医学界新聞

第40回日本リウマチ学会開催される

リウマチ性疾患の病因解明から治療へ



 第40回日本リウマチ学会総会が,さる5月23-25日の3日間,粕川禮司会長(福島医大教授)のもと,福島県立文化センターを主会場に開催された。学会には約2400名が参加し,内科医と整形外科医が相なかばとなった構成であった。
 海外から演者を招いて行なわれる特別講演では「免疫応答の遺伝子治療」「T細胞受容体レパトワ,スーパー抗原とリウマチ因子」「アポトーシスと自己免疫」「人工膝関節の問題点」など最新のトピックスが4題,また招請講演2題の他,シンポジウムでは「慢性関節リウマチの病因をめぐって」「変形性関節症の病因・病態と保存療法」「リウマチ性疾患の新しい治療法」「抗リン脂質抗体症候群」が取り上げられた。


スーパー抗原と熱ショック蛋白

 慢性関節リウマチ(RA)の成因,病態は不明であるが,近年発達した免疫学,分子生物学の手法を用いた病因解明が急ピッチで進められているのが現状である。
 その方向性を示すべく,粕川氏による会長講演が「慢性関節リウマチ成因についての一考察」(座長=埼玉医大総合医療センター教授 阿部達氏)と題して行なわれた。粕川氏は,教室で研究が進められているスーパー抗原とRA特異的抗原であるheat shock protein(熱ショック蛋白:HSP)を中心に,RA成因モデルを解説した。
 スーパー抗原はT細胞レセプター(TCR)を介してT細胞にシグナル(活性化あるいは不活性化)を与える物質。同氏はスーパー抗原で刺激されたT細胞をスキッドマウスの関節に投与すると滑膜の増殖がみられることを提示。さらに各種実験から,刺激により増殖を示したT細胞中にデリーションを免れたクローンが存在すると述べ,「RA患者では,スーパー抗原あるいはHSP特異抗原に刺激され増殖したT細胞のうち,デリーションを免れて生き残っていたT細胞がRAの主たる病態である軟骨破壊・滑膜障害に関係する」と報告した。
 またリウマチ学会設立40年を記念し,塩川優一氏(日本リウマチ財団理事,順大名誉教授)による記念講演「リウマチ学40年の歩みと将来への展望」が持たれた。塩川氏は今年6月から厚生省により「リウマチ科」が標榜科名として正式に認められたことから,今後リウマチ科標榜医として何をすべきかを提言,最後にRAの定義の混乱,非統一性を指摘し,リウマチ学はまだ緒に付いたばかりであると結んだ。

病態形成因子をターゲットに

 リウマチ性疾患の病態形成に関与する因子が着実に明らかにされる中,それをターゲットとした治療法が開発されつつある。シンポジウム「リウマチ性疾患の新しい治療法」(座長=東医歯大教授 宮坂信之氏,東北労災病院 斉藤輝信氏)では,病態の異なる種々のリウマチ性疾患ごとに新しい治療法が提示され,その効果と問題点,新たな可能性が報告された。
 RAに焦点を当てた報告では,大原守弘氏(福島医大)が,関節障害に関与すると考えられる好中球を末梢血中から除去する顆粒球体外吸着療法の効果をテーマに登壇。また吉野愼一氏(日本医大教授)が,発症後3年以上でステロイド,DMARDsを投与するも活動性がコントロールできないRA患者におけるRaMS(根治的多関節滑膜除去術)の効果を報告。施行後,患者は米国リウマチ学会のRA臨床寛解基準案の項目を満たし,その効果は3年間持続,さらにRAに特異性が認められるHLA-DRB1・0405陽性率も低く,骨破壊度は有意に抑制されたと発表した。

IL-6シグナル伝達遮断

 西本憲弘氏(阪大)は「ヒト型化抗IL-6レセプター抗体を用いた慢性関節リウマチの新しい治療」をテーマに登壇。患者の関節液中にはIL-6が大量に生産されることから,IL-6シグナル伝達阻害による治療の可能性を考案。IL-6とそのレセプターの結合部位に対するマウスのモノクローナル抗体のCDR(相補性決定領域)部分以外をすべてヒト免疫グロブリンに置き換えたヒト型化抗IL-6レセプター抗体(rhPM-1)を作製した。複数の免疫抑制剤が無効,または使用できないRA患者に対し投与したところ,自覚症状の改善,またCRPや赤沈など臨床検査値の著明な改善が認められた。また肝機能,腎機能などへの副作用は認められなかった。
 西本氏は「RAの治療法として,rhPM-1の投与によるIL-6のシグナル遮断が有用である可能性が示唆された。長期的なフォローをしてみないとわからないが,この方法によって,少なくともRAの関節破壊の進行を阻止できるのでは」と述べた。