医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

肝臓病学を専門とする医師必読の名著

門脈圧亢進症の病理 肝内血管系の変化を中心に 中島敏郎,鹿毛政義編集

《書 評》奥平雅彦(北里大名誉教授)

 10年前に現代日本の肝臓病学研究の珠玉と評される『肝細胞癌-病理アトラス』を世に出された久留米大学の中島敏郎名誉教授が,このたび『門脈圧亢進症の病理-肝内血管系の変化を中心に』を刊行された。大学を定年退職された10年後の快挙であり,不断の真摯な学問的情熱にまず深い敬意を捧げたい。そして,立派な後継者を育てられ,すばらしい成果をおまとめになったことに心からお慶びを申し上げたい。
 ここ30-40年の間に肝硬変をはじめとする門脈圧亢進症をきたす疾患の臨床と病理に関する知見が長足の進歩を示した。
 本書はその進歩に大きく貢献された中島名誉教授の日本住血吸虫症,肝硬変症,特発性門脈圧亢進症を中心とした40年にわたる優れた先導的研究の集大成である。
 本書に記載されている成果は,文部省科学研究費特別研究や厚生省特定疾患調査研究班の班員として,中島名誉教授が営々として努力され,蓄積されてきたもので,その折々の機会に先導的な研究として高い評価を得られてきたものである。 

現時点における最新の知識を網羅

 記載は簡潔,明解で読みやすい。肝硬変を中心として門脈圧亢進症をきたすすべての肝疾患を網羅して,自ら集積され,独自の研究方法を駆使し,優れた観察眼を通してそれぞれの疾患の特性を比較検討された結果が示されている。しかも,著者一門の業績のみでなく,歴史的に重要な論文と最近の文献が引用してあり,現時点におけるこの領域の最新の知見が網羅されている。そして,随所に豊富な経験に裏打ちされた高い見識をもたれる著者の独自の見解がさり気なく述べられている。新たな学問の展開を目指す専門研究者には多くの研究のヒントを見出すことができよう。初学者にとっても現時点における最も信頼すべき定本となろう。
 巻頭を飾っている見事なカラー図譜や,本文中の定型像を示す抜群にすばらしい写真は膨大な資料から選び抜かれたものであり,著者一門の方々の努力の結果による金字塔と称さるべきものであるとともに,まさに後世への貴重な遺産である。本書に示されている多くの見事な写真の中には説明されていない所見が含まれている。実像がありのまま示されているのである。
 医学の歴史をみると,疾病の理解や病像の解釈が時代によって異なることが少なくない。実像を正しくみることが,新しい発想のヒントにつながるように思われる。
 本書のなかには刮目すべき記載が少なくない。あえて1つを取り上げると,形態学的に完成した肝硬変でも病因作用が中断すると修復する--治っていく--ことが示されている。明日の肝臓病学への明るい啓示である。
 本書は肝臓病学を専門とする臨床各科の研究者と病理学者に必読の名書として,強く推薦申し上げたい。
(B5・212頁 税込定価12,360円 医学書院刊)


急性期の脊髄損傷患者に関わる医療従事者に

脊髄損傷マニュアル リハビリテーション・マネージメント(第2版)
神奈川リハビリテーション病院脊髄損傷マニュアル編集委員会 編

《書 評》永田雅章(市川市保健部保健医療総合センター)

 待望の『脊髄損傷マニュアル』第2版が刊行された。初版は1984年に発刊されて以来,現場ですぐに役立つ実用的な内容でリハ医療関係者をはじめとする多くの読者に親しまれてきた。かく言う小生も愛読者の1人であった。初版から10余年を経て,第2版はこの間の背損リハ医療の進歩を如実に反映しており,項目数・内容ともにボリュームは全体にわたって大幅に増え,また刷新・洗練されている。にもかかわらず価格はほぼ据え置きなのもうれしい。

脊損リハ医療の進歩を如実に反映

 脊髄損傷は,その生命予後は劇的に改善されてはきたものの,現在でもなお損傷された脊髄そのものを元通りに修復することはできず,重大な機能障害を生じる疾患の代表格であることに変わりはない。二次的合併症の発生が常につきまとい特に受傷後急性期にその危険が大きいため,包括的治療の一環として受傷直後からリハアプローチが必要不可欠である。
 その点で第2版では損傷脊椎の治療に関する記述を大胆に削除し,いきなり第1章が「合併症マネージメイント」で始まっているところがたいへんユニークである。特に,急性期に問題となりやすい呼吸器合併症,褥瘡などの内容が格段に詳しくなっており,痛み,末梢循環不全などの記述に関しても多くの改訂がなされている。それに加えて,骨萎縮と骨折,一般皮膚合併症,麻痺手の再建術の項目が新たに追加され,さらに総合的リハアプローチに欠かせない看護技術の項目も新設されている。
 第2章の「動作訓練」の内容もより詳しくなっており,背損の運動学,リフティング,自動車運転,車椅子体育とスポーツなどの項目が新たに加わった。第3章「車椅子・装具・自助具」および第4章「社会復帰」の各章には数多くの有用な情報・方法があげてあり,医療以外の福祉保健分野で働くスタッフにもわかりやすく解説してある。本書は『マニュアル』とはいっても実用一点張りだけでなく,「なぜそうするのか」という考え方についても多くの示唆を与える記述が随所になされている。

