医学界新聞

「全人的医療を考える会」主催

『サマーワークショップ'95』報告記

冨岡公子 全人的医療を考える会代表世話人


 全人的医療とは,患者を生物学的,身体的視点からのみ捉えるのではなく,丸ごとの人間として,心 理的,社会的,倫理的な側面をも考慮して行なわれる医療のことをいいます。これは何か特別の医療を意 味しているわけではありません。いつの時代においても,心ある人たちは,単に病気を機械的に治療する のではなくて,患者が1人の人間として持つ様々な問題を深く理解して医療を行なってきたと思います。 全人的医療とは,こうしたよき医療であり,そしてあたり前の医療であると私たちは考えています。

全人的医療を考える会の意義

1)「全人的医療を考える会」は,全国規模の「サマーワークショップ」や各地域ごとの「地区ミニワー クショップ」の開催,情報交換の場としての会報発行などを主な活動とする学生の会です。
2)全人的医療は,昔からの多くの医療従事者によって実践されてきました。しかし,臨床実習や現場 において指導者から,医療者としてのあり方,患者との接し方について,有言,無言の教えはあったにせ よ,体系的に学ぶ機会はありませんでした。私たちは,様々な学習方法で体系的に学べるようなシステム を考えてワークショップで実践しています。3)私たちは全人的医療を実践するために,具体的にどのよ うな形で取り組んでいくべきか,統一した見解を持とうとしているわけではありません。1つの山を登る のにもいくつかの道があるのと同様に,ワークショップにおいても様々な面から全人的医療にアプローチ していますし,それを受けとめる個人によっても捉え方は異なります。私たちはこのように多くの道があ ることを積極的に肯定し,個人の気づきを尊重しています。

ワークショップではこんなことを

 全人的医療を考えるには,机上の学習よりも主体的な経験を通じて体で学ぼうと,1980年から全国各 地で小規模なワークショップが行なわれていました。これに基づいて1983年12月に全人的医療を考える会 を結成し,続いて1984年3月,全国規模で「第1回軽井沢ワークショップ'84」を開催しました。以後,第2 回からサマーワークショップとして毎年8月に全国各地で開催し,今年で13回目を迎えました。
 昨年開かれたサマーワークショップ'95の内容を紹介します。
セッション
 基本的には全員が参加します。単なる講演形式ではなく,体験学習をめざしています。例えば,「イ ンフォームド・コンセント」では,まずロールプレイを通じて何が問題になっているのかを参加者自らが 考え,その後,医師と法律家と患者の声を代表して「COMLささえあい医療人権センター」の方々に医療 の立場と法律の立場と患者の立場からコメントをしていただきました。そして,それをふまえて質疑応答 を行ないました。そのほか「ヒトから人間へ」では幼児教育について,「全人的医療の理想と現実」では, OBの先生に現場の現況や問題点,そして,今私たちが全人的医療を考える会で学ぼうとしていることは, 実際に活かされるのか,等についてのコメントをいただきました。その後,それをふまえて,グループディ スカッションで話し合いました。
分科会
 分科会は2日間にわたって行なわれ,有志が企画したものの中から,各々が興味のあるものを2つ選択 して参加しました。「東洋医学」「心身医学」「脳死と臓器移植」「行動科学入門」「Death Education」 「国際医療協力」など多くの分科会があり,医療全般について,看護学生や医学生,ときに非医療系の学 生ともディスカッションができます。そのほか,看護学生が担当する分科会では,「地域から医療を考え る-看護の立場から」があり,これもケーススタディとディスカッションを通じて,地域で誰に何ができ るのかを考えていきました。

参加者の声

 今回初めて参加してくれたMさんの感想です。
 医療に関わる様々な課題や問題を,多角的にとらえる機会を何らかの形で,このサマーワークショッ プは提供しうるのではないでしょうか。それまで知らなかったことに出会うことも,それまで知らなかっ た人に出会うことも,その大なり小なりの刺激がこれまでの「自分」への確認や,これからの「自分」の 展望を与え,それが自信につながることもあれば,不安や失望に終わることもあります。けれども,そこ から再び新しい可能性が見えてくることを私はこの夏,発見することができました。
 何かを与えてもらおう,と参加することはお薦めできませんが,何かを得るか否かは,文字通り, 「自分しだい」であり,その“何か”は,新しい友人かもしれませんし,新しい問題意識や,希望や失望 かもしれません。それだけに終わらせることなく,そこから何かが始まる,始められるのだということを 実際に体現している人に出会うと,「理想に終わらない医療」は簡単ではない,しかし,それは決して不 可能なことではないということを信じることができるようになります。

一緒に活動しませんか

 参加した人すべてが自由に意見を言い合える“開かれた会”です。全人的医療についてともに考え, 学んでいきましょう。
問合せ先 林励治(琉球大医学部3年)
TEL(098)944-0268
冨岡公子(関西医大5年)
住所:〒531 大阪市北区国分寺1-2-23

●全人的医療を考える会主催 サマーワークショップ'96 in神戸
 開催案内 8月17-20日/神戸市

 全人的医療を考える会では,第14回サマーワークショップを神戸市で開催する。今回は「わかりあう  支えあう 力を合わせて『チーム医療』」をテーマにセッションや体験学習を行なう。なお日程等は下 記の通り。
期間〕1996年8月17-20日
会場〕関西地区大学セミナーハウス
問合せ先〕荒神裕之(副実行委員長,琉球大3年)
TEL&FAX(098)893-8825
E-mail:QZIO7676@niftyserve.or.jp
難波幸子(実行委員長,産業医大5年)
E-mail:GFBO3321@niftyserve.or.jp