医学界新聞

第24回日本救急医学会開催

救急医学の学問体系へのアクセス


 第24回日本救急医学会が,大和田隆会長(北里大)のもと,さる10月7-9日の3日間にわたって横浜市のパシフィコ横浜にて開催された。
 学会は医師部会,看護部会,救急隊員部会によって構成され,3部会合同プログラムとして木村利人氏(早稲田大)が,「救急医療における生命倫理-生死を誰が決める? 患者・家族・医療チームのあり方を問う」と題する特別講演を行なった。

くも膜下出血への包括的アプローチ

 会長講演は「くも膜下出血における心肺合併症の病態と急死の機序」。大和田氏は北里大救命救急センターに搬送されたくも膜下出血患者1000例以上を詳細に分析し,急性期に生じる心肺機能障害の成因・病態,急死の発生機序を考察。またこれらの臨床研究の結果を受けて新しい実験モデルを作成し,発症直後の交感神経系活動と心病変との関係を明確にする目的で基礎実験を行なった。
 その結果から大和田氏は,(1)くも膜下出血急性期の病態は心臓循環系に及ぼす影響が大きく,臨床像を全身疾患として把握すべき,(2)心臓障害の成因として,急性期の中枢性および末梢性交感神経系活動の亢進によって分泌されるカテコラミンの関与が考えられる,(3)急死の原因の1つとして,脳ヘルニア以外の心臓障害(不整脈死)の存在が示唆されることを報告した。
 なお今学会のメインテーマは「救急医学の学問体系へのアクセス」。大和田氏はこのテーマに触れ,会長講演で発表した研究について「救命救急センターで超急性期から多分野のアプローチがなされることによって初めて実現可能な研究。救急システムの中でこそなし得る救急医学の学問体系の1つのモデルではないか」と述べた。

救急医療のfutilityとは

 医師部会のシンポジウム「救急医療とfutility」(司会=久留米大 加来信雄氏,済生会神奈川病院 山本修三氏)では,救急医療の場でのfutility,すなわち無益または医学的に妥当性のない医療行為の問題について考察がなされた。
 この中で橋本邦雄氏(土浦協同病院)は,来院時心肺停止患者に対する院内CPR(心肺蘇生法)実施例を分析し,心拍再開が得られない場合のDNR(蘇生の断念)やCPR終了の時期を検討。30分以上をめどに判断を考慮すべきと述べた。また鈴木昌氏(慶大)も,病院到着後30分間以上2次救命処置を行なっても自己心拍再開を認めない場合,蘇生の可能性は極めて低いと指摘。さらに佐藤章氏(千葉県救急医療センター)は,脳死患者の家族へのDNR告知と治療中止決定における問題点を検討した。
 一方,田中孝也氏(関西医大)は,同大高度救命救急センターの過去3年間の高額医療症例28例を分析し,医療費高騰の原因や抑制策を検討。「院内感染を含めほとんどの症例に何らかの感染症が関与していることから,高額医療費の1つの誘因は感染症である」と指摘。感染症の早期脱却と院内感染の防止が重要であるとした。
 80歳以上の高齢者の救急医療に関しては,東海林哲郎氏(札幌医大)と刑部義美氏(昭和大藤が丘病院)がそれぞれ自施設のデータを検討。堤晴彦氏(埼玉医大総合医療センター)は,熱傷患者の医療費分析から救急医療の経済性を考察した。
 総合討論では,DNRの時期と判断,脳死判定とグレイゾーン,高齢者救急,高額医療,倫理面などについて討論。最後に司会の山本氏が,「この問題の議論はいまからがスタート。あくまで患者・家族の医学への信頼性に立った議論をすべきで,今後はプロスペクティブな研究にも期待したい」と述べてまとめとした。

横浜地方に直下型地震との想定

 医師部会ではこの他,シンポジウム「救急医療体制の再編成」,「CPCR(cardio-pulmonary-cerebral resuscitation)の動向」,「鈍的胸部外傷の診断と治療」,海外招待講演,教育講演,ワークショップ,フリートーキング,若手研究者リーダーの主張,O-157に関する緊急ワークショップ,また新しい企画であるクリニカル&リサーチフォーラムなどが行なわれた。
 このうちフリートーキング「災害シミュレーション」(司会=筑波メディカルセンター病院 大橋教良氏,モデレーター=大阪市立総合医療センター 鵜飼卓氏)では,看護婦や救急隊員の参加も得て,「横浜地方に直下型地震が発生した」との想定のもとでシミュレーションを実施。施設の規模や周囲の状況などの具体的な条件のもと,地震発生直後から数時間後までの経過を追って,場面ごとに予想される事態や行動について討論。また阪神・淡路大震災を体験した参加者からは実際の対応が紹介され,会場全体で活発な意見が交わされた。