医学界新聞

川崎医大総合診療部の院外実習

奈義ファミリークリニック

川崎医大の院外実習は,実際にはどのように行なわれているのだろうか。実習施設4か所のうち,奈義ファミリークリニックと,青木内科小児科医院での実習の一部に同行し,取材させていただいた。


 奈義ファミリークリニックは,川崎医大総合診療部,日本原病院,奈義町(岡山県)の3者の協力により1995年4月にオープンした診療所。人口約7500人の奈義町で地域包括医療を実践している。
 ここでの実習は,隣接する旧診療所に宿泊しての2泊3日で行なわれる。今回実習するのは田中陽一郎さんと辻岡貴之さんの2人。クリニックでは,外来診療や往診などの合間に,プリセプター室のモニターで診察室の様子を見学したり,検査の手伝いもする。そして診療所長の田坂佳千氏からは,様々な場面で質問や助言が飛ぶ。
 3日間には,クリニックの他に,日本原病院や「ひまわり園」(老人保健施設),「なぎみ苑」(在宅介護支援センター,特別養護老人ホーム),奈義町保健相談センターでも実習を行なう。このうち保健相談センターでは町の保健婦さんやヘルパーさんの保健活動に同行するなど,実習全体を通じて保健・医療・福祉の現場にじかに触れることになる。
 印象的なのは,田坂氏の言葉の端々に感じられる,地域医療にかける熱意である。実習の間には,医療費や医療システムの問題,患者の本心を知ることの意味など,開業医の立場から見た現代医療の側面が語られる。学生からの率直な質問も交えた会話は,食事や移動の時はもちろん,宿舎に帰ってからも続くことが珍しくない。
 院外実習について田坂氏は,「必修化には大賛成。自分が関わるかどうかは別として,実習を通して少しでも開業医の姿を知ってほしい」と語る。また,「いま福祉の問題が世間でこれだけ騒がれている理由や,これを無視して医療は語れない理由を感じ取ってほしい」とも。
 実際,今回実習した2人も,考えるところが多かったと次のように感想を話してくれた。「診療所の経営的な問題に興味があったが,大学では聞く機会がなかった。いろいろと質問ができてよかった」(田中さん)「家庭医の役割の重要性を知った。将来どういう道に進むにせよ人間味のある医療をめざしたいと思う」(辻岡さん)


急患

クリニックに2人が到着するとすぐに,頭部にけがをした男性の急患があり,2人は田坂氏との顔合わせもそこそこにさっそく処置室へ。処置室ではクリニックで研修中の平岡尚子さん(川崎医大総合診療部研修医)が患者に声をかけながら処置を行ない,田中さん(写真)と辻岡さんは緊張の面持ちで傷口の洗浄や縫合の補助をすることになった


外来診療

田坂氏(中央)の診察の様子を見学。クリニックには1日60~80人の 外来患者がある


予防接種

この日は奈義町保健相談センターで乳幼児の三種混合ワクチン接種があり,消毒などを手伝う。泣きだす赤ちゃんの腕をしっかり押さえるのも役目の1つ


在宅ケア

1人ずつに分かれて往診に同行。学生は血圧測定などを行なう。クリニックでケアをしている在宅患者は常時30~40人。家族との会話にも時間をかける


ひまわり園

老人保健施設「ひまわり園」では約半日の実習の間に,申し送り,デイケア通所者の送迎,入浴・食事の介助などを行なう。また,土井利美施設長からは施設の概要や役割,老人医療の現状や制度についてのレクチャーがある