8月20日-21日,自治医科大学で毎年恒例の地域医療学サマーセミナーが開催された。自治医大の地域医療学教室のレジデントがセミナーの構成と進行を務め,非常にアットホームな雰囲気であった。今回は,第1日目のセミナーの模様をリポートしたい。

セミナーのオリエンテーションと参加者の自己紹介

 全国から集まった医学生18名(6年生9名,5年生11名,4年生1名)が自己紹介と抱負を語った。参加者の中には,20年の会社勤めを経て医師を目指している学生や,へき地医療に関心を持ち過疎地での実習を経験した学生などもおり,このセミナーで何かを学んで帰ろうという大きな意気込みが感じられた。

Medical Communication Skill

 次に医療面接技法の実習が行なわれた。ここでは医療現場でいかに医師と患者とのコミュニケーションを築くかの技術を学ぶ。まず最初にレジデントが,患者とうまくコミュニケーションを取れない「悪い医師」モデルと,共感的態度をもって患者と接する「よい医師」モデルの2役を演じ分け,その違いを解説したのが印象的だった。
 その後,学生は5グループに分かれ,(1グループ:進行役レジデント1名,患者役レジデント1名,教員1名,参加者3~4名)学生が医師役を,レジデントが患者役を務め,インタビューを試みた。患者役は毎回代わり,それぞれ頭痛,喉の痛み,排尿時痛などを訴える。患者の話からいかに主訴をつかみ,どのような検査をして診療すればよいのかなど,臨床医の思考方法を学ぶ。
 上級レジデントは,患者の理屈や病気に対するイメージ(解釈モデル)を聞くことの大切さを指摘した。共感的態度をもって患者と接することから思いがけない情報を得ることがあるという。診断の大筋は5,6割がインタビューで決まるといわれているが,学生たちは改めてその重要さを実感したようだ。

往診と外来小外科実習

 昼食後,学生は2グループに分かれ,交代で往診と小外科実習が行なわれた。
 自治医大は大学病院としてはめずらしく往診を行なっている。往診対象者の大半が脳血管障害でほぼ寝たきりの生活を余儀なくされている患者さんだという。リポーターも,脳卒中で失語と片マヒになった73歳の患者さんの自宅に同行した。この患者さんは今年から自力で坐位や立位を保持できなくなり,介護はすべて妻が1人で行なっている。はじめて寝たきりの患者さんを目の当たりにし,1人で介護する大変さをつくづくと感じた。実際,介護者が介護の疲れから共倒れになるケースもあるようだ。
 往診後は豚足を使った小外科実習が行なわれた。実習の順序は以下の通り。
 豚足を輪ゴムで板に固定する→剃毛→創をつくる→麻酔をかける→縫合。縫合のコツは創から同じ距離,深さで糸を通すことである。距離や深さが異なるとどちらか一方の皮膚が盛り上がってしまう。また,深さが十分でない場合はデッドスペース(死腔)ができ,そこに滲出液がたまり感染の原因になる。自分の大学では1度も小外科実習を経験していなかったという9名の学生に対して,5名の指導医によるきめ細かい指導がなされ好評だった。

地域医療学のレクチャー

 初日最後は地域医療学教室の五十嵐正紘教授が地域医療学についての講義を行なった。「地域医療を担う総合医療医は保健―医療―福祉の連携のエキスパートになれる」,「医師にできることは,医療の方法や道具を提示すること。しかし,最も大切なのは患者に直そうという気持ちを起こさせること」などと述べた。また「知らざるを知らずとす。これ知れるなり」という論語の一節を引用し,学生に「大いなる探究心を持て」と語りかけ,自身の学生時代の体験などを紹介した。
 今回のサマーセミナーは,レジデントによる運営ですべてのプログラムがてきぱきと進み,内容も全員参加型が特色。夜は構内でバーベキューをしながら懇親会が行なわれ,さまざまな話で盛り上がった。自分と異なる環境で学んでいる人々と出会い,情報を交換できることが,このセミナーの大きな魅力ではないだろうか。
 なお2日目は,Evidence‐Based‐Medi‐cine,国際保健医療についての講義や,地域現場で活躍する若手医師を囲んだ座談会などが行なわれた。
 自治医科大学では毎年このサマーセミナーを予定しており,地域医療に関心のある多くの学生の方々に参加を呼びかけている。

問い合わせ先
自治医科大学地域医療学教室
 TEL(0285)44-2111
 FAX(0285)44-0628