医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


カルガリー家族看護モデルを実践的に紹介

家族看護モデル アセスメントと援助の手引き 森山美知子 著

《書 評》太田喜久子(聖路加看護大教授)

 「看護は健康生活に関して何らかの援助を必要とする人が,よりよい健康生活をその人らしく送ることができるように援助するものである。その人の援助をより効果的なものにするために,その人をとりまく家族への支援も看護活動の大事な要素となる」という捉え方が,私が学んできた看護であり,今も看護の主な考え方となっているものだと思う。
 このような個人への働きかけを中心にした活動を行なってきた看護は,それなりの知識や技術を蓄えてきたと思うが,家族構成員全体を対象とした働きかけに必要な知識と技術を持ち合わせてきたとはいいがたい。家族を1つの単位とする構成員全体への働きかけは,かなり高度な知識と技術がなければやっていくことはできない。生半可なやり方では援助どころかかえって事態を悪化させてしまうことにもなりかねない。

理論的基盤から具体的な展開例まで

 私が疑問に思うのは,そのような家族を援助の対象とするとき,家族の中でも主たる介護者のみを対象とするのではなく,家族全体を対象にするとはどういうことなのか,またそれはどのようにすればできるのか,ということである。このような疑問を抱いていたので,本書を手に取ったとき,それにどのように答えてくれるのだろうかととても興味深く思った。
 この本は,カナダのカルガリー大学のライトとリーヘイによる『ナースと家族-家族アセスメント・介入の手引き』(1994)をもとにしており,著者がその概要説明と日本の事例を加えたものである。カルガリー家族アセスメントモデルと介入モデルは,看護実践の場で活用するために看護婦によってはじめて開発されたものであるという。
 本書では,このモデルのシステム論に基づいた理論的基盤やモデル内容の説明,さらに具体的な展開例を含め,理論と方法論が全体にわかりやすく記述されている。また著者によるモデルの活用例も紹介され,読み手にとっての内容理解を助けてくれている。家族アセスメント時のポイントやインタビュー法,家族関係の全体的な把握の仕方など,実践的に活用しやすく書かれている。

家族看護に関心を持つ人に

 読んでみて,システム論の活用が家族を1つの単位として捉えていくための鍵になること,さらに援助方法は問題の原因を追求することではなく,今の関係パターンに気づきそれをどう変化させていくかであるという主張がわかり,私の疑問は少しずつ解け始めている。
 しかしこのモデルは読んでわかったつもりですぐに使えるものではないだろう。これを使いこなすには看護婦にそれなりの力量が求められると思う。カナダでは大学院のスペシャリストコースでこれを取り上げていることからも,このモデルの使用には熟練や訓練が必要だと思われる。またモデル実施中も,1人で行なうのではなく専門家によるコンサルテーションや仲間のアドバイスを得られるようにすることが必要だろう。
 本書はさまざまな家族への援助に直面している看護職はもちろんのこと,家族看護学の確立が提唱されている中,家族看護に関心を持つ人にとっては有用な書であるといえる。また裏づけを持った意図的な看護の働きかけの術を私たちは1つでも多く積み上げていく必要があるが,そういう意味でも本モデルがさらに日本の土壌の中で精錬され,さまざまな場で活用されていくことを期待する。
(A5・頁224 税込定価3,296円 医学書院刊)


様々に活用できるわかりやすいテキスト

基本から学ぶ看護過程と看護診断(第3版) R.Alfaro‐LeFevre著/江本愛子 監訳

《書 評》阪本恵子(愛媛大教授・成人看護学)

 本書は,看護過程と看護診断についてわかりやすく書かれているので(江本先生らの翻訳がよいことも好評),第1版以来,看護学生のテキストや,ナースの看護理論(看護モデル)に基づいた看護過程や看護診断の研修会のテキストの1冊として活用している。

用語解説とキーポイントを活用

 本書を活用している関係上,効率のよい学習の一方法として,以下のように指導している。
 それぞれの柱ごとに,「用語解説」と「キーポイント」があるので,まずそれらに目を通し,次に本文の内容に進むとわかりやすい。時間のない場合には,用語解説とキーポイントだけでも予習して臨めば授業がわかりやすい。なお,目次を開き,それぞれの柱ごとに用語解説を同じ色でマーカーし(例:緑),本の上の各頁にインデックスを1,2,3……とつける,キーポイントも同様にして(例:ピンク),本の右横の各頁にインデックスを1,2,3……とつけるのも一工夫である。
 第3版は,上記の他に学習目標や練習問題が加わっているので,これらの解答を考えながら本文を読解していけばいっそう効果的である。

