医学界新聞

日本臨床検査自動化学会第28回大会開催


  日本臨床検査自動化学会第28回大会が,亀井幸子大会長(東医歯大教授)のもとで,さる8月29-30日の両日,千葉市の幕張メッセ国際会議場において開催された。
 「自動化の夢かきたてるエレクトロニクス」と題するプレジデントアドレスで亀井氏は,「臨床検査自動化の領域は,他の領域にもましてエレクトロニクスの発展の恩恵を受けているが,この分野は本来専門分野でないために,われわれの理解を超えたブラックボックスと化している。しかし,人体にたとえれば機器・試薬は骨格,筋肉,体液に相当し,半導体やエレクトロニクスで成り立つ部分は脳神経系に当たるのではないか」とエレクトノニクスへの夢を語った。会議では,一般演題および特別講演の他に,招待講演「現代・未来を支える魔法の石;半導体とニュー・カーボン(静岡大教授 志村史夫氏)」,教育講演「臨床検査と半導体デバイス(日立製作所メディカルシステム研 宮原裕二氏)」などが企画された。


“未来博物館ルポルタージュ”

 特別講演「未来博物館ルポルタージュ」では,古川俊之氏(東大名誉教授)が<未来博物館>という仮想の場に身をおいて,“医学とエレクトロニクスの出会いから成熟まで”のルポルタージュを試みた。

エレクトロニクスと医療

 古川氏は,1901年に発表された報知新聞の特集「20世紀の予言」において,電気への期待が大きいにもかかわらず,MRIや超音波は夢想もされていない事実を示し,「発明や発見には努力の上に幸運が重なって生まれ,予測は不可能であった」と指摘。しかしその一方で,エレクトロニクスと医療の出会いは偶然ではなく,科学発見上の必然であり,「それゆえ,医療に恩恵をもたらしたX線,心電図,CTなど,いわばエレクトロニクスの申し子とも言うべき技術は,いずれもノーベル賞に輝いている」とも付言。また,現代医療に実用されているペースメーカー,除細動器,電気メス,マイクロ波治療,ハイパーサーミアなどの電流・電磁波から,エレクトロニクス世界の新発見であるレーザーの診断治療への応用,量子物理学から生まれた各種の粒子線など,枚挙にいとまがない近年の現状を総覧し,「エレクトロニクス技術の版図は拡大するばかりである」と述べた。

未来のエレクトロニクス

 「20世紀は通信と交通の革命の時代」とも言われるが,それらがエレクトロニクスに密接に関係していることはいうまでもなく,古川氏はさらに,「医療の世界でも,あらゆる生体電気信号が即時に収集され,生化学的なデータも自動分析と通信系を介して意思決定に供される」と指摘。
 そして,いまやコンピュータや情報ネットワークの世界では,“2週間ひと昔”という速度で変革が進んでおり,古川氏によれば,明確な未来像の1つはエレクトロニクスからフォトニクスへの移行である。つまり,「光ファイバー通信は同軸ケーブルの6000倍の通信容量を持ち,光コンピュータを含む未来技術こそが,いわゆる“スパゲッティ症候群”とも言われる,エレクトロニクスの進展がもたらした重症患者の身辺をワイアとパイプが埋める混沌状態を退治する妙手になろう」と展望し,マイクロマシン技術の診断・治療応用への期待と提言を述べて特別講演を結んだ。


インターネットを利用した臨床検査情報

 一般演題「システム(司会=浜松医大 菅野剛史氏,佐賀医大 只野寿太郎氏)」では,リアルタイム検査システム,大型自動分析装置のデータチェックシステム,ゾーン法による検査結果検証システムなど各種の検査システムが発表されたが,今西孝充氏(兵庫県臨床衛生検査技師会)は「インターネットを利用した臨床検査情報の発信と問題点」を報告した。
 兵庫県臨床衛生検査技師会では「検査技師会には,今後ますます重要性,公益性かつ専門性が求められる臨床検査情報を迅速かつ正確に発信する使命と責務がある」と考えてホームページを開設。当初に掲載した情報は,技師会情報,臨床検査辞典,アレルギー情報と県地域保健課の助成による県民への“エイズを正しく理解しよう”キャンペーン内容の“エイズQ&A”であったが,後日,第三者からの要望によって新設項目の追加や内容の更新を行なった。
 それらの経験から今西氏は,「インターネットを利用し,いち早く情報を多数に公開することは意義あることだが,同時に知的所有権,メインテナンス,社会への適応等の問題が生じる」と指摘。さらには,情報を発信する立場を明確にし,どういう人に見てもらうのかという情報の方向性を定めないと,社会には無益なものになる可能性もある。この点について今西氏は,「今回のホームページ開設を通して学んだことは,新たな情報を創造するだけでなく,あふれている諸情報の価値を検討し,それを編集して有益な情報として医療関係者にとどまらず,社会全体に還元することである」と今後の目標と課題をまとめた。