医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

神経症候を視覚的に楽しく学べる書

図説神経症候診断マニュアル 東儀英夫 編集

《書 評》山本悌司(福島医大教授・神経内科学)

 多くの医学生や初期研修医が神経が難しいという印象を持ち,学習途中で神経疾患への興味から遠ざかる理由に,神経解剖・生理の複雑さと神経症候の多様さがあげられる。つまり,理解すべき情報量が多いのである。偏見かもしれないが,それに比べると例えば心血管系,消化器系の症候ははるかに容易であるということができる。これには神経学を教育する側の責任もあり,複雑なものを単純化してわかりやすく理解させるというわれわれの努力が足りないことも事実である。
 今回出版された,東儀教授編集の『図説神経症候診断マニュアル』は,神経学を学ぼうとする学徒に対して,このような学習上の障壁が自然に取り除かれるよう配慮した実用書である。本書の構成は目次を見ると明らかである。まず,目次では主要な神経症候がその道のエキスパートの手によりヴィジュアルな情報として明解に説明されている。例えば,姿勢,起立,歩行の異常の章では,痙性歩行,失調性歩行,動揺性歩行,鶏歩行,パーキンソン歩行などの各論に分類され,その各々について,歩行障害のvisual presentationがあり,その病態機序,責任病巣,そして考慮すべき疾患とその鑑別点がイラスト入りで簡明に解説してある。ベッドサイドで歩行を即座に理解可能なフォームで提供しようというものである。さらに後半では「身体部位から見た神経症候」として,顔面,眼,ENT,手,足,膀胱などの主要神経兆候が豊富なイラストで理解しやすく述べられている。
 これまで,米英あるいは国内から神経症候の優秀な概説書は幾つか出版されてきたが,それらは大部分入門書ではなく,しかもヴィジュアルな理解にはほど遠いものが多い。たとえば,DeJongの有名な神経診察書“The Neurological Examination"は神経症候のいわば辞書としては有用であり,私も時々書棚から取り出してみるが,決して楽しく読めるものではない。その冒頭でDeJongはWilliam Oslerの言を引用し,「教科書なしに疾患を勉強することは海図なき海を航海するようなものであり,患者を見ずに教科書を勉強することは航海にでないのと同じことである」と述べている。一方,東儀教授はその序のなかで,「神経学は楽しく学べるもの」と述べている。どうせ航海するのであれば,楽しい航海をするほうがよい。
 本書は神経症候を理解したいという若き学徒のための神経症候学入門書であり,実地に患者を見る際の手引書である。『図説神経症候診断マニュアル』は,神経内科,脳神経外科を志向する学徒はもちろんのこと,ベッドサイドで実地学習を始める医学生にとっても神経症候を視覚的に楽しく学ぶことができるよう企画され,それが見事に成功した書であり,私はここに本書を推薦したい。
(B5・404頁 税込定価12,360円 医学書院刊)


病態から解説された研修医・学生のバイブル

ハリソン内科学ハンドブック Jean D.Wilson,他 編集/矢崎義雄 監訳

《書 評》小林祥泰(島根医大教授・内科学)

 内科学教科書として,わが国の臨床医にとっても定番的な存在の『ハリソン内科学』のハンドブック版が出版され,東京大学第3内科のスタッフによって翻訳され,総合医学社から出版された。このハンドブック版は『ハリソン内科学』の臨床部分を要約したもので,レジデントや医学生が病棟,外来や救急で対応できるように内科で遭遇する主要疾患の診断ならびに治療上のキイポイントを簡潔にまとめてある。