高齢者脊髄損傷者の問題にも視座を置く

 諸外国に比べてわが国では高齢者の脊損受傷率が高い。本書でも[note]というかたちで「高齢者脊髄損傷者の問題」を扱っている。今後も増大すると推測される高齢受傷の脊損者(特に頸損者)と,脊損者の高齢化に伴う問題点に関する研究が進み,そのマネージメントの方法がいずれ1つの主要な項目として収載されることを期待している。
 近年,救命救急医療センターの普及により,神奈川リハビリテーション病院に受傷直後から搬送される脊損患者は以前より減少しているとのことである。となると救急医療にあたるスタッフは必ずしも脊損の専門家ではないが,救命救急の処置だけを考えるのではなく,常に患者の障害像を念頭において治療・看護にあたるべきである。本書はリハスタッフはもとより,急性期の脊損患者を扱うすべての医療期間スタッフ(特に医師と看護婦)にこそ読んで役立ててもらいたいと思う。
(B5・228頁 税込定価5,150円 医学書院刊)


神経伝導検査のバイブル

筋電図実践マニュアル 各種検査法の手技とデータ解釈 白井康正 監訳

《書 評》平澤泰介(京府医大教授・整形外科学)

 久しぶりに楽しくかつ有意義な本に出会った気がする。何をおいても本は楽しくなければならない。いくら学術専門書といえどもである。この書は読む気を起こさせるとともに,行間から湧き出るような電気生理学者としての著者の熱意に圧倒され,時間が経つのも忘れて没頭した。近年,放射線学的診断学の進歩は著しく,特にMRIやCT検査などの画像診断は優れており,脊髄神経疾患の病態把握の手段として用いられる。しかしその反面,臨床所見と画像所見が一致しない症例を認め,診断および治療に難渋することがある。
 筆者は常々,医局員に「神経筋疾患の診断を進めるうえで最も重要な点は,現症および臨床所見であり,詳細な所見から診断を推測し鑑別診断のポイントについて検討しなさい」と教えている。つまり画像所見に安易に頼ることを戒め,臨床症状の客観的評価に努めて的確に病態を把握した後,障害部位を診断することが大切と考えている。以上の観点から,画像診断が隆盛である昨今だからこそ,客観的神経機能検査法である電気診断が果たす役割は重要であり,そうした意味でまさしく本書は時代の要請に対応すべく刊行された待望の書と言えよう。

神経疾患の病態究明に主眼

 さて,本書はProfessor Shin J. Ohの“Clinical Electromyography;Nerve Conduction Studies”第2版の日本語訳である。1984年に第1版が出版されたが,その時から筋電図・神経伝導速度検査に関して神経解剖や成人および乳幼児の正常値など,基本的な事柄から先端的今日的事項に至るまで,図版を用いた視覚による理解を取り入れ,筋電図技術者の実践的なマニュアルとしての役割が意図されていた。第2版ではその後,著しく発展した筋電図機器と刺激装置の技術革新から中枢神経系を含めたすべての人体の神経伝導性の検索が可能となり,既存の検査を新しい方法で再考し,神経疾患の病態を一層究明することに主眼が置かれている。
 実際の内容について順次触れると,第1部基礎編(第1章~6章)では,筋電図学のための解剖学・生理学の基礎から神経伝導検査の技術的方法に至るまで,アラバマ大学バーミンガム校メディカルセンター筋電図研究所のガイドラインに従って述べている。特に第5章では,特殊な疾患に対してアメリカ筋電図協会の電気診断に関する指標を踏まえて,各疾患に必要な検査法を紹介し,さらに得たデータの解釈について具体的かつ詳細に述べている。第2部応用編(第7章~12章)では,各神経別に豊富な文献を引用して神経伝導検査の種々の測定法を紹介し,絞扼性神経障害から多発ニューロパチーに至る神経障害について病態生理を踏まえた波形解析法について丁寧に示している。
 最後に,日医大整形外科教授であられる白井康正先生は,いまさら申すまでもなく筋電図学の大家として有名である。御多忙にもかかわらず長年の御努力により,約500頁におよぶ大著を理解しやすくかつ学術専門書として格調ある邦文に翻訳してくださったことに心から感謝の意を表するものである。
 本書を,実際に筋電図検査に携わる技術者だけでなく,外科系,内科系を問わず幅広く神経生理に関わる人々に“神経伝導検査のバイブル”として活用していただくことを切望する。
(B5・頁496 税込定価12,360円 医学書院MYW刊)


肩の凝らない必読の価値ある名著

Q&A腹腔鏡下胆嚢摘出術 こんな時どうする 小玉正智 監修,来見良誠 著

《書 評》山川達郎(帝京大教授・外科学)

