医学界新聞

第2回日本看護診断学会印象記

実践の裏づけとなる看護診断をめざして

古橋洋子(前埼玉医科大学短期大学教授)



 さる6月6-7日の両日,第2回日本看護診断学会が神奈川県横浜市で開催された。会場となったパシフィコ横浜国立大ホールは,みなとみらい21地区に位置し,港を目の前にした環境は抜群であった。国立大ホールには,全国から会員非会員含め総勢3100名が参集。日本看護診断研究会の時代から通算6年目を迎え,学会としては第2回の開催になる。関東地方で開催されたのは初めてで,そのためか前回までのように会場では大阪弁の元気のよい会話はあまり聞かれなかった。
 参加者の声を聞くと,今回は木・金曜日の開催であり,ある病院では出張扱いにして集団で学会に参加させたという看護部長さんもいた。世の中の流れを肌でキャッチしてほしいという思いやりだとも話していた。参加者の多くからは,勉強しようという意気込みと熱気が大きな会場中に伝わり,密度の濃い討議が繰り広げられた。

ウエルネス型の看護診断としての助産診断

 今大会のメインテーマは「実践にいかす看護診断」であった。このテーマは全国の看護婦が今大変興味を感じていることであったと思われる。
 大会会長は川崎市立看護短大教授の青木康子氏が務め,会長講演は「健康維持・増進における看護診断-助産診断の視点から」であった。
 青木氏は助産婦の立場を前提として,ウエルネス型の看護診断の必要性について熱っぽく語った。そして,ウエルネス型の看護診断としては助産診断の開発がわが国の草分けとなることもつけ加えて,法的根拠と対象の特性から「助産診断は助産婦が責任を持って扱うことのできる,性・生殖にかかわる健康生活上の顕在あるいは潜在する発達課題や問題を表すものであり,助産婦の実践活動の根拠となる理論過程であると定義したい」と,助産診断と看護診断,医学診断との相関から述べた。また,日本における助産診断の開発が,ウエルネス型の看護診断のさきがけになることをも望みたいとも語った。

臨床で活用するために

 続いて,ハーバード大学公衆衛生学部,クリニカルコーディネーターのエリザベス・ヒルテューン氏の招待講演の第1部「看護実践における看護診断の活用」が行なわれた。
 ヒルテューン氏は,看護実践の場で看護診断をすることは,健康問題と看護治療についての臨床判断を支えることであり,それによって専門職としての看護業務が向上すると述べた。また,看護診断を実践するための方法として次のことが大切であると強調した。
(1)アセスメントと診断のスキル向上
(2)1つの看護診断領域のエキスパートになる
(3)ケアの質の向上のために看護診断を使う
(4)看護記録様式や看護ケアガイドの作成
(5)実行グループへの参加
 これは,現実に臨床で悩んでいる看護婦への示唆にもなるものであった。熱意あふれた講演で,わかりやすく語りかけるような話し方も聴衆の共感を呼んだ。
 招待講演の第2部は同日の午後,「看護診断の臨床へのインテグレーション」というテーマで行なわれた。ヒルテューン氏は,看護診断を病院のシステムにインテグレートするためには,教育スタッフ,管理スタッフによるサポートと,看護過程と看護診断をサポートするシステムが確立していることが必要であるとした。そして,看護診断をインテグレートするための問題として,看護の自立に対する価値観が希薄なことをあげ,この解決には次のような方法があるとして,クリティカルパスウェイ,看護診断に対する看護介入,結果評価の臨床看護実践ガイドの作成などを提示。これらはよい結果をもたらすと述べた。
 この他に,初日には5題の一般演題発表があり,このうち3校の看護学校からの報告は授業での看護診断活用状況を報告するものであった。
 また,3施設の記録を分析し,看護診断記録の妥当性を測定する用具を用いた分析の発表もあった。この中では,看護診断ラベルの記載は疾患や症状が中心で,社会・文化的な情報はないのに,ラベルだけ記載されていたという特徴的な報告があった。また,共同問題が予想に反して多く使用されており,これは,看護婦の臨床判断能力に影響を与える施設の環境的要因もあるという点で大変興味深い報告であった。参加者は,自分の病棟にも共通していると感想を述べていた。

看護診断導入の課題

 2日目の午前には「看護と診断」と題する教育講演で井部俊子氏(聖路加国際病院副院長)が登壇。パトリシア・ベナーの研究を例に出し「看護」と「診断」は相容れるものかどうかという前提で,「患者を知る」ことと「患者のアセスメント」は異質なものではないかと語った。そして,「人間にアプローチする方法やその記述は医学モデルや問題解決過程では不十分ではないか。医学モデルから脱皮した看護モデルの表現形式はより文学に近づく」と述べ,大江健三郎の「新しい思想は新しい文体で」という記述を例にあげて,現在興味を抱いてる考えであると話した。会場の参加者からは,文学に近づくという点に多くの質問があった。
 次の教育講演は,東京衛生病院看護部長の根本多喜子氏が,「実践における看護診断の現状と課題」と題して行なった。根本氏は東京衛生病院でロイ適応看護理論を導入した経緯を含め,病院での看護診断の推進方法を具体的に述べた。そして,看護診断のみを導入するのではなく,「看護過程の2番目の過程が看護診断」だという捉え方をすることの必要性を強調した。実践面で悩んでいた参加者には大いに参考になる内容で,具体的な現場での進め方の見本になるとの意見も多く聞かれた。
 2日目も朝から研究発表があった。発表内容は診断名の妥当性の検討や,精神面や社会面の診断の活用への取り組みなど,臨床での実際に即した研究発表が多くなされた。

初めての試み-ビデオを用いたパネルディスカッション

 最後のセッションは,聴衆が興味を持ち期待していたパネルディスカッション「私はこのように診断する―ビデオによる模擬患者の看護診断」(司会=聖路加看護大教授 岩井郁子氏,日赤秋田短大教授 大島弓子氏)である。VTRの映像を会場参加者全員が同時にみて,3人のパネラーとの意見交換が行なわれた。
 学会としても初めての取り組みでどのような準備をしたらよいかも迷われたと思われる。パネラーも当日初めてVTRを見ることで聴衆とも同一の視点に立ち,まさに現実の患者の看護診断をどうすればより適切に行なえるかという視点は,大変よい試みであると思われた。
 舞台の画面いっぱいに映し出されたベッド上の72歳の女性の患者と看護婦とのコミュニケーションを参考に,問題点を分析しながら看護診断を作成する。初めて画面をみる全員が一生懸命考え問題点を抽出していた。
 時間の関係で,討議の内容が深まるまでにいたらなかったのが残念である。VTRの撮影も大変で難しかった様子がしのばれるが,患者さんがあまり喋りすぎ,問題点が抽出しやすいよう導かれるように作られ過ぎていたのが残念であった。しかし,3000名もの聴衆の中で白熱して行なわれた診断の是非の討論には,勉強できたという感想が多く聞かれた。
 最後に第3回の会長は兵庫県立看護大の近田敬子氏であるとの紹介があった。来年7月18-19日の日程で国立京都国際会議場でまた会うことを約束し,閉会した。