『ハリソン内科学』をより実践的に要約

 編集者も述べているように,このハンドブックはいわゆる内科学の簡便な教科書ではなく,『ハリソン内科学』第12版の延長であり,臨床的な知識のイントロダクションとして使い,詳細は『ハリソン内科学』を参照するという2冊セットのテキストと考えたほうがよい。要約とはいえ『ハリソン内科学』の基本コンセプトである「病態から見る内科学」を踏襲し,かつ現場で役に立つ極めて実践的な内容で構成されている。医学生の国家試験対策テキストや医療技術や診断基準,薬剤など実践的なもののみを羅列した一般のレジデントマニュアルとは一線を画しているのはこの点である。

研修医にはバイブル的なハンドブック

 内容は重要な症状と徴候で始まり,これらの病態生理が要領よくまとめられ,重篤な疾患の鑑別チャートにより診断が系統的にできるようになっている。そして救急の項ではまず高度生命維持のアルゴリズムがフローチャート形式で述べられている。検査所見や薬剤の使用法についても細かく記載されており,特に研修医にはバイブル的なハンドブックである。外傷,中毒やAIDS関連の記載も豊富であり,日頃あまり遭遇しないような疾患への対処もこれだけで十分可能である。薬物についても多くの表があり,投与量,作用機序,副作用などが一目でわかるようになっている。
 各論では主要9分野の疾患を網羅し,よくみられる疾患から記載され,特に全身疾患との関連を重視している。疾患の頻度や予後,合併症などについても細かく記載されており患者への説明にも役立つ。侵襲的検査や治療の適応についてもきちんと米国でのコンセンサスが示されている。脳卒中で症状が進行する機序についても幾つかの可能性が具体的に挙げてあり大変参考になる。また,内科を初診することも多い精神障害,依存症の病態,診断および向精神薬,麻薬についての記載もわかりやすい。内科疾患診断に重要な皮膚科学についても主要なものを簡便な検査法,治療を含めまとめてあるのは実用的である。最後に栄養欠乏と過多についての栄養学の基礎知識が分かりやすく要約されている。

すべて病態から解説

 このハンドブックは単なる箇条書きでなくすべて病態から解説されているので,必要時に参照するだけでなく通読して知識の整理をするうえでも他のハンドブックより数段優れている。この手の本としては字も大きく読みやすいが,欲を言えば第2版では何とかポケットに入るような厚さにしてもらえるとさらに実用性が増すのではないかと思われる。
(B6変・頁912 税込定価9,000円 総合医学社刊)


手放せない放射線学の教科書

標準放射線医学(第5版) 有水 昇 監修

《書 評》河野通雄(神戸大教授・放射線医学)

 放射線医学は現代医学の全領域に必須の学問であり,これらを1冊の本にまとめることは極めて困難なことであるが,昭和57年に有水,高島両教授の編集でうまくまとめられたのが本書の初版である。

放射線医学の最新の進歩に追随

 その第1版の序文では「国家試験に合格して研修医に至るまで手放せない教科書」を基本方針の第一にあげている。第5版にもこの方針が貫かれており,研修医はもちろん,実地医家や放射線専門医でも知識のrefreshや整理のためにも役立つように編纂されている。特に基本的事項,重点項目が十分に把握できるように配慮されている。また,本書の内容が陳腐化することなく放射線医学の最新の進歩に追随し第一線の専門家によって執筆されているが,最新情報を網羅するために執筆者の入れ替えが行なわれ,今回は新たに16名の執筆者が加わっている。
 本書の内容は放射線診断,診断手技を応用した治療法,放射線治療,防護と管理に大別され,さらに放射線診断は診断総論・画像検査総論と画像診断各論に分けられている。今回より,放射線医学の中で重要な位置を占めつつあるinterventional radiologyについても,1つの章として独立させて内容の充実が図られている。
 総論ではdigital radiographyや磁気共鳴検査についてもかなり詳細に記述してあり,各論でみる画像は臨床の場での画像診断に役立つ。また画像診断各論では,国家試験のガイドラインに沿って編集がなされており,各検査法別に編成されている。さらに用いられる頻度順に検査法を配列し,総合画像診断を念頭においた新しい工夫がなされている。各項末尾には,鑑別診断と記録・整理に役立つように疾患の各検査法別の特徴的所見を「疾患別異常所見のまとめ」として一覧表にまとめられ,充実が図られている。また重要な画像診断サインには,写真と説明ばかりでなく,シェーマがつけられており理解を助ける工夫がされている。
 放射線治療学については,総論で放射線生物学,治療原則,治療方法をまとめ,各論では腫瘍の型と好発部位,進展形式からみた治療法の実際が解説されている。腫瘍の進展度については,最新版のTNM分類に準拠し,該当する箇所に適宜挿入されている。放射線障害,防護,管理の項に超音波・磁気等の安全性について記述されており,適切な企画である。

