医学界新聞

いのちの質をどう高く保つかを論議

第22回「医療と教育に関する国際セミナー」開催


 ライフプランニングセンター(理事長=聖路加看護大学長 日野原重明氏)が毎年主催している「医療と教育に関する国際セミナー」が,本年もさる8月30-31日の両日,東京・港区の笹川記念会館で開催された。
 第22回を迎えた同セミナーでは,昨年に引き続きQOLの理解を深めることを目的に「変わっていく医療システムの中で“いのちの質”をどう高く保つか」をテーマとした。アメリカから医師,看護婦ら4人の演者が来日し,病院・ホスピス・在宅ケアの中でのQOLの諸問題について,アメリカの現状を踏まえた講演をしたほか,日本側からは廣瀬輝夫氏(元ニューヨーク医大教授)が「医療におけるQOLの国際比較-米国と日本を中心に」と題する講演を行なった。

中・高齢者にとってのQOLを考える

 最初に,デスエデュケーターでもあり,シシリーソンダース賞を授賞しているサンドラ・バートマン氏(マサチューセッツ州立大メディカルセンター教授)は,「死の質:希望,ユーモアと悲嘆の癒しの力」を講演。スライドを多用しながら,死と文学,死と芸術に関する考察を述べるとともに,「笑みには鎮痛効果があり,治療にも効果をもたらす」と語った。
 次に,「QOLを踏まえての高齢者に対する考え方」を講演したロバート・カスティンバウム氏(アリゾナ州立大教授)は,「アメリカ人は,自分の身近にいるみじめな高齢者を見て,『自分は年寄りになりたくない』と考えている。テレビのCMなどは若者文化を強調し,さながら加齢は恐怖につながるイメージを与えており,特に高齢女性の自殺が増えている。ソーシャルワーカー,セラピストなどの専門職者も高齢者をどう扱っていいのかわからずに,高齢者を避ける傾向にある」などとアメリカの現状を報告。また,「趣味を持たず,仕事だけに生きてきて成功した男性,特に医師が引退した場合,何もすることがなくなったと考え急に自殺するケースがよくみられる。歳をとるための準備や前向きな計画を立てないままに中高年になった時に,これからは悪いことしか起きないのではないかと不安になり,悪循環に陥る。医療職者は,それを防ぐために『歳をとるのは悪いこと,嫌なこと』というイメージを患者に与えてはならない」と警告。
 さらに,高齢者・中高齢者のQOLをどう評価し,測定するのか,末期患者のQOLをどう考えるのかについて「患者自身に聞くことが重要。当事者の意思決定を重視することが必要」と強調した。
 一方,看護の立場からビアトリス・カスティンバウム氏(アリゾナ州立看護大教授)は,「老人施設や緩和ケア病棟における末期癌患者のQOL-特に看護の面から」と題する講演で,「死にいく患者のQOLには,(1)身体的健康と症状,(2)精神的健康,(3)社会的健康,(4)霊的健康,の4つの次元がある」と語るとともに,「患者のQOLも大事だが,スタッフのQOLも大切」と指摘した。

医療における日米のQOLの違い

 「医療におけるQOLの国際比較」を講演した廣瀬氏は,各国の医療状況を日本との比較において解説。「世界における医薬品市場は,アメリカ27.6%,日本21.1%,欧州25%という比率であり,日本が全世界の1/5以上を占めているが,国民数をみるとアメリカが2.4億人,日本は1.2億人と半数である。また,医療機器の普及率ではアメリカが41.5%,日本は17.0%であるが,高額機器であるCT,MRIを比較すると,日米の比率は前者が3倍,後者は2倍の普及率となり,日本は環境的には恵まれていると言える」と,特にアメリカの現状を対比しながら日本の置かれている医療環境を述べた。さらに廣瀬氏は,保険システムや費用についても日米との比較をしながら,これらが抱える課題,問題点なども指摘した。
 また初日の講演を踏まえ,2日目には2つの分科会「医学におけるQOL-医師および看護教育者・コメディカル」「ケアにおけるQOL-看護婦およびコメディカル・ボランティア」を開催。両セッションには今年初の認定を受けた「がん専門看護師」も討論に参加,フロアを含めテーマに沿った討議が行なわれた。さらに午後にはセミナーのまとめとしてのパネルディスカッションも催された。