医学界新聞

将来の准看護婦(士)養成を憂える調査結果が

厚生省「准看護婦問題調査検討会」のアンケート調査結果が公表される


 厚生省准看護婦問題調査検討会(座長=地域振興整備公団総裁工藤敦夫氏)は,さる6月27日に開かれた第5回会合に合わせ,本年2-3月に実施した「アンケート調査結果」を公表した。これは,厚生省が准看護婦問題に関して初めて実施した全国調査であり,平均回収率も86.1%と極めて高いことから,准看護婦養成の実態を正確に捉えるとともに,この問題に対する関心の高さを表しているといえる。
 なお,この結果から,昨年10-11月に日本医療労働組合連合会(医労連)が実施した准看護学生へのアンケート結果で明らかとされた「学生が医療・看護行為に従事している」実態が改めて証明されるとともに,養成所の長が存続を憂える回答を呈していることが浮き彫りとなった。また,一方の高等学校衛生看護専攻科および衛生看護科での養成の問題については,全国校長会が独自に調査を進めており,その結果は次回第6回検討会(7月25日)で報告される予定。厚生省では,これらを踏まえ,論点および検討事項を整理した上で,検討会での審議を経て,本年12月から明年1月までに結論を出したいとしている。
 本号では,以下に公表された概要の要旨を記すが,併せて同時期に発表された日本看護協会,日本医師会および医労連の見解も掲載する。


准看護婦問題調査結果の概要

(厚生省「准看護婦問題調査検討会」1996年6月27日付 要旨)

調査目的
 この調査は,准看護婦養成のあり方等についてその実態を総合的に把握し,准看護婦問題の検討に必要な資料を得ることを目的とする。

調査対象
 准看護婦養成所の長,同専任教員,同生徒,看護婦2年課程養成所の長,同専任教員,同生徒,准看護婦(士),医療機関(病院・診療所)の長,医療機関看護部門管理者,および看護婦(士)5857人。うち有効回答者5041人(86.1%)。

対象者の年齢および学歴
 准看護婦生徒は19-20歳が56%を占めるが,准看護婦では41歳以上48.1%,31-40歳で28.4%,看護婦は41歳以上37.0%,31-40歳が32.7%であった。また,学歴については,准看護婦生徒で高校卒が86.2%,次いで短大卒5.6%,大学卒2.3%で,中学校卒は3.7%であった。これに比べ,准看護婦では高校卒が65.0%,中学校卒は31.5%。制度発足時では65%の生徒が中学校卒だったことを考えると,准看護婦養成所における高学歴化が進んだといえる。

看護職員志望の理由

 調査対象となった准看護婦生徒,准看護婦らはいずれも看護の仕事を志望した理由に,「看護の仕事に意義を感じた」あるいは「資格を身につけ自立したかった」という職業志向が非常に強く,職業選択の理由がはっきりしている。また准看護婦を志望した理由としては,「働きながらでないと進学できなかった」とする者が,准看護婦で41.0%,准看護婦生徒で33.5%,2年課程学生25.1%となっている。しかし一方で「看護婦養成所に行きたかったが,受験に失敗した」あるいは「看護婦養成所より受験が楽だと思った」と受験上の難度を理由にあげる准看護婦生徒が36.4%,2年課程学生33.5%と,「働きながらでないと進学できなかった」の理由より高位であった。
 また,准看護婦生徒の82.9%が「将来,看護婦資格の取得を希望」と看護婦への資格取得意欲を持つ者が多いのに対し,准看護婦では40.3%と半減する。その理由としては,「勤務と学校とを両立させる自信がないから」51.7%が最も多く,この傾向を准看護婦の年齢階層別にみると,「看護婦資格取得の希望」は年齢が低いほど高率となっている。
 さらに看護婦資格の取得を希望する理由としては,「准看護婦教育では内容的に不十分であり,患者のニーズに応えられないから」とする者が,准看護婦生徒53.3%,准看護婦で62.2%。「給与や昇進に差があるから」という処遇面の理由では准看護婦生徒で62.9%,准看護婦53.4%,「准看護婦のままではよい就職先がないから」は,准看護婦生徒31.8%,准看護婦33.6%という回答であった(複数回答)。

養成所の現状および将来

中退者の状況と理由
 准看護婦生徒の中退者が多いことも知られているところだが,今回の調査でその実態がより鮮明となった。中退者の状況は,准看護婦養成所の生徒の中退者の割合は6-10%の養成所が39.0%,11-20%で24%であり,看護婦2年課程養成所においては2-5%の養成所が60.8%となっている。なお平成7年看護関係統計資料による中退の割合は,看護婦3年課程5.2%,看護婦2年課程7.4%,准看護婦養成所14.2%,高校衛生看護学科4.5%で,他に比して准看護婦養成所が高率となっている。
 養成所の長や専任教員があげる中退の理由(複数回答)は,生徒や学生の「学業不振」「進路変更」「病気」「勤務と学習の両立困難」等となっている。一方,准看護婦生徒や2年課程学生は,勤務と学習の両立についての問題点(複数回答)として,「自由時間の不足」「過労状態にある」「体調を崩しやすい」「予習や復習時間がない」「勉強に身が入らない」の順であった(図1)。


