医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

実地に役立つ「皮膚疾患治療事典」

今日の皮膚疾患治療指針(第2版) 池田重雄,他 編集

《書 評》北村公一(北村皮膚科医院)

「診断指針」部門が充実

 皮膚科関係の出版物はカラーの印刷技術が進み,図説を中心として数多く出版されているが,治療学や検査に関するものは極めて少ない。本書は皮膚科専門医だけでなく,日常皮膚疾患を診る機会の多い他科の医師に対しても実地に役立つ「皮膚疾患治療事典」をめざし,初版が6年前に刊行された。疾患の概念,症状,頻度,原因,問診で聞くべきこと,必要な検査,診断のポイント,鑑別すべき疾患,治療方針,患者への説明,生活指導に至るまで簡潔に記載されて,疾患のおおよその把握,頭の再整理など私には最適で,日常診療の座右に置いていた。初版以来6年が経過し,その後の皮膚科における診断,検査,治療法の進歩を追加して,このたび版を新たにされた。
 初版に比べて「外来での主な検査」が新しく取り入れられたこと,臨床写真が多く記載され,しかも鮮明になったこと,取り上げられた項目数も471項目から579項目と大幅に増加していることが目につく。検査の項は毛髪の見方から免疫組織化学に至るまで,「検体採取のコツ」をはじめ,「検査の進め方」から判定まで詳しく記述されている。本書の約25%が診断,検査の項に費やされ,「診断指針」部門が充実したことを特に記したい。このことは皮膚科医以外の他科の医師には大変有用であろう。
 今何が問題になっているか! 湿疹・皮膚炎群において「ステロイド外用剤使用上の注意事項」や「成人アトピー性皮膚炎の顔面の皮疹」の解説にみられるように,まず各疾患群に最近の動向の記述があり,そして各論の記述の構成となっている。

外来診療での問題点を重視

 各項目の執筆者が初版とは別の方のため,例えば小児の急性発疹症の項では初版はチェックポイントを中心に平易に診断の手順を解説され,2版は一覧表を中心に解説されているというように表現を変えて記述されている。成人の麻疹や輸入感染症など最近話題となっている「成人の急性発疹症」や悪性黒色腫では鑑別に重点がおかれるなど,各疾患の外来診療での問題点を重視した記述がなされている。
 「診断基準」(アトピー性皮膚炎,SLE,AIDSなど),「診断の手引き」(川崎病など),「検体採取のコツ」,「好発部位よりみた皮膚疾患」,付録の「皮膚外用薬一覧」,「日常用いる抗菌化学療法薬」も実用的である。再版はややもすると新治療法の追加のみに終わりがちであるが,本書は一貫して実用性と今日性を重視し,コンパクトながら「治療指針」のみならず「診断指針」を兼ね備えた好著である。皮膚科専門医のみならず皮膚疾患を診られる機会のある他科の医師にも座右に置かれることをお薦めしたい。
(B5・頁664 税込定価17,510円 医学書院刊)


第一線の臨床現場で働く医師に座右の書

尿失禁とウロダイナミックス 手術と理学療法 近藤厚生 著

《書 評》福井準之助(聖路加国際病院泌尿器科部長)

encyclopediaとしても役立つ

 尿失禁の系統的な成書の発刊が望まれている時期に,本書に遭遇した。尿失禁の臨床研究のパイオニアの1人であり,数多くの優秀な人材を育成したことでも知られている著者が,今までの豊富な失禁についての経験に基づいて,かつ幅広く集められた文献を参照して,尿失禁の診断・治療について解説している。本書は,経験した医師のみが記すことのできる含蓄のある内容を,多数の的を得た図表とともにわかりやすく記載されており,読者は本書から尿失禁に関する系統的な診療を学ぶことができるとともに,本書が尿失禁やウロダイナミックスのencyclopediaとして役立つことにも気づくであろう。
 検査項目では単なる検査の羅列・紹介ではなく,筆者の経験に基づいた施行時の要点が明確にまとめられている。治療選択の項では,従来から行なわれている治療法を評価し,最近報告された種々の治療法について検討を加えたうえで,読者に推奨できない治療法は「One Point Advice」の項で端的に指摘している。

