医学界新聞

特別編集 医学書院ホームページ開設記念

鼎 談 そろそろあなたもインターネット

永田 啓
滋賀医科大学眼科・
医学情報センター,
ワシントン大ヒュー
マンインターフェイ
ス研究所留学中

岡 美智代
筑波大学博士課程・
看護・リハビリテー
ション専攻
吉原 博幸
宮崎医科大学教授・
医療情報部

 

そもそも「インターネット」とは?

 吉原 今日は「インターネットと医療・健康情報」をテーマにいろいろ話していきたいと思いますが, まず話は大きく2つに分かれます。1つは一般の人も含めた,従来の出版の形に近い情報提供ということ。 もう1つは,これまでは医療スタッフしか見ることのできなかった電子カルテなどのクローズドの業務情 報です。後者では病歴情報などについて,これからは患者さんにも参加してもらうというスタンスもあり うる。そういった意味でのオープン化とは別に,病院間,病院と診療所といった病診連携における電子カ ルテによるデータの共有化ということもあります。いずれにせよカルテの問題は根が深いのですが……。
 永田 そうですね。では,そうした医療との関わりを頭において始めましょう。ただ,インターネッ トと一口に言っても,全体的にはまだ言葉だけが先行していて,あまり理解されていないような気もしま す。おっしゃるように医療との関連でも,情報提供的なものと電子カルテ的なものがあって,仕事として 使うのか,個人レベルで使うのか,いろいろあると思うのですが,今日はどのあたりをお話ししましょう か。
 岡 特にナースの場合は,自分自身で始めている方はあまりいらっしゃらないようです。これだけ騒 がれていますから,多くの方が興味を持っていることは確かだと思うのですが。ただいざ始める前に,医 学・看護での実質面で,自分にとってどういったメリットがあるのか知っておきたいということはありま す。

「インターネット」への誤解

 永田 では,まず「インターネット」がどんなものか,というところから始めましょう。
 吉原 しばしば誤解されているのが,「株式会社インターネット」という会社が,NIFTYやPCVAN といったいわゆるパソコン通信と同じようにある,というものです。ですから少しコンピュータによるネッ トワークのことをお話ししますと,まず今でも少なくないのが,どこにもつながっていないスタンド・ア ローンのコンピュータです。これは,ネットワークされていない状態です。次に,同じ部屋の中でもコン ピュータ同士をつなげると,これがいわゆるLAN(Local Area Network:ある限られた範囲でコンピュータ 同士をつないで,データの共有や転送・電子メールでのやりとりなどを行なうもの)になります。この状 態がLANの最小単位ということになりますが,これを社内でいくつもつなげたものもLANです。さらに隣 の会社と通信しましょうということで,LANとLANをつなぐと,これが,WAN(Wide Area Network)にな ります。
 インターネットとは,結局,このWANでTCP/IPという通信手順を採用して全世界的に拡がっていっ たものなのです。その結果,LANがずっとつながっていって,いま地球上を覆っているという状態です。 いわば道路が世界中に通じている。それでその情報の道路に面して,そこを入口にしていろいろ何かしよ うというネットワークサービス,つまりお店のようなものがいまどんどんできています。
 岡 わかりやすいたとえですね。
 吉原 だから株式会社インターネットと誤解している人は,インターネットにつないだら,その瞬間 から何かサービスが受けられると思ってしまう。ところが今のたとえでいうならば,「何も知らない町に ポッと入り込むとそこが実はインターネットの世界だった。道路沿いに店がチラホラある」,それがいま の日本の状況です。だから何かサービスを受けようと思っても,どこに行っていいのかわからない。
 永田 NTTのサービスで,「こういうお店を探したいんだが」という問い合わせができますけど,同 じようなものがインターネットでも必要なので,いま次々にできています。その代表格として「Yahoo」 というものがあります。
 吉原 ただ医療ということで考えると,現在はプロの世界と,「家庭の医学」といったアマチュア向 けの啓蒙書のようなものの区別があるけど,インターネットで健康相談をやるということになると,これ は非常に微妙です。プロの線ぎりぎりというか,やはり規制とか法律上の問題があるでしょうから,きち んと分ける基準を考えておくべきです。

