医学界新聞

ニューロパシックペインの解決にむけて

第30回日本ペインクリニック学会開催


 第30回日本ペインクリニック学会が,宮崎東洋会長(順大教授)のもと,さる7月18-19日の両日,東京のホテルメリディアンパシフィック東京で開催された。
 学会では,神経ブロックをはじめ,どのような手段を使っても今日未だ解決しえない痛みの代表である「ニューロパシックペイン」をテーマに設定。ニューロパシックペインの解決が,すべての痛みの解決につながるとの考えから,特別講演「ニューロパシックぺインの病態生理」(滋賀医大名誉教授 横田敏勝氏),「ニューロパシックペインと脊髄電気刺激」(新潟大教授 下地恒毅氏)の2題が,また若手研究者宿題講演として(1)ニューロパシックペインの基礎(司会=東大教授 花岡一雄氏),(2)ニューロパシックペインの臨床(司会=札幌医大教授 並木昭義氏)についてそれぞれ3題の講演が行なわれた。さらに関連する話題として,招請講演「糖尿病性有性神経障害の成因と治療」(順大教授 河盛隆造氏),「Entrapment neuropathyについて」(順大教授 山内裕雄氏)の2題が講演された。
 その他にも,シンポジウム2題,パネルディスカッション4題,およびワークショップ2題が開催され,一般演題は口演166題,ポスター73題の発表が行なわれた。


 特別講演で横田氏は,手術により脊髄神経刺激で幻肢痛が現れた,糖尿病性両下肢切断(膝下)患者の例を紹介。幻肢痛が起こる原因として脊髄ニューロンの異常興奮メカニズムをあげ,(1)除神経性過敏,(2)抑圧性伝達物質に対する感受性の低下,(3)抑圧性介在ニューロンの変性,(4)グリア細胞の増殖,(5)シナプスなどが関与する可能性を解説するとともに,「これらは26年前から変わらないメカニズムとして追求されているが,この隙間を埋める研究が現在行なわれている。基本を踏まえた上での研究が重要」と述べた。

ニューロパシックぺインをめぐって

 若手研究者宿題講演(2)では,まず長櫓巧氏(愛媛大助教授)が「ニューロパシックぺインの薬物療法」を講演。ニューロパシックぺインの薬物治療における代表的な薬として,(1)抗うつ薬,(2)抗痙攣薬,(3)局所麻酔薬,(4)麻薬をあげ,「局所麻酔薬であるリドカイン静注の治療効果については個人差が大きい。またメキシレチン経口投与の効果についても40.7%で末梢神経には有効であったが,中枢神経では52例中0であった」と述べた。さらに,薬物療法の前3者については有効率が低く,効果に個人差が大きいことから,予測も困難であることを明らかとした。
 一方,麻薬の使用については「一般にニューロパシックぺインに麻薬は効きにくいとされるが,他の治療で効果がない場合でも,モルヒネの使用により副作用もなく鎮痛が得られた例がある」と事例を紹介。「麻薬の長期連用の有効性が明らかでない。不快な副作用や依存性の問題などから投与継続が難しい面がある」と,麻薬使用の是非については今後も検討が必要とした。さらに,「現在のところニューロパシックぺインに普遍的に有効で根治効果を有する薬物療法はないが,ニューロパシックぺインの機序の解明とともに新しい薬物治療法の開発が期待される」と述べた。
 続いて増田豊氏(昭和大助教授)は,「ニューロパシックぺインの神経ブロック療法」を講演。「ニューロパシックぺインの1つである三叉神経痛は,神経ブロックが奏効する代表的疾患であり,三叉神経ブロックが行なわれれば確実に除痛が得られる」としながらも,末梢神経障害が原因と考えられる痛みや中枢痛などについては効果は常に一定ではないこと,治療時期によっては症状を増悪させることを明らかとした。また,「神経ブロック療法はどの程度除痛に有効か,どの時期に有効なのか」について研究成果を述べるとともに,「痛みは小児に少ない,寝てしまうと痛まない,発症しやすい神経があるらしい」などのニューロパシックぺインの不思議についての触れながら,「ニューロパシックぺインにおける神経ブロックは,早い段階から介入しないと効果が上がらない」と強調した。
 最後に小川節郎氏(日大助教授)は,「ニューロパシックぺインにおけるドラッグチャレンジテストと治療への応用」を講演。約70例のニューロパシックぺイン患者における薬物テストから,「臨床的に求心路遮断性疼痛,CRPS I,IIと診断された例ではバルビツレートとケタミンに反応する例が多かった」などの結果が導き出されたことを明らかとした。また小川氏は,治療への応用についての解説も行なった。