医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

病診連携の必要性を具体的に記述

開業医のための循環器クリニック 五十嵐正男 著

《書 評》森杉昌彦(森杉内科医院)

 『不整脈の診かたと治療』(医学書院)は,循環器病学に関心を持つ者として一度も手にしたことのない方はおそらく少ないであろう。1971年の初版以来,版が続けられているものはこの種の書物としては稀であろう。まさに長年にわたって「洛陽の紙価を高らかしめている」名著である。
 このたび,この名著の執筆者である五十嵐正男先生が『開業医のための循環器クリニック』を上梓された。
 先生は米国に留学中はその名も歴史に残る大家,Dr. Katz,Dr. Pick,Dr. Langendorfらに師事され,帰国後はわが国での第一級病院として有名な聖路加国際病院の内科部長として主として循環器病,特に不整脈の専門家として20余年にわたって活躍され,実に10年前から神奈川県茅ヶ崎市において個人開業されている。以上のようなご略歴からみても病院・開業医の仕事に詳しく,この種の書物を書く最適の方と考えられる。

専門医と一般医の受け持ち範囲を区分

 内容は,総論とも言うべき診断法「患者の評価」と,各論と考えられる「各種心疾患の診断と治療」とに分けられている。著者のキッパリとしたご性格を示すように,診断面からも治療面からも,はっきりと専門医と一般医との受け持ち範囲を分け,近年いろいろと取り上げられている病診連携の必要性を各所に具体的に述べておられる。たとえば,患者を紹介した時,幸いにも入院治療を受け,退院する時,専門医により患者の心機能について診療情報が送られてきたとする。記入されている各種のパラメーターの中で,一般医としては何よりもEF(駆出率)の数値を見るとよい,それが40%より少なかったら心機能低下例であり,心不全,心室性不整脈が発生する可能性がある患者として記憶にとどめておき注意を払う必要がある,とある(虚血性心疾患の項)。すなわち,心不全の患者の治療を依頼した際に病院から教えられる診療情報を正確に理解して,その後の治療の参考にしなければ,ただ責任逃れに患者を病院に送るのみで,病診連携の実はあがらないということである。
 また,治療の面でも,数多く販売されている薬品の中から選択法,使用法が具体的に商品名も入れて述べられているのは,われわれ一般医にとってはありがたい。

患者と人間として対することが真の目的

 上記のように著者は,一流大病院の責任ある地位から一転して個人開業医になられ,病院・診療所の特長と欠点を身をもって経験された。その両者の特長を生かして,患者を人間として大切に優しく取り扱っていくことが本書の真の目的と考える。
(A5・頁194 税込定価3,708円 医学書院刊)


女性器・乳腺細胞診に必携の書

カラーアトラス 女性性器・乳腺の細胞診 高橋正宜 著

《書 評》矢谷隆一(三重大教授・病理学)

産婦人科・乳腺細胞診断の重要性

 産婦人科領域において細胞診は日常的に用いられている検査法であり,その適応範囲は悪性腫瘍のみでなく,感染性の疾患,ホルモン環境による変化の診断等にも用いられている。乳癌についてもその罹患率は増加しており,将来的には女性の癌としては第1位を占めるとする予測もある。罹患率の増加を死亡率の増加と結びつけないために,効果的な対策が必要とされている。
 検診等の増加によることもあり,産婦人科領域の細胞診は,一般の施設では提出される検体のかなりの部分を占めているものと思われる。また乳腺の細胞診は外表から見える部位にあることもあり,美容上の問題や外来で容易に行なわれることから近年増加している。
 本邦でこの両者をあわせて一冊の成書としたものには,本書の著者も分担執筆をされているものがあるが,それは主に細胞像の読み方を目的としたものであり,組織学的基礎等についても詳細な記述が行なわれたものは未だ少ない。本書は“Color Atlas of Cancer Cytology”第2版をもとに十分に加筆されたもので,女性器と乳腺の分野についてまとめられたものである。

全体的な疾患の理解に寄与

 本書の女性器の部分で特筆すべきはdysplasiaから癌に至る分野で詳細な解説がなされており,それらが美しいシェーマや表を用いて分かりやすく記載されていることである。また使用されている写真も要点をとらえており,理解の手助けになるものと思われる。また米国の有名新聞紙上で女性器の細胞診の診断精度の問題が取り上げられたことにより検討が開始され,1991年に発表されたBethesda systemについても解説がなされている。Bethesda systemがそのまま採用されることは考えにくいが,今後本邦においても検体の適不適の記載や記載方法などについても検討が行なわれるものと思われ,一読されることをお勧めする。
 乳腺の部分では疫学的事項から組織学的事項に関しても記載されており,全体的な乳腺疾患の理解に寄与するものと思われる。
 両者とも使用されている写真は細胞像が多いのは当然であるが,それ以外にも組織像,ルーペ像,ミクロコルポスコピー像も提示されている。また必要な部分にはシェーマも使用されており,理解の助けになるものが多い。
 本書は,これから勉強を始めようとする方々の勉強の手助けになるのみならず,現在細胞診の現場で活躍されている方々にとっても新しい概念を理解する手助けになるものと思われる。座右に置いておかれることをお勧めする書である。
(A4・頁120 税込定価7,210円 医学書院刊)