 滋賀医大第1外科小玉正智教授監修,同・来見良誠先生著,『Q&A腹腔鏡下胆嚢摘出術-こんな時どうする』が,このたび医学書院から発刊された。
 腹腔鏡下手術は,minimally invasive surgeryの利点から急速に普及しつつあり,こと腹腔鏡下胆嚢摘出術に関しては第1選択手技として定着したといって過言ではない。
 しかしながら腹腔鏡下手術は,テレビにモニターされた2次元の像を見ながら細径の特殊な鉗子を用いて行なう手術であるので,深度感覚,手と目との協調動作,腹腔鏡下に見る解剖に習熟すると同時に,機器の性能とその特殊性などを熟知しておく必要性がある。また臓器触知感覚にも乏しいので臓器の把持法などにも細心の注意が必要となる。

著者らの豊富な経験から到達した考え方や対処法を学ぶ

 腹腔鏡下手術のトレーニング方法としてはhands-on trainingにまさる方法はないが,現状では経験豊かな指導医が少ないため,理想的なトレーニングが行なわれているとは言えない現状にある。日本内視鏡外科学会教育委員会では,腹腔鏡下手術が安全に行なわれるように,会員には動物やシミュレーターを使っての実地訓練の推奨やテキストブック,その他教育ビデオについての情報を機関誌を通じて提供しているが,短期間にすべてを学ぶことは実際には不可能に近いことである。したがって新しい機器の開発あるいは報告文献に常に気を配ることはむろん,先人の経験に耳を傾けることも極めて重要な訓練法である。
 開腹手術と腹腔鏡下手術の適応は,個々の症例の病態により使い分けられるのは当然であるが,将来は腹腔鏡下手術の割合がますます増加していくものと想定されている。本書は基礎編,応用編,適応編,手技編,機器編の5部から構成され,基本術式から難しい局面におかれた時の著者の対応法が簡潔かつ面白く書かれている。
 著者らの豊富な経験から到着した考え方や対処法を学び,それを自分の手術に応用していくことは,極めて効率的なトレーニング法である。また病態を想定し器具を準備したり,術中に遭遇することが予想される困難な場面の対処法などを念頭に手術に臨めるようどこからでも読めるように工夫された点も本書の特色である。肩の凝らない必読すべき価値ある名著である。
(A5・176頁 税込定価3,914円 医学書院刊)


時代の流れを先取りした新しい教科書

Textbook of Gastroenterology(第2版) Tadataka Yamada, et al

《書 評》千葉 勉(神戸大教授・老年医学)

 本教科書は,消化器病学の中では,最もユニークで新しいタイプの教科書である。
 本を開いてまず目につくのは,図表や絵が極めて多く,理解しやすい工夫がなされている点で,このことは画像以外の図表が少なかった従来の教科書とは大きく異なっている。さらにもう1つの特徴として,各Chapterの引用文献が極めて多いことが挙げられる。実際900近い文献が引かれているChapterもあるほどで,このことは,本教科書の内容が多くの文献的事実や考察に深く根ざしていることを裏付けるものであろう。
 しかしながら本書の最もすばらしいところは,何といっても分子生物学,細胞生物学や生理学の知識が随所に取り入れられている点で,消化器病学をこうした基礎医学の視点から理解していこうとする新しい考え方が色濃く現れている。

病因から臨床まで最新の知見で

 本書は,1. Basic Mechanisms of Normal and Abnormal Gastrointestinal Function,
2. Approaches to Common Gastrointestinal Problems,
3. Gastrointestinal Diseases,
4. Diagnostic and Therapeutic Modalities in Gastroenterologyの4つのPartから成り立っているが,特にPart1には600ページがさかれており,分子式や分子構造,細胞や神経支配,さらには消化管運動のレコーディングの図などがふんだんに使われていて,パラパラとめくっただけでいかにも楽しそうである。また文献についても1990年代のものが数多く引用されており,Helicobacter pyloriや癌遺伝子,癌抑制遺伝子などの最新の知見にも事欠かない。
 各Chapterをみると,Part 1は特に充実しているが,motility, immune system, secretion, nutritionなどのChapterは圧巻である。またPart 3の各論についても,gastritis,duodenitisのChapterは,Helicobacter pylori感染を考慮した極めて興味深い考え方が示されているし,大腸疾患についても,炎症性腸疾患から腫瘍性病変に至るまで,病因から臨床まで,最新の知見で貫かれている。さらにmotility disorderなどの機能性疾患については,従来のどの教科書よりも格段に理論的で,優れている。

基礎の視点から消化器病学を理解

 近年の分子生物学を中心とした基礎医学の進歩は目覚ましく,消化器病学においても,癌は言うに及ばず,アカラシアやヒルシュスプルング病などの原因遺伝子が次々と明らかにされつつある。こうした現況において本書は時代の流れを先取りした世界で最も新しい「消化器病学の教科書」と言えるであろう。ヒスタミンH2受容体遺伝子をクローニングしたT. Yamada(Editor)の面目躍如といったところである。
 なお本書には胆道疾患は含まれているが,純粋なhepatologyは除外されている。それだけに膵胆管系を含む消化管についての記載は充実したものとなっている。
(in 2 Vols 3,216pp. \38,770 J.B. Lippincott Company刊 日本総代理店・医学書院洋書部)