 また,准看護婦養成所の専任教員は生徒指導上の問題点について,「生活面での指導を要する生徒が多い」86.2%,「教育水準が定めにくい」85.2%,「学習意欲が低い生徒が多い」77.3%,「生徒が勤務で疲れている」75.1%,「勤務が教育より優先されている」52.9%と答えており,2年課程の教員も同様の傾向であった。

養成所在学中の生徒・学生の勤務状況
 医療機関に勤務している准看護婦生徒や2年課程学生のうち,週間勤務時間が20時間以上の者は,准看護婦生徒86.0%,2年課程学生73.5%となっている。週40時間以上の勤務をしている者についてみると,准看護婦生徒17.3%,2年課程学生22.0%であり,うち週50時間を超えている者は准看護婦生徒で4.2%,2年課程学生3.1%である。
 また,医療機関に勤務している准看護婦生徒のうち,1996年1月16日-2月15日までの1か月の間に,勤務がない日が月に「5-9日」の者が51.6%,「0-4日」の者が27.1%を占め,勤務のない日が「0日」と回答する者が1.3%あった。
 さらに准看護婦生徒のうち,同期間の1か月の間に夜勤を行なった者は24.0%であり,診療所などでの宿直勤務を行なっている者は23.0%である。このうち「夜勤はいつも看護婦または准看護婦と一緒に行なっている」者は44.9%,で「一緒ではない」17.1%,「必ずしも一緒ではない」5.8%であった。

准看護婦生徒の勤務内容
 准看護婦生徒は,医療機関において90.4%の者が「清掃,片付け,器械器具の洗浄」,72.2%の者が「食事,排泄などの介助」の業務を行なっている。また,准看護婦生徒が勤務中に行なっている業務として,「血圧測定」74.7%,「浣腸」28.0%,「採血」21.6%,「注射」18.0%,「導尿」15.3%(複数回答)であった(これらについては,無資格者が行なった場合,法律に違反すると考えられるものが含まれている。また厚生省は昨年5月に,これらの行為があった場合保助看法に罰則の規定がある旨を局長通知している)。また,これらの業務の実施状況を医療機関別にみると,血圧測定は診療所,病院の規模等に区別なく全体的に行なわれており,浣腸,採血等は有床診療所,100床以下の病院および老人保健施設で実施している割合が高い(表1)。
 なお,准看護婦生徒は「診療の補助」や「療養上の世話」について,無資格者が行なった場合,保助看法に違反する事実を,「よく知っている」34.4%,「一部知っている」44.9%と回答している。

表1 准館看護婦生徒が勤務中に行っている業務(N=450)                (%)
血圧測定 導尿 採血 注射 浣腸 その他欄に記載された業務
検温 点滴 清拭
無床診療所 N= 36 52.8 5.6 27.8 27.8 13.9 5.6 2.8 0.0
有床診療所 N= 84 92.9 31.0 38.1 39.3 39.3 3.6 2.4 1.2
病院100床以下 N= 88 79.6 21.6 29.6 25.0 35.2 4.6 1.1 4.6
100-500床 N=202 67.8 7.4 9.9 5.5 22.3 9.4 5.9 3.5
500床以上 N= 26 73.1 15.4 19.2 3.9 15.4 3.8 0.0 3.9
老人保健施設など N= 8 87.5 25.0 25.0 37.5 75.0 0.0 0.0 0.0
合計 N=450 74.7 15.3 21.6 18.0 28.0 6.4 3.6 2.9

養成所の運営上の問題と将来
 養成所の運営上の問題点としては,養成所の長および専任教員は現在および将来ともに「教育時間が1500時間では不十分」,「生徒の学力格差の拡大または学力低下」をあげている。また,准看護婦養成所の長および2年課程養成所の長ともに,現時点よりも将来において「入学志望者の減少」「生徒の就職困難」が問題になると答える割合が高い。専任教員ではさらに高い回答であった(図2)。
 養成所の将来に関して,准看護婦養成所の長は,「現状のまま准看護婦養成所を継続」49.3%,「准看護婦養成所を継続し,2年課程を併設」15.8%と回答しており,何らかの形で継続を考えているのは65.1%となっている。一方,「准看護婦養成所は廃止,3年課程に転換」11.9%,「同,2年課程に転換」3.5%,「廃止」6.4%で,何らかの形で廃止を考えているのは21.8%であった。
 また2年課程養成所では,「現状のまま継続」39.1%,「2年課程養成所を継続し,3年課程を併設」10.7%で,何らかの形で継続を考えているのは49.8%。一方で,「2年課程を廃止,3年課程へ転換」25.7%,「廃止」10.4%で,何らかの形で廃止を考えている養成所は36.1%であった。