事例も豊富に取り入れる

 看護過程は問題解決過程の一形態であり,看護の守備範囲としての健康問題を,アセスメントし,看護診断し,解決のための計画(目標・計画)を立て,実施,評価するという一連のプロセスである。また,看護過程は看護の方法論であり,看護を展開していく一行程にすぎない。
 本書は,看護過程と看護診断については書かれているが,看護理論(看護モデル)に基づいた内容ではない。したがって,本書の内容を,ロイやオレムの看護理論(看護モデル)に基づいた学習に組み入れる必要がある。
 筆者は,松木の生活行動様式とロイの適応看護モデルを成人看護学分野のコアに据えているので,これらに関連する著書に加えて本書も活用している。本書の役割は,看護学の授業がまだ進んでいない,1年次後期の「成人看護学概論:成人期にある健康障害をもつ人の問題解決過程」の中で威力を発揮する。すなわち,わかりやすいのである。
 さらに本書のよさを追加すると,実際に出会う事例が豊富に取り入れられていることがあげられる。「3.診断」では,看護婦の守備範囲である看護診断と他の職種(関わりが最も多いのは医師)と協力/共同して取り組む共同問題(collaborative problems)/潜在的合併症(potential comolications)の違いや診断推論法,「4.計画」では,目標と成果であるgoalsやobjectivesとoutcomesの区別など,具体的な記述でわかりやすい。看護過程・看護診断の勉強に欠かせない一冊である。
(B5・頁240 税込定価2,575円 医学書院刊)


改訂を経てさらに充実した医事法規の解説書

医療従事者のための医事法の知識(第2版) 鈴木峯三郎 著

《書 評》沢 桓(日本臨床工学技士会長,東医歯大・麻酔蘇生科)

 本書の初版を東京医科歯科大学の生協で買ったときに,「医事法」と書いてあるので,医療法とか医師法は聞いたことがあるが医事法という法律は聞いたことがないが,果たしてあるのかなと疑問に思いました。そして「はじめに」を読んだところ,「医事法規」というのは,医療に関する法律,政令,省令,条例,規則,通達等を総称したものであり,これを研究する学問を「医事法学」あるいは「医事法制」というと書いてあったので,なるほどとわかりました。

医療過誤の事例を多数示す

 本書には「医療施設」,「医療費」,「医療行為」,「医師の権利と義務」,「医療過誤」,「医の倫理と関連する医療行為」,「臨床工学技士法解説」が豊富な実例によって具体的に説明されており,非常に役に立ちました。
 特に医療過誤については沢山の判例が示されており,その責任の所在の判定は非常に難しいので,日常業務にあたっては極力安全に留意して事故を起こさないようにしなければならないなと肝に銘じて思いました。
 臨床工学技士である私にとっては医師以外の「コメディカル・スタッフの法律上の地位と責任」および「臨床工学技士法解説」が書かれてあるのを非常にありがたく思い熟読しました。

非常に有用な「主な法規の解説」

 初版では,医療法については「医療施設は医療法によって病院,診療所,助産所に区別されている」という説明が,また医師法については医師の権利と義務の章で説明があり,お書きになった鈴木先生にとっては自明のことでしょうが,読者の私にとっては両法律の違いがもっと表に出る形で説明されているほうがよいなと思っていました。それが改訂版では,第2部の「主な法規の解説」で,「A.医療施設に関する法規」:医療法,「B.医療関係者の身分と業務に関する法規」:医師法,臨床工学技士法など……のように法規の目的がはっきりした形で説明されており,非常にわかりやすくなったと喜んでいます。
 この主な法規の解説は,法律にうとい私どもにとっては非常にありがたい部分です。例えば昨年の第8回の臨床工学技士の国家試験に「老人保健法で定められている保健事業はどれか」という問題が出ていますが,これは221頁の保健事業の種類を見れば一目瞭然です。また「医療施設について正しいのはどれか」という問題については初版の第2章医療施設」の説明だけでは「老人保健施設は診療所に含まれるか」の問いの正否がはっきりしませんでしたが,改訂版では老人保健法の解説があるので正否がわかります。また医療過誤の電気メス器誤接続過失障害被告事件の中で,(特注)製造物責任法(PL法)の解説があるのも時宜にかなったことで非常に有用です。
 また頭書に第1章「法律と医事法規」が加わり,その中で法の概念,法の体系と医事法規,法律の原則の解説がなされているのも法律について素人の私どもにとってありがたいことです。
 この改訂版が医師のみならず臨床工学技士を含めたコメディカルの皆様に広く読まれることが望まれるところであり,技士会長の私としては本書を都道府県技士会などに紹介する義務があると痛感しています。
(A5・頁272 税込定価2,884円 医学書院刊)