臨床の現場に置いておきたい1冊

血液ガス わかりやすい基礎知識と臨床応用(第3版)
山林 一,河合 忠,塚本玲三 編集

《書 評》二瓶一夫(自治医大・臨床病理部技師長)

より現場に密着した本

 血液ガスの分析は,生体の酸・塩基平衡状態を知るうえで欠くことのできない検査法であり,医療の最前線とも言うべき臨床の現場にとって重要検査項目の1つに挙げられている。また,その結果によっては治療方針が大きく変わると言っても過言ではない。しかし,最近では医療機器の急速な進歩に伴い,特殊な技術も必要とせず,誰もが,どこででも,安易に血液ガスの分析が可能になってきているが,安易に測定が可能になればなるほど,基本的な事を理解しておく必要があるものと思われる。基本的な事を理解するための情報は,たくさんあるがいずれも難解なものが多く,多忙極まりない現場にとってより密着した本という事になると,そんなに多くはない。その点,今回出版された『血液ガス』第3版は,これから血液ガス分析を学ぼうとしている初心者や,現場の人たちにとって利用価値の高い本であり,一読をお勧めしたい。
 本書の特徴は第2版に比べ,図,表,写真等が多く用いられ,難解になりがちな基礎知識も比較的わかりやすく解説されており,初心者にとっても肩も凝らずに読み進むことができる。本書の特徴を若干紹介すると,第一章とも言うべき「血液ガスの基礎知識」においては,第2版に比べ,頁数も少なくして,必要最小限の基礎知識を凝縮した形で解説しており,日頃敬遠されがちな部分の導入部としては何の抵抗もなしに入ることができる。また血液ガスをめぐる最近の動向に関しては,現在わが国で市販されている血液ガス分析装置の特徴が紹介されており,機種選定をしなければならない現場の人たちにとっては非常に参考になるものと思われる。また,ソフト面でも,最近徐々に増加している非侵襲的な連続測定法に関する血液ガス分析に関する長所,短所も紹介されており,今後の血液ガスの動向を知るうえでも参考になる。

血液ガスの臨床応用例を多数呈示

 この本の最大の特徴と言うべきものに,血液ガスの臨床応用例がある。この本の頁数の半分以上を費し,臨床の第一線で活躍中の先生方が,豊富な写真を呈示し,症例を詳細に紹介している点である。日頃数値データを見慣れている現場の人たちにとって,各分野の代表的な症例を知るうえでは最も勉強になるものと思われる。また,このほかに血液ガスに関し国際的にも有名なSiggaard Andersen先生が執筆者に加わり,「動脈血の酸素ステータスとそのパラメーター」と題し,血液ガスの新しい概念についてコンピュータを使用した解析を紹介しているのも特徴の1つと思われる。
 生体の酸・塩基平衡状態を知る簡便な方法として血液ガス分析が手軽に行なえるようになり,臨床へ大きく寄与したことは事実であり,20数年前“アストラップ”と称する測定機器を使用した経験のある人たちにとって,現代の測定機器の進歩は驚くばかりであるが,機器が進歩すればするほど基本的なことが忘れ去られてしまう昨今,これから学ぼうとする人,あるいは現場の人たちにとって再考させられる本であり,臨床の現場に置いておきたい1冊である。
(B5・頁298 税込定価6,180円 医学書院刊)


医学生の学習段階に応じた教科書

NIM血液病学(第4版) 溝口秀昭,齋藤英彦 編集

《書 評》仁保喜之(九大教授・内科学)

 このほど,NIM lecturesシリーズの『血液病学』(第4版)が医学書院より出版された。溝口秀昭,齋藤英彦両教授の編集によるものである。

学生が早く臨床医学に興味を持つように意図

 このNIM lecturesは,従来の教科書と全く違った構想のもとに企画されたものである。「医学生が最初に習得すべき疾患の病理・生理学的理解ということに重点を置いて作られた教科書である」と,編者も述べているとおり,独特の編集方針により,学生が臨床医学になるべく早く興味を持つように意図されている。
 1978年に初版が上梓されて以来,学生の間でよく用いられ,各版とも増版が続き,次々に改訂され,今回は第4版として出版された。編者および執筆者が世代交代とともに大幅に入れ替わっている。執筆者は,各大学で教育と研究に携わっている第一線の方々で,従来と同じように分かりやすい図表が豊富に取り入れられている。また,最近の遺伝子レベルの情報も十分に加えられているし,参考文献も新しいものに変わっている。
 最近のトピックスや展望などは所々に囲み記事として取り入れ,学生の興味を引くように企画されている。
 血液各疾患の病態生理をまず基礎的に理解し,高学年に行くに従って,診断,治療へと進んで行くべき医学生の学習段階に応じた良い教科書になっている。ベッドサイドティーチングが始まるまでの知識を入手するのに好適で,手軽な教科書だと言える。
 医学生のみならず,医師の方々にも復習の意味で,ぜひ一読をすすめたい。よくまとまっているので,短時間に頭の中の整理ができるし,新しい情報もかみ砕いて分かりやすく解説してあるので便利である。
(B5・頁384 税込定価4,944円 医学書院刊)