文字どおり最も標準的な教科書

 参考図書,索引を含み896頁というのはいささかhandyとは言い難いが,わが国では文字通り最も標準的な放射線医学の教科書であり,これを完成させるためにご苦労された編集者ならびに執筆者に対し敬意を表するとともに,学生諸君はもとより,放射線科研修医や一般医師にも是非推薦したい格好の参考書である。
(B5・896頁 税込定価 10,300円 医学書院刊)


アトピー性皮膚炎への深い理解をうながす

専門医が語るアトピー性皮膚炎 西岡清,宮地良樹 共著

《書 評》田上八朗(東北大教授・皮膚科学)

実際的な皮膚科学的知識の修得

 「こういう専門書もあるのか」というのが,本書を読んでいてまず感心させられた第一印象である。本書では現代日本の皮膚科学を代表する二大碩学かつ論客の対話を,終始,耳学問しながら,アトピー性皮膚炎に関連することを学ぶというユニークな形式がとられている。その平易さを備える一方,硬い専門書や学術雑誌を探り読んでいくよりもずっとまとまって,実際的な皮膚科学的知識が得られ,アトピー性皮膚炎への深い理解がいくように構成がされている。
 現在,マスコミでもよく社会問題的に取り上げられるように,本邦では世界に類のないアトピー性皮膚炎患者急増をみている。少しでも毛色の違う治療をしているとマスコミに取り上げられた皮膚科医のところでは,全国からのアトピー性皮膚炎患者の殺到に見舞われるほどに,苦しんでいる患者は多い。
 しかし,多くの患者は良心的な皮膚科医の言葉に耳を傾けるよりも,マスコミの情報を最大の治療指針と考え,生ぬるい医師の治療に満足できずに,次々と気短かに満足の得られる医師を求めてさまよう,いわゆるドクターズ・ショッピングをしているのが現状である。1つには,急激な患者数の増加により,十分に専門医的な修練を受けていない医師によって,症例それぞれの特徴に基づいた,きめ細かな治療もされず,多くの患者に画一的な治療がされているという現実も関係していよう。
 本書では,随所に理解を助ける図表が使われており,紙面も極めて読みやすい。わかりやすくしている1つには,ポイントとなる部分がすべて,欄外にキーワードとして抜き出されていることもあげられよう。また,十分すぎるほどに親切な索引は,読み終えた後でも,もう一度問題点を読みに戻ることを容易にしてくれる。各章ごとの関連文献リストも,著者らの対話での発言が単なる思いつきのものでないことを物語っている。
 話は平易に進められるが,内容的には本症の背景をなす遺伝,免疫,炎症,微生物,環境抗原,さらにはドライスキンへのスキンケアにまで,最新の知見に基づいた話がなされている。ステロイド外用剤,除去食療法,また科学的評価を受けずに行なわれているいろいろな治療法,特に誇大広告で悩む患者家族から儲けるだけ儲けて消えていく民間療法に関する討論は,いずれもが傾聴に値する。

