医学界新聞

第5回日本健康教育学会開催

健康的な社会環境づくりをめざして論議される



 第5回日本健康教育学会が,川田智恵子会長(東大教授)のもと,さる6月29-30日の両日,「健康教育・ヘルスプロモーションと社会環境づくり」をテーマに,東京の東京大学山上会館他で開催された。
 同学会では,会長講演「ヘルスプロモーションにおける健康教育関連専門家(ヘルスプロモーター)の役割」をはじめ,大橋靖雄氏(東大教授)による特別講演「インターベンションスタディの方法と評価」,シンポジウム「子どもも発信者の健康教育の試み」(座長=女子栄養大教授 足立己幸氏),同「健康的な社会環境づくり」(座長=順大助教授 島内憲夫氏,NKK 高橋信雄氏)の他,ビデオ発表3題を含む一般演題71題の発表が行なわれた。また2日目の昼食時には,馬場萌氏(ハワイ国際教育サービス)を話題提供者に迎え,HIV/エイズ教育をどのように計画,実施,評価するかについて意見交換する機会としてランチミーティングも催された。

ヘルスプロモーターはコンダクター

 川田氏は,会長講演で「健康教育・ヘルスプロモーションとは」について解説。この中で「健康教育活動はなぜ命令的であるのか」と疑問を呈するとともに,「人々にとって,新しい技術的,科学的知識を獲得する問題と,適応の問題とは別である。この適応とは,人々の価値観と直面する現実とのギャップを縮めるための学習を意味する」との考えを示した。また,「ヘルスプロモーターの役割はこの適応への課題についての取り組みが中心となるが,ヘルスプロモーターはオーケストラのコンダクターであり,黒子的存在であり,パートナーである」と述べ,「健康教育が,かつては軍事下の日本・ドイツのように,政治の道具として使われた時代がある。そのようなことが起きないよう警戒心を忘れてはならない」と指摘した。
 さらに,ヘルスプロモーターに期待される能力として,「世界の動きを見据え調整しながらの健康情報の伝達,コミュニケーションや行動科学の理論・技術・展開であり実践である」と示唆し,スケールづくりなどがこれからの課題と述べた。

日本にも必要なデータマネージメントセンター

 特別講演を行なった大橋氏は,イギリスの統計・遺伝学者であるフィッシャーの「実験計画法」を解説しながら,臨床上における統計学の意義について触れ,「全世界では2万5000雑誌に年間200万件の論文が発表されている。質の評価は統計的なものが有効」と述べた。また,「データ管理には,研究組織とデータ(統計)センターが有用だが,日本にはまだない。センターにはデータマネージャー,統計家,コンピュータシステム,マニュアルが必要とされ,(1)研究の効率化と品質管理,(2)教育と経験の蓄積,(3)方法論の研究,(4)海外との協力を行なう。データマネージャーの役割としては,研究進行状況のサマリー作成,論文作成への協力などがある」とも解説。さらに臨床治験上の患者のメリットとインフォームドコンセントについても触れ,「保険制度や多すぎる類似薬の開発とならび臨床研究の意義が理解されていないことが問題」と指摘,メリットへ向けての検討課題として教育の重要性を強調した。