医学界新聞

伊藤正男氏が文化勲章を受章

「まだ脳の中には発掘すべき宝石がある」


 政府はさる10月25日に今年度の文化勲章受章者5名,文化功労者15名を発表。文化勲章には神経科学分野から伊藤正男氏(理化研国際フロンティア研究システム長,日本学術会議会長)が選ばれ,11月3日に皇居で伝達式が行なわれた。
 長年小脳の神経機構と機能の研究に携わってきた伊藤氏は,今回の受章に対し「大変名誉なこと。早くもらいすぎたような気もするが,ご褒美としてではなく“もっとやりなさい”という意味でいただいたのだと思う」と感想を語り,また神経科学分野の研究については,「神経科学はいま岐路に来ている」との見方を示した。「これまで分子生物学的アプローチがだいぶ進み,機能的な研究が少し遅れて進んできた。今後は両方が一緒になって,脳のメカニズムの解明に本気で取り組めるおもしろい時期。分子生物学的研究によって疾患の治療に道が開かれてきているが,それだけでは脳や心がどう働くのかという点には近づけない。これからはそれが正面に出てくるだろう」
 伊藤氏はさらに今後の研究の方向性について「ここ20~30年で,シナプスの可塑性という現象を軸に,記憶や学習現象が解明されてきた。しかし感情や意思,意識の機能をどう説明するかについては,いままでに得られた神経細胞やその中の様々な物質に関する知識を総合するだけではどうも説明できそうにない。まだ脳の中には発掘すべき貴重な宝石がたくさんある」と期待を述べた。