医学界新聞

「再び,誇り高く 美しく」をテーマに

「あけぼの会」1996年秋の大会開催



  
 乳がん体験者の全国組織である「あけぼの会」(会長=ワット隆子氏)の1996年秋の大会が,さる10月6日,東京の有楽町朝日ホールにおいて開催された。「あけぼの会」は,「単に体験者同士の救いになるのみでなく,さらに一歩進んで,自分たちの体験を生かして,がんでないかと気に病んでいる人から,実際に手術を受けて入院している人,さらに手術後,ショックから立ち直ろうとしている人たちすべての助けになろうと努めるのであれば,大変意義のある集まりになる」というワット会長の新聞への投稿を契機として18年前に誕生し,会長の強力なリーダーシップのもとに着実に,また多くの人の共感を得てユニークな活動を続けている。
 大会当日には会員の他にも50余名の医療従事者(医師10余名,看護婦40余名)が参加し,ワット会長および永六輔氏(作家・あけぼの会名誉会員)の挨拶に続いて,シンガポールから招いたサラ・ナガリンガム氏(ジェネラルホスピタル看護部長)による基調講演「乳がん専門ナースの役割」が,また午後は,福島雅典氏(愛知県がんセンター)と平山佳伸氏(厚生省技官)の参加を得て,パネルディスカッション「抗がん剤が認可されるまで」が持たれ,フロアを交えて和やかな雰囲気のうちにも活発な討論が展開された。


「BCN(乳がん専門ナース)の役割」とは

 24年の看護婦歴を持つサラ・ナガリンガム氏は,1989年にがん基礎看護,1992年にBreast Care Speciality,また,1995年にはCrisis Counsellingなどの資格を取得。5年前から国内でただ1人の乳がん専門ナース(BCN:Breast Care Nurse)として国内最大のベッド数(1600床)を擁するジェネラルホスピタルで,年間700人もの乳がん患者に接している。 
 基調講演「乳がん専門ナースの役割」は,自らも乳がん体験者である玉橋容子氏(聖路加国際病院外科婦長)の司会のもとで,看護婦も含めたフロアからの質問に対してナガリンガム氏が答えるという“Q&A"形式で進められた。
 ナガリンガム氏は,「BCNは多くの役割を担っているが,患者に対しては,診断・治療に関する正確な情報の提供,病気に関する必要な知識と治療法の選択肢の説明,予後に起こりうる諸問題についての説明と理解が特に重要である」と指摘。さらには,院内ナースへの定期的な研修・教育,集団検診実施のアレンジ,啓蒙パンフレット作成への協力,退院前の病院訪問ボランティア面談のアレンジ,また必要ならば患者にホスピスを紹介するなど,BCNの役割を細部にわたって説明した。

患者の心の支えとして

 またワット会長によれば,アメリカのベス・イスラエル病院のBCNは,患者が乳がんと診断されると,検査の段階から検査の内容を説明したり,疑問に答えながら院内を患者と一緒に回り,オーストラリアでは医師が診断を伝える時にはナースも同席し,その後医師が退席してからも,ナースは患者がその内容を理解できたかどうかを確認し,必要があれば追加説明をするという。患者は「がん」とわかると,それだけで気が動転し,平常の判断力を失ってしまう。また,病気に対する予備知識を持っている患者は少なく,1度くらいの説明ではとても理解できないのが常で,そういう時にこそ同性のナースが質問に答えることによって,患者の心の支えともなりうる。
 さらにBCNは,「予後に起きる諸問題」についても細心の注意を心掛けなければならない。例えば,腕の浮腫や抗がん剤の副作用などについての説明をするだけでなく,退院時に着けたままのドレーンを,自分で判断して外す。つまり,同病院の乳がん患者の平均入院日数は2~5日で,2本のドレーンのうちの1本は着けたままで退院することになるが,その後は患者が余液の量を電話で伝え,ドレーンを抜くタイミングをBCNが判断して,処置するわけである。多くの面で医療制度が異なる両国ではあるが,患者を交えた質疑応答の中では,それ以上に多くの共通点を見出すことができた。
 また,続くパネル「抗がん剤が認可されるまで」では,現在注目の的になっている「抗がん剤」に関して,医師および行政の立場からホットな討議が展開され,「あけぼの会」への問題提起ともなった。