准看護婦の雇用等

准看護婦の雇用
 准看護婦の現在の勤務先は,一般病院50.8%,無床診療所12.6%,精神病院11.5%,有床診療所6.2%となっているが,「将来の勤務先としてどのような医療機関を希望するか」の質問に対して准看護婦生徒は,一般病院47.3%,大学病院8.5%,有床診療所8.1%,無床診療所6.2%をあげている。また2年課程学生は,将来の職場の変更先を,一般病院31.6%,訪問看護ステーション7.3%,大学病院6.7%と回答,准看護婦では職場の変更を考えている者(19.2%)の希望先は,一般病院28.8%,無床診療所13.3%,老健施設12.9%,訪問看護ステーション12.2%である。
 一方,病院の長が考えている将来の看護職員の採用方針は,「主として看護婦を採用」「看護婦のみを採用」が61.1%と回答(表2),その理由として「准看護婦では現在の医療や看護に対応できない」41.8%,「看護婦比率を増やしたほうが経営上有利」40.2%等となっている。これを病院の規模別にみてみると,「看護婦のみ」「主として看護婦」を採用と答えた割合は,病院の規模が大きくなるにしたがって高くなる傾向を示している。

表2 将来の看護職員の採用方針                           (%)
  病院の長  看護部門管理者  診療所の長 
看護婦のみを採用 23.9 32.5 3.2
主として看護婦を採用 37.2 34.4 7.4
看護婦・准看護婦ほぼ同数を採用 25.5 19.6 12.2
主として准看護婦を採用 3.7 1.9 23.4
准看護婦のみを採用 0.5 0 12.2
当面採用予定なし 3.7 1.5 33.5
その他 5.3 10.1 8

 また,看護管理者が考えている将来の看護職員の採用方針および理由も病院の長と全く同様の傾向を示した。しかしこの回答は,前述の准看護婦生徒らが希望する就職先と相反する結果となっている。
 さらに診療所の長の考えている将来の将来の看護職員の採用方針は,「当面採用予定なし」が33.5%と際立った特徴を示したが,「主として准看護婦を採用」「准看護婦のみを採用」で35.6%と回答 (表2),その理由として「准看護婦であっても十分に業務に対応が可能」とする回答が78.9%と,「人件費が抑えられる」6.7%,「看護婦の採用が難しい」12.2%の回答をはるかに上回った。

准看護婦生徒の雇用
 准看護婦養成所の生徒を雇用する主な理由については,病院の長の76.3%,診療所の長の38.5%が「将来の看護職員の確保に役立つから」と回答。また「今後も准看護婦生徒を雇用したい」と考えている病院の長は41.5%,診療所の長で25.5%であった。


日本医療労働組合連合会の見解(抜粋)

1996年6月27日

@今回の調査結果は,(1)准看護婦制度・准看護婦養成が,医療機関への生徒の就労を前提としてなりたっており,「お礼奉公」の強制や看護婦資格取得を阻害するなどの構造的矛盾を持っていること,(2)准看護婦養成所の教育内容も,看護の実態と社会的要請からみても不十分なものであること,(3)看護職員確保という点でも,短期的な効果があるものの長期的な効果はなく,非経済的ですらあること,(4)医療機関も看護職志望者も看護婦資格への傾斜を強めており,准看護婦という資格が若年層にとって魅力のないものとなっていることなど,これまでいわれてきた「准看護婦問題」の内容を立体的に浮き彫りにする内容です。
 日本医労連は,これまで「看護婦110番」や「准看護婦学校緊急調査」,「看護学生アンケート」などを実施し,准看護婦(看護婦)学生の「お礼奉公」問題を始め,資格を持たない准看護婦養成所生徒などによる違法な看護業務の実態を社会的に明らかにし,それらの改善を行政や関係者に強く求めてきました。今回の調査結果は,これらの実態を明らかにし,私たちの指摘を客観的に裏づけるものでもあります。
 今後,准看護婦問題調査検討会においては,今回の調査結果をもとに,准看護婦制度の是非と准看護婦養成の存廃を含めて議論が進められることになります。何よりもまず,この調査結果を広く国民に示して,少子高齢化社会といわれる21世紀の医療と看護を担うことになる,優秀な専門職の養成と人材確保という観点から検討すべき課題を整理することが求められています。
 この間,准看護婦制度をめぐって議論されてきた経過を振り返ると,ややもすれば,准看護婦(士)など当事者をさしおいて,関連する職能団体や医療経営者の主張の仕合いに終始してきた感もあります。しかし,今回の調査は,准看護婦や准看護婦教育を担当している直接の当事者をはじめ,職能団体や医療経営者,学者,有職者などを幅広く網羅した厚生省の検討会で準備し,合意を得て全国的に実施されたものです。
 その意味では,准看護婦問題について,論議するための客観的な基礎的資料は得られたわけであり,これらをもとに,21世紀を展望した看護教育の抜本的改革の方向について,「明確に結論を出す」条件は整ったと考えます。
 日本医労連は,「すべての准看護婦を看護婦に」を掲げ,これからも准看護婦制度廃止・看護制度一本化を実現するため,いっそう奮闘する決意を表明するとともに,今後,検討会においても十分な議論をつくされ,准看護婦問題の抜本的な解決策を打ち出されることを強く期待するものです。