症例検討と合併症

 特に本書における際立った特色として,「臨床症例の検討」と「手術の失敗と合併症」の項がある。実例を呈示しながら,治療法の適否,手術手技の選択法,手術失敗例とその解決策,その反省点などが多くの図表を交えて紹介されており,この項から同じ誤りを繰り返さないようにとの筆者の意図に気づき,現在治療に難渋している患者ではその解決策の方向性が得られることに気づくであろう。
 さらに,種々の失禁器具の購入先と住所が記されており,読者が患者の要求に頁を開けば直ちに対応できる情報が得られるという実用の書でもある。
 このような内容を含む本書は,尿失禁の入門書としてはもちろんのこと,第一線の臨床現場で働いている医師にとっても,座右の書として役立つことは間違いなく,泌尿器科・婦人科・神経内科などの失禁治療を担当する医師のみならず,失禁に関心を持つ看護婦にも良き道標を与えてくれるであろう。
 なお,本書は価格が5,871円と廉価に抑えられており,購入しやすいようにとの心配りがなされていることも追記しておく。
(B5・頁170 税込定価5,871円 医学書院刊)


学生が組織学の理解を深めるのに最適

機能を中心とした図説組織学(第3版) H. G. Burkitt他 著/山田英智 監訳

《書 評》内山安男(阪大教授・解剖学)

 本書は,“Wheater's Functional Histology:A Text and Color Atlas"(第3版)の訳書である。私たちが日常,論文を読む時に要約と図表を中心に目を通すことでその内容を読み取ることができる。当然,重要ならば熟読することになるが,この読み方で困ることは少ない。
 本書の第1の特徴は,組織学の主たるところを適切な図とその説明ですませている点である。学生が実習室で鏡検するかたわら,その理解を深めるのに最適である。私たちが,講義室や実習室で要点を説明する手法と全く同様に図説が進められている。
 第2の特徴は,簡潔なレジュメにある。図説に入る前に,要点が簡潔に記されている。本書の名称に「機能を中心とした」との形容詞がつけられている。各器官,組織の機能を簡潔に説明し,その機能がいかなる構造で裏づけられているかを述べている。そして詳細な説明は図説でなされている。また,訳者も述べているように,適切な人体構造学的な説明もなされているので,各器官の位置づけを理解するのに役立つ。
 第3の特徴は,現在の細胞生物学的な理解をポイントを絞り簡潔にまとめ,適切な電顕写真を配置している点にある。各論に相当する各器官,組織の細胞機能を理解するのに十分である。

現在の細胞生物学的な理解にポイントを絞る

 機能を無視した形態はないし,形態は必ず機能を反映しているとは,古くから言われている言である。おそらく,この種の成書は,それぞれある意味で独立して進歩してきた形態学と機能学という学問が,特に,近年の目覚ましい進歩のおかげで,切っても切れない関係にあることを暗黙のうちに了解している現況を反映した結果とも言えよう。なぜなら,本書の多くの図は,昔からの図と変わらないはずである。しかし,近年の生理学,生化学,分子生物学の進歩は,これらの図中にある構造を説明することができるまで進歩してきた。もちろん,形態学的にも物質のレベルまで構造を解析できるようになってきたことも,その関係を融合させるのに役立ってはいる。それゆえ,本当の意味で時期にあった「形容詞」と言えよう。
 前述したように,近年の分子生物学の進歩は目覚ましいものがある。この進歩の結果,機能のわからない多くの蛋白質が同定されるようになった。遺伝子工学の進歩は,これらの遺伝子の過剰発現や発現抑制によって,その蛋白質の機能解析をできるようになった。この解析の主役は形態学にあることは周知の事実である。それゆえ,本書のような図を中心としたテキストは,その図の提示が適切であればあるほどますます重要度を増す。実習室での学生の手助けのみならず,レジデント病理医等,医学の実践に入られた初学者にも手助けになると思われる。
 本書を監訳された山田英智先生は電子顕微鏡学のパイオニアであり,その成熟期に活躍された。石川春律先生,廣澤一成先生は山田先生の薫陶を受けられ,私たち,形態学を志す者をリードしてこられた先生方である。これらの先生方が目をつけられた本書は,まさに時宜を得た書として世に広く愛読されるものと思われる。
(B5変型・頁432 税込定価9,682円 医学書院刊)