医学界新聞

連載第3回 ― 受験準備から合格まで

USMLEを受験して

荻野周史 ペンシルベニア医科大学附属Allegheny General Hospitalレジデント


NRMPに参加する

 NRMP(National Resident Matching Program)は,いわばレジデント応募者と病院との間の結婚仲介人みたいなもので,全米のすべてのプログラムと医学生が参加することになっています。各々の応募者と病院との間の面接のあとで,応募者は自分の希望のプログラムのリストを提出し,病院側は採用したい応募者のリストを提出します。この提出期限が2月中旬です。あとは提出されたリストを入力したコンピュータが自動的に応募者を病院に割りふっていきます。3月中旬のいわゆる“Match Day"にはその結果が参加者に公表されます。
 私たちは必ずしもNRMPに参加しなければならないわけではありませんが,一応全米のすべてのプログラムはNRMPに参加することになっていますので,参加しないと得られるポジションの選択の幅が狭まってしまう恐れがあります。確実にポジションが得られる人でない限り,NRMPに参加するほうがいいと思います。

めざすプログラムに応募する

 さてApplication請求の手紙を送ってしばらくすると,一部を除いてプログラムからパンフレットや書類を送ってきます。私の場合,手紙を70通出したうち50通近くの返事を得たのですが,結局応募可能なプログラムは33か所でした。Pathologyは伝統的にFMGが多く,外国人に対してもたいへん反応がよいという印象を得ました。他科では内科,小児科,家庭医学,精神科は比較的入りやすく,外科系はたいへん難しいと言われています。特に眼科,整形外科,皮膚科,放射線診断科などはFMGがほとんどいないようです。
 応募するにあたっては,最近はNRMPがUniversal Applicationを作成しているので,これにタイプライターで必要事項を記入し,あとはコピーしてサインと日付のみオリジナルで記入すれば,たいへん手間が省けて便利です。ただし,プログラムによってはUniversal Applicationを受けつけないところもあるので,よく注意事項を読みましょう。必要書類を以下にあげます。

用意する書類リスト

(1)Application form
 UniversalあるいはIndividual
(2)Personal Statement
 Universal Applicationにはすでに含まれています。大事なことは自分の生いたちから,医学を志した動機,大学時代,その専門科を選んだ動機,卒後の経験,アメリカのプログラムに入りたい理由,将来の計画などを簡潔にまとめることです。だらだらと書くとプログラム側に嫌われます。まだ卒後まもない実績のない医師にとっては,このPersonal Statementが重要です。
(3)Professional Goal
 将来の計画をを要求する所も。
(4)Reference(推薦状)
 少なくとも3通要求してくることが多いです。自分の専門科の教授,助教授,アメリカへの渡航経験やレジデント経験のある医師,可能ならばアメリカ人医師に書いてもらうとよいでしょう。内容ついては,本人が熱心でまじめで,特に将来性があることと,他の人とうまく一緒に働いていること(協調性)を書いてもらうとよいでしょう。推薦状は書いた医師のofficeから発送されなければなりません。
(5)Medical School Dean's Letter
 学部長の推薦状です。これは自分で書いた推薦状に学部長のサインをいただくということになるでしょう。東大の場合は医学部国際交流室があり,こうした事務を取り扱っていました。
(6)Medical School Transcript
 大学の成績証明書のことです。英文のものを大学の事務所から発行してもらいます。(5)(6)は大学の事務所から直接アメリカへ発送されなければなりません。
(7)ECFMG Certificateのコピー
(8)USMLE Step1,Step2の成績表のコピー(高得点ならTOEFLの成績表のコピーも)
(9)Curriculum Vitae(履歴書)
 自分の受けた教育,経験,取得した資格等を書きます。私の場合,沖縄米海軍病院にいる間にBCLS(Basic Cardiac Life Support),PALS(Pediatric Advanced Life Support),ACLS(Advanced Cardiac Life Support),ACLS instructorを経験し,いずれもCertificationを得たのでそれらをつけ加えることができます。その他必要に応じて,書類を送りましょう。

Interviewの準備

 Applicationを送り返したあとはInterview(面接)の招待を待ちます。面接は10月頃から始まり,1月まで続きます。一般的には12月や1月といった後半のほうが,自分の印象が相手に残るからよいといわれますが,逆にプログラムによっては,予定の人数をこなしてしまうと,面接を終えてしまうところもあるので,どちらがよいともいえません。また12月,1月は特に北部地方では,雪などで交通機関がマヒする恐れもあります。さらに12月20日ごろから1月2日まではクリスマス休暇に重なり,面接を行なわないところが多いので,避けましょう。
 面接の日程を組むためには,プログラムに電話を直接かけるのがよく,手紙では時間がかかりすぎて効率的に組むことができません。ファックスでもよいかと思います。
 面接の日程を組むのはわりと簡単で,プログラム側もかなり融通をきかせてくれるので,遠慮なく希望の日程を伝えましょう。
 同じ地域にある病院はできるだけ連続して面接を受けるようにするとよいでしょう。