日本看護協会の見解(抜粋)

1996年6月28日

 日本看護協会では長年にわたり准看護婦問題に取り組み,本年5月17日の通常総会でも「准看護婦養成停止」を大会決議し,厚生大臣に陳情したところである。今回の調査結果は,まさに「早期に養成停止を実現すべきである」という私たちの主張を裏づけるものである。
 本会では,厚生省の「准看護婦問題調査検討会」が,将来,看護職をめざす若者の未来を輝くものにするために,次の点を踏まえて,公正で良識ある結論を出されることを期待する。
 (1)准看護婦養成所が,入学にあたって医療機関への勤務を「原則としている」ところが64.8%もある。しかも養成所の38.8%が,生徒を医療機関に就労斡旋している。
 (2)生徒が,採血など無資格者が行なってはならない業務を行なっている。
 (3)准看護婦養成所の生徒はほとんどが就労し,労働負担が大きく教育との両立が困難である。
 (4)准看護婦教育の内容は不十分と関係者の多くが指摘。病院の長・管理者の2人に1人が,今の准看護婦教育では「基礎教育・技術が不十分」だと答えている。
 (5)准看護婦生徒は「本当は“看護婦”になりたかった」と考えている。生徒の82.9%は「将来すぐに看護婦資格を取りたい」と望んでいる。
 (6)今後,准看護婦の就職が困難となることが予測されている。病院長が将来の採用予定者として望むのは,「看護婦のみ」「主として看護婦」が6割を超えている。「准看護婦のみ」と「主として准看護婦」と答えているのは,診療所長でも35.6%にすぎない。看護婦を採用する理由は「准看護婦では現在の医療や看護に対応できない」「看護婦を増やした方が経営上有利」と合わせて82.0%が答えている。
 以上のことから,本会の主張である准看護婦養成停止は,この結果からも大きな裏づけが得られたとの確信を強めている。  私たちは国民の皆様が病んだ時,看護の必要な時,安心して委ねられる質の高い看護を提供したいと心より考え,43万人の職能団体として日夜,努力を重ねてきている。今後も,看護に対する国民の皆様のご理解とご協力を得て努力する考えである。


日本医師会の見解

1996年7月2日

 今般,准看護婦問題調査検討会において,調査結果の概要が示されたところであるが,以下の理由により准看護婦制度の存続への結果が示されたと考える。
(1)診療所の長の今後の看護職の採用方針について47.8%が准看護婦の採用を予定している。「当面採用予定なし」の33.5%を除くと,採用を予定しているうち71.9%が准看護婦の採用を予定している。また,診療所の長が准看護婦を採用する理由として78.9%が「准看護婦であっても十分業務に対応が可能である」ことをあげている。このことから地域医療の現場においては准看護婦の存在は不可欠である。
(2)准看護婦希望者のうち1/3強である33.5%が「働きながらでないと進学できなかった」としており,医師会立養成所の果たす役割は大きい。
 また,「准看護婦養成所が第1志望だった」と答えた者が2/3弱である62.8%もいることから,准看護婦志望者に夢を持たせ,魅力あるものにするため,教育の充実等を図る必要がある。
(3)准看護婦養成所の長のうち,何らかの形で養成所の廃止を考えているものは,わずか21.8%にすぎず,またこのうち純粋に養成所の廃止を希望しているものは,6.4%にすぎない。一方で何らかの形で存続を希望しているは65.1%もあることから,厚生省はこれらの養成所へ全面的に財政等の支援を行なうべきである。
 なお,准看護婦生徒の勤務内容の中で「浣腸」,「採血」,「導尿」等があげられている。これは,准看護婦生徒から聞いた一方的な回答であるが,もし事実であれば,各医療機関においては襟を正すべき問題であると考える。