医学界新聞

“障害児の保健”に焦点をあてて

第43回日本小児保健学会開催


 さる9月26-27日の両日,第43回日本小児保健学会が,小宮弘毅会頭(神奈川県立がんセンター所長・前同県立こども医療センター所長)のもと,横浜市のパシフィコ横浜を会場に開催された。本学会では“障害児の保健”に焦点をあて,特別講演や招待講演のほか教育講演4題およびシンポジウムが企画された。また2日目には340題を超える一般演題の発表が8会場で集中して行なわれた。

新母子保健法の下で

 明年4月より,対人母子保健サービスのほぼすべてが市町村の担当となる新「母子保健法」が施行される。このような状況においては,質の高いサービスを確保し,保健・医療・福祉の一体化を進めることが母子保健に携わる者に課せられているとして,小宮会頭は新母子保健法下での小児病院のあり方を考える「地域医療・保健・福祉とこども病院」を講演。「子育て支援が中心的な役割」と母子保健施策の理念を述べたほか,神奈川県立こども医療センターが進めてきた地域保健,医療,福祉に関わる活動や事業を振り返り解説した。
 またこれからの方向性として,(1)周産期医療,(2)思春期医療,(3)高度先進医療部門の整備の必要を強調するとともに,地域医療の中での役割の明確化,地域保健部門の整備も必要と訴えた。さらに医療上の課題として,少産・少子化が進む中での,ハイリスク出産,思春期医療の整備などをあげた。
 特別講演では作家の大森黎氏が「障害をささえる人々」と題し,脳性麻痺者の義母としての関わりや,重症心身障害児(者)施設,地域訓練会・通所施設の取材から得た思いを語った。また,アメリカからの招待演者である有資格臨床ソーシャルワーカーのアドリアナ・タランタ氏が「患児をとりまく家族」を講演。生命予後の悪い病気の子どもたちのケアで考慮すべき心理社会的ポイントを述べた。
 「新しい予防接種制度と今後の動向」と題する教育講演を行なった加藤達夫氏(聖マリアンナ医大教授)は,重症心身障害児(者)の予防接種実施要項を解説。「昨年10月に実施された予防接種法の改正で,それまでは接種不可能であった1年以内の痙攣既往者や重症心身障害児(者)にも接種の道が開かれた。健常児(者)に行なうような上腕外側に固定せず,取りやすい体位で肉のある部分に接種すること,また体重比を考慮に入れ,量を調節することが必要」と述べた。さらに,接種法改正以前のハイリスク者に対する公的施策の必要性も強調した。
 同じく「障害児の口腔管理」を教育講演した池田正一氏(神奈川県立こども医療センター歯科部長)は,障害児歯科医療の問題点を診療・生活の両面から列挙し,その予防について考察。歯科的侵襲により全身状態障害や予後が悪化すること,治療への協力性に欠けることなどの困難性にも触れた。

医療の進歩と障害

 シンポジウム「障害を克服する医療の進歩」の司会を務めた黒木良和氏(神奈川県立こども医療センター)は,「(1)地域でともに生活するために,(2)社会的自立を促進するために,(3)バリアフリー化を促進するために,(4)生活の質(QOL)の向上をめざして,(5)安全な暮らしを確保するために,(6)心のバリアを取り除くために,(7)わが国にふさわしい国際協力・国際交流を,の7点がノーマライゼーションの基本理念。この理念を踏まえ,医療が障害児(者)のQOLを改善するためにどのように貢献できるのか考えたい」と,5名の演者の発表に先立ちシンポジウムの開催目的を述べた。
 この主旨のもと,升野光雄氏(神奈川県立こども医療センター)は遺伝学の立場から「先天異常の包括医療と患者のQOL」を講演。ダウン症候群およびルビンシュタイン症候群を事例に取り上げ,「先天異常を伴う患児の診療にあたっては,疾患の自然歴を知ることが重要だが,欧米では積極的に進められているものの,日本ではダウン症候群にのみ行なわれているにすぎない」と指摘。さらにダウン症候群の成人期の課題として,「慢性甲状腺炎・腎機能障害・肥満・成人病が発生しやすい,アルツハイマー病様の早期老化がみられる,両親の高齢化」などをあげ健康管理の必要性を強調した。
 また「胎児治療はどこまで進んだか」を講演した鈴森薫氏(名大)は,胎児治療の現状を紹介するとともに将来の展望を述べた。鈴森氏は,「胎児治療は侵襲性治療と非侵襲性治療に分けられ,前者には(1)胎児輸液・輸血,(2)シャント術,(3)子宮外胎児手術があるが,(3)はアメリカで実施されているのみ」と報告。胎児治療には倫理的問題が伴うことから,十分なインフォームドコンセントの重要性を指摘した。
 さらに高嶋幸男氏(国立精神・神経センター)は「PVL(脳室周囲白質軟化)と脳性麻痺」を講演。低出生体重児に多く発生し痙性両麻痺の原因となるPVLは,胎児期後半あるいは新生児期早期に生じるが,超音波,CT,MRIなどの頭部画像から臨床診断が可能となっている。講演では早期発見,早期画像診断はその後の治療に影響することなどが解説され,その後の総合討論の中でもPVLをめぐってはフロアを交え議論された。
 この他に,羽崎康男氏(こどもの城)は「生活を豊かにするスポーツ」を講演し,「道具を使うことで身体を上手に使うことができる」と述べ,また「難病とたたかう子どもたち支援運動」を実施している小林信秋氏(日本児童家庭文化協会)は「親の立場から医療に期待するもの」と題し,親の会などの活動体験を通した発言を行なった。
 なお,次回は明年11月15-16日の両日,澤田淳氏(京府医大教授)会頭のもと,京都市の京都国際会議場で開催される。