医学界新聞

新連載 ― WHAT'S COOL IN TECH AND MEDICINE

最新テクノロジーのトピックス

永田 啓(滋賀医科大学眼科・医学情報センター)

[1]デジタルビデオ,DV


 今回から,What's cool in Tech. and Medicineと題して,医療に応用できるだろう,できるかな,たぶんできるだろうというさまざまなトピックスを,私の独断と偏見で勝手に選び出して,毎月紹介していくコーナーを始めさせていただくことになりました。
 トピックスは,純粋な工学技術のこともあれば,ハードウェアやソフトウェア,あるいはおもしろいWebや本,そして人など,かなりバラエティに富んだものになる予定です。はたして,こうしたトピックスが医療に応用できるのかどうかは,皆さんが判断してみてください。そして,何年かした後,これらのトピックスをふりかえってみると面白いと思っています。
 なお,この連載はWebと連動していますので,インターネットにアクセスできる方は,
http://www.so-net.ne.jp/medipro/igak/nagata/nagatop.htm をご覧ください。また,ご意見やご不満,アドバイスなどありましたら, nagata@hitl.washington.edu (Satoru Nagata) まで,電子メールをお願いします。(永田 啓)



h4>デジタルビデオ?  デジタルビデオは,ここ数年,放送局ではあたりまえの機材になりました。D-1などのフルデジタルの編集システムはたいていの放送局で使われています。ベータカムで取材してきたものを,D-1で編集して,放送するのが普通です。デジタルビデオの特徴は,何度ダビングしても理論的には品質が落ちないことです。放送局のように取材してきた材料を何度も編集して,番組として作り上げるところでは,ダビングして品質が落ちないというのはすごく重要なファクターになるわけです。
 さて,こうしたデジタルビデオが,いつ家庭レベルにおりてくるのかが,注目されていましたが,去年の夏に,突然ソニーから発表があり,続いてすぐに松下からも発表があるという形で,あっという間に民生機(つまり普通の電気屋さんで買える家電)が世の中に出てきました。これがDVです。
 今までビデオというと,かつてのベータとVHS,LDとVHD,VHSCと8ミリビデオみたいに,違う方式が競い合うパターンが多かったのですが,今回はなんとソニーも松下も共通のDVフォーマットということになりました。もちろんDVのカセット (図1)はどこのメーカーのDVでも使えます。家庭用に出してきたのは,テレビのコマーシャルでおなじみの方も多いと思いますが,いずれもカムコーダー,いわゆるビデオカメラでした。最初は,高級機が中心でしたが,最近はいろんな形が出てきています。ビクターのポケットタイプGRDV-1や,シャープのおはこのビューカム型,そして普通のビデオカメラ型など,数種類が出ています。


図1 DVのカセット

 DVのカセットは今までのS-VHSCや8ミリビデオより小さくて,1時間と30分のカセットがあります。1時間録画のものでだいたい1000円ぐらい。まだまだ普及していないので,割高な感じですね。
 もう,DVカメラが発売されてから,1年近くたちますが,未だにビデオデッキは発売されません。この理由はのちほど説明します。 h4>今までのビデオと何が違うの?  まず,画質が違います。今まで,ビデオというと,医療用を見てみても,たいていは,S-VHSやHi8が使われていました。解像度=画質を求めるユーザーの中には,自分でプロ用の高価なベータカムを買い揃えて手術のビデオを撮ったりする方もおられますが,なかなか普通の人では手が出ません。
 DVはS-VHSやHi8にくらべて解像度が高く,プロ用に使われているベータカムに匹敵する解像度を誇っています。現に,東京のコスモポリタンテレビや全世界のビデオジャーナリストにはDVカメラを使って取材している人がかなりいます。ソニーが最初に売り出した3CCDのVX1000というカメラは,発売前からこうしたジャーナリズムの世界からの注文が殺到して,一般に製品がまわってくるのに時間がかかったぐらいでした。
 次に,ダビングをしたときの違いです。今までのビデオ(アナログビデオ)では,ダビングをするたびに画質が落ちました。つまりデータの劣化が起こったわけです。
ニころがデジタルビデオだと,ビデオ信号がすべてデジタルデータ化されているので,理論的には,何度コピーを繰り返しても,データの劣化はありません。
 DVにおけるデジタルダビングは,フロッピーのデータやハードディスクのデータをコピーするのと同じことです。フロッピーやハードディスクのデータのコピーでは,内容が1バイトでも違うとプログラムが動かなくなったり,データがぐちゃぐちゃになるので,コピーされる元とコピーされた後のデータはまったく同じになるようになっています。DVでも,直接デジタルのままコピーすれば,これと同じことがいえます。
 実は,これがDVのビデオデッキが世の中に出てこない理由になっているのです。音楽CDが世の中に出てきた後,デジタル録音ができるDATやMDが登場しました。このとき,CDからDATやMDに録音すると,音質がほとんど落ちないため,レコード業界や著作権協会の方から,ダビングに対する規制を求める声があがり,最初はデジタルでダビングができませんでした。現在でも,CDから直接MDへコピーはできますが,そうやって作ったコピーから孫コピーはしてはいけない,という規定になっています。
 これと同じように,DVでも画質が劣化しないので,オリジナルとほとんど変わらないものがどんどんコピーとして出回っては困るため,規制がかかっています。このため,すでに売り出されたDVカメラを使って,テレビ番組を録画したり,レンタルビデオを録画したりすることはできないようになっています。どのビデオカメラにもついているアナログの入出力端子も,DVに関しては出力しかできません。 h4>デジタルデータの受け渡し  DVにおけるデジタルデータの受け渡しは,おおよその方式が決まっており,FireWireと呼ばれるコンピュータ用の規格が使われます。現在,デジタル用の端子がついているのは,ソニーのVX1000と一部のVX700だけです。この端子も完全な共通規格ではないので,今後形式は変わるかもしれません。
 VX1000で撮影したものは,VX1000をもう1台使うとデジタルのままダビングできます。最近,デジタルデータを直接コンピュータに取り込めるボード(DVBK1000)がソニーから発売されました。静止画だけですが,VX1000をパソコンからコントロールしながら,好きなフレームを転送して,パソコンの画像データとして保存・利用できます (図2)。
 今後,コンピュータ関連のショーで参考出品されていた,DVの動画データを直接マックやPC(IBM-PC互換機)に取り込んで,ビデオ編集をし,それをもう一度DVに書き出すノンリニアビデオ編集用のシステムが登場すれば,今まで高価で手が出なかったプロ用の画質を持ったビデオの編集が簡単にできるようになります。これで医療用のビデオも変わるかもしれませんね。


図2 VX1000をパソコンでコントロール