Interview本番

 面接で大事なことは,質問の内容を把握することです。質問の内容がわからなかったら必ず何度でも聞き返しましょう。これはアメリカ人同士の会話を聞いていればわかりますが,彼らもよく“Pardon me"と聞き返しています。質問の内容がわからず,的はずれな応答をすると致命傷です。プログラム側にとって,外国人に対する面接の主要な目的は英語力の確認なのです。
 面接のマナーなど一般的なことは面接のマニュアル本を参照して下さい。できればアメリカで発行された本がよいでしょう。
 さていよいよ面接の本題です。プログラム側から何を聞かれたか列挙します。
(1)なぜ病理学を専攻するのか?
(2)今何をしているのか? なぜそうしているのか?(私の場合,なぜ沖縄米海軍病院でインターンをしているのか?)
(3)なぜ日本でなく,アメリカで病理学を学ぶのか?
(4)将来どういう病理医になるのか? ResearchかCommunity Practiceか?
(5)レジデントを終了した後,日本に帰るのか,アメリカに残るか?
(6)将来進みたいsubspecialityは何か?
 (5)でははっきり日本に帰ると答えるのがよいでしょう。というのは,アメリカに残るとすると公式にはvisaが得られないということになるからです。
 また面接では,気のきいた名刺を作っておいてそれを配るのもよいかもしれません。とにかくあらゆる機会をつかまえて自分を相手に印象づけるようにしましょう。
 面接では普通,レジデントと会う機会が得られます。レジデントの率直な感想・意見はよく聞いておき,疑問点も答えてもらうとよいでしょう。面接中にレジデントに会う機会のないプログラムは,レジデントがunhappyである可能性があります。
 面接がすんだら,ほっと一息ですが,お礼の手紙やカード(ハガキ)を間髪入れずに出しておきましょう。私は日本で大量の浮世絵の絵ハガキを手に入れておき,面接が終わるたびに,お礼を書いてプログラム・ディレクターに送りました。

プログラムリストを提出する

 面接が終わったあとは,NRMPから送られてきた用紙に,自分の希望順にプログラムを記入していきます。これは,正直に自分の行きたい順に作成したほうがよいでしょう。応募者の作成したプログラムリストが病院側の作成する応募者リストに影響を与えることはありません。ある応募者(Aとします)がある病院を第1希望に,他の応募者(Bとします)が同じ病院を第3希望にしたとします。この場合,病院の作成したリストでBがAより上位であれば,BのほうがAよりも同じ病院にmatchするには有利なのです 自分の行きたいプログラムを上のほうにランクしておいても,損はないということになります。
 リストには,行きたくないプログラムは絶対書かないようにしましょう。matchの結果には絶対に従うということになっています。後で訴訟等に巻きこまれると大変です。

Match Day

 1995年のMatch Dayは3月14日でした。私はNRMPに電話をかけて,matchしたことを知りました。私自身,今までの人生の中で最もうれしい瞬間でした。その翌日(3月15日)にどの病院とmatchしたかがわかるのです。私は再びNRMPに電話をかけてAllegheny General Hospital, Canpus of Medical College of Pennsylvaniaとmatchしたことを知ったのでした。
 もしmatchしなかった場合には,unfilled positionを自分で探して,直接プログラム側と交渉することになるでしょうが,その詳細についてはNRMPから情報が手に入ることになっています。
 ただ私たち外国人にとっての時差,あるいはプログラム側にとっての,面接をしていない外国人を雇うリスク等を考えますと,matchしなかった場合ポジションを得るのはたいへん困難と考えられます。
 match後2週間くらいすると,プログラム側より契約書が送られてきます。これを熟読してサインをし,2部のうち1部を送り返しました。

Visa(J-1)を申請する

 私たちがレジデントとして渡米する際にはJ-1 Visaが必要となります。まずすべきことはvisa申請の準備です。そのために面接以前からでも,ECFMGからIAP-66 Applicationを取り寄せて熟読しておきましょう。IAP-66というのは私たちがJ-1 Visaをアメリカ大使館に申請するときに必要な書類です。
 ECFMGのinstructionを読みますと,「Ministry of Health」より政府の証明書(つまり本人がレジデント終了後は本国に戻るという証明書)が必要であると書かれています。
 (1)当人が大学病院,大学の医局,大学院に所属している場合,文部省が証明書を発行します。
 (2)当人が一般病院勤務で,大学とつながりがない場合,厚生省が証明書を発行することになります。
 (1)の場合,まず自分で申請書を作成します。必要書類は誓約書,略歴等に関する書類,保証書です。保証人は自分の指導教官になります。これらは早めに準備して,行き先のプログラムが決定したらすぐに完成させて大学の事務所に提出します。これらの書類は大学の事務所から直接文部省に送ってもらう必要があり,できあがった証明書も大学の事務所に届けられます。
 (2)の場合,まず厚生省から申請書を取り寄せ,それに従って申請書に記入します。注意するのはECFMG Certificateや病院との契約書の日本語訳が必要なことです。これらは,内容がわかればいいとのことで,自分で訳してもよいそうですが,非常に時間と労力がかかります。翻訳業者に頼めばさらに時間とお金(多額!)がかかるでしょう。(1)のほうでは契約書の翻訳も不要で,しかも行き先が決まり次第すぐに申請できるので,(2)より早く証明書が手に入ります。 証明書を入手次第すぐにIAP-66を申請します。申請後,4週間ほどでECFMGからIAP-66が送られてきました。あとは必要書類を大使館に申請すれば,1週間でJ-1 Visaが手に入りました。
 このようにたいへんな数のpaper workとお役所仕事の後に,ようやく渡米できることとなりました。これまで述べてきた私の経験が他の医師,医学生のみなさんにとって参考になれば幸いです。

Information Booklet 申し込み先

 ECFMG
3624 Market Street
Philadelphia, PA19104
 横須賀米海軍病院
〒238 横須賀市本町1丁目 同病院内科
石橋尚子
参考文献
1)『1995 Information Booklet ECFMG Certification and Application Step1 and Step2 of the United States Medical Licensing Examinatis(USMLE)and ECFMG English Test』ECFMG
2)小林恵一著『アメリカレジデント留学道しるべ』日本医学医療交流財団