画一的なアプローチの危険性を訴える

 対話の基調には,アトピー性皮膚炎を単純画一的にとらえないようにという考えがつねに流れている。本症の病因にいろいろな側面があるように,治療面でも,画一的にアプローチすることの危険性がくり返し話されており,そこに述べられた治療法の中には,ぜひともすぐに取り入れてみたい日常の診療に役立つ実用的な知見と方法が盛られている。
 皮膚科医の行政との協力による学校保健への関与を促すなど耳新しい発想までも触れられており,皮膚科専門医としては,読み終わって自分たちの言いたいことを十分に語ってくれているという満足感を覚える本でもある。一方また,内容の一部には共鳴しえない人にとっても,様々な問題提起を幅広く取り上げてくれているという意味で意義深い本であろう。本症に関心を持つすべての人に推賞したい。
(A5・168頁 税込定価3,502円 医学書院刊)


すべての医療従事者に必須の知識

先天性奇形症候群 イラストとパソコンによる診断の手引き 木田盈四郎,他 編集

《書 評》新川詔夫(長崎大附属原医研教授)

 ヒトの体は複雑な精密機械にたとえられる。それがゲノム上の設計図に従ってたった数週間足らずの間に完成される。精密機械ゆえに,奇形や変形も些細な原因で生じ,その頻度も高い。したがってその知識は全医師にとって必須である。
 本書は約20年前に刊行された木田盈四郎著『先天奇形症候群:パンチカードシステムによる診断の手引き』を全面的に改訂したものである。さらに「イラストとパソコンによる診断の手引き」の副題のとおり付録フロッピーデイスク内の奇形データベースをコンピュータで検索でき一段と便利さが増した良書である。
 本文は,総論,症状のみかたとその解説,症候群の解説,パソコンソフト利用者マニュアルの4章からなっている。第Ⅰ章「総論」は先天異常の入門書として用語の確認をしながら読むことができ,特に環境と先天異常の項は読者の理解を補助する表を多用し,薬剤や化学物質の胎児毒性データが示されている。環境汚染が進んでいる現代社会を鑑みるとき,この項は本書のポリシーを示した部分だと思われる。

イラストで読者の理解を助ける

 第II章「症状のみかたと解説」は圧巻である。全身の奇形をくまなく網羅し,特徴をよく表わすイラストを用いて奇形の分類や成因が理解できるように工夫されている。写真を1枚も使用しなかったのは患者の人権を守る配慮があったのだろうと推察される。いかにも著者らの人格を表しているようだ。また,著書序文にも書かれているように,奇形用語にも格段の配慮がなされているので,辞書的な利用も可能である。
 第III章「症候群の解説」は同義語,解説,頻度,原因,予後と治療,文献の順に箇条書きに簡潔に記載され,各奇形は第Ⅱ章にもどって確認することができる。人名を冠した症候群にはカタカナ表記にしてあるので読者は利用しやすい。少なからずドイツ語発音に傾いているのがやや気になるが,同義語でこれもカバーされよう。最近,多くの奇形症候群の責任遺伝子が単離され,遺伝子変異が明らかになってきているので,原因のところでの説明不足が若干不満である。
 第IV章「パソコンソフト利用者マニュアル」は98シリーズを使用している読者には利用しやすい。しかし,別のパソコン愛用者には不用とも思われ,この部分だけ別冊子にするのがよいかもしれない。改訂版ではぜひ印刷がWindows95でも可能なように,またMacintosh互換性のデータベース改築が望まれる。成冨研二著『先天奇形症候群および遺伝性疾患データブック』(診断と治療社)中の各疾患コード番号も引用してあり,データの互換性を試みている。最後にGDBオンラインの解説があり,インターネット時代に即している。
 本書は奇形・変形を診断するための入門教科書として位置づけられる。また,650頁を超える大著だが随所に記載,編集上の工夫がなされA5判サイズとコンパクトとなっているので,ハンドブック的な使い方もできよう。臨床医師のみならず医療に関わるスタッフにも必須のものとしてぜひとも本書を推薦したい。
(A5・712頁 税込定価24,720円 医学書院刊)