情報の質が変わってきた

 永田 はじめにLANが次々とつながっていくということで発展してきたインターネットも,最初飛び 交っていたのは,ほぼ文字だけの学術情報だったし,それで十分でした。しかしWWW(World Wide Web: 単にWebとも呼ばれる)というデータの提供方法が出てきて,去年あたりから一般の人にも一気に拡がっ てきた。そうやって一般の人もインターネットに接続していくとなると,やはり飛び交ってくる情報の質 も変わってきます。彼らはインターネットを情報を見にいくための道具だと考えていて,サービスを受け るのだという観点になっている。だからいまインターネットにとっても過渡期というか,移行期なのです ね。
 吉原 Webがこれだけ爆発的に普及したのは,GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス) があったからだと思うのです。以前のようにコマンドを知らなくても,画面上のアイコン(小さな絵によ る印)にカーソル(矢印)を合わせてクリックすればいい,という具合に誰でも直感的に操作できるよう になったわけですから。
 岡 コマンドというのは,何か文字を打つのですか。
 永田 ガチャガチャと打ちます。
 岡 ひと文字でも間違えていたらつながらないのですよね。
 吉原 もう全然ダメですね。
 永田 そういう世界だったんですよ。
 岡 いやですね。そういうのは。
 吉原 NIFTYサーブなどはとりあえずメニューで選べばよかったけど,それすらない世界でしたから よほど難しかった。だからGUIの意義というものは大変なものです。そうやって多くの人が使えるような 環境が整った上で,何か情報発信をしたい人は,このインターネットにIP接続さえしておけば,いわば自 前の放送局が作れます。それは個人であろうが,どんな大企業であろうが,情報を受け取る側からすれば 同等なのです。この魅力は大きい。
 永田 WWWを使うことで,情報にアクセスするだけじゃなくて発信も簡単にできるようになった。 いままで自分を売り込もうと思ったら,テレビに出るとか,とんでもない事件を起こして新聞に載るとか (笑),そういうことでもしなければ顔が出なかった。でもこれからは,自分のコンピュータに自分のペー ジ(ホームページ)を作っておけば,いろいろな人が見にきてくれる。面白かったらそれこそ1日に何百 人も見にくるわけですよね。つまり,これまでたいへんな額の資本投資をして行なっていた情報発信とい うものが,比べものにならないくらいの低コストでできるようになるということです。だからこそ,世界 中で「私も私も」という人がいっぱい出てきているのです。
 吉原 ただ,情報を集める,選択する,そしてそれを読みやすいように編集してわかりやすく表示す る,ということでは媒体こそ違うものの,おそらく出版や放送の業界がこの世界でも最も優れた能力を発 揮するはずです。今までの編集をはじめとするさまざまな技術やノウハウが,絶対的に生きてくるわけで す。

とにかく使いやすくなければ

 岡 実際に使う側からすれば,結局はいかに使いやすく,私のような初心者にとっても親切かという のが重要だと思います。何しろ私レベルだと,インストール(ソフトウエアをはじめにコンピュータ内に 組み込むこと)のところから苦しんでいますから。大学のほうで,一応LANの接続を担当しているのです が。
 永田 ホーッ(笑)。
 岡 いえいえ,教室内だけの担当ですから,5,6台の調整だけです。筑波大学ではなくて,非常勤で 行っている大学ですが。筑波大学の方はわりと情報センターがしっかりしていて,専門の人がいろいろやっ てくれますから,私たちはただ使う側として,画面に出てくるものをクリックするだけです。でも情報セ ンターというようなものがきちんと整っていないところで個人でやるとなると,専門的な知識  もちろ ん今日の先生方からすれば専門的な知識には当たらないのかもしれませんが  などが心細いですから, なにしろ接続の段階から苦しんでいて,立ち上げるだけでも時間がかかってしまいます。
 永田 そうやって一度情報センターの人がセットアップしてくれて,その後はどうですか。
 岡 セットアップさえしてもらえれば,トラブルがない限りはわりと大丈夫です。 「ああでもない,こうでもない」と触ってみながら,自分が行きたいところにたどりつけるといった感 じではないでしょうか。
 永田 誰もが使えるようにするためにはどうすればいいのか,という話に少し入ってみたいのですが, 情報センターといったしっかりとしたところから離れて,個人レベルでどうつなぐか,という問題がいま 大きくなってきていると思います。現状ではある程度のコンピュータの知識がないとつなげないですよね。 「ウインドウズ95」のときも,世間が騒いでいるから買ってみたものの,どうやってインストールすれば いいのだということがありました。それと同じような問題は,これからも少なくないでしょう。だから今 年くらいから,家庭用のコンピュータゲーム機のように,買ってきてつなぐだけでいいといった形のもの が普及してくるでしょう。
 岡 1つのパッケージになっていて,これだけでいいですよというものですよね。
 吉原 コンピュータというよりも,インターネットに接続するという目的に特化してしまったゲーム マシンですよね。
 岡 それはインターネット専用機ということですか。
 永田 どちらかというとそうかもしれませんね。一方はテレビにつないで,もう片方を電話につなぐ。 それでコンセントさえ入れれば,もうインターネットにアクセスできるというマシンがいくつかのメーカー から発売されるようです。ゲーム機能もそれぞれついているようですが。
 岡 システムへの加入費と月々の使用料と電話代を払えば,あとは細かいことはやらなくていいとい うことですね。でもいずれにせよ「簡単に」でないといけない。
 永田 そうですよ。冷蔵庫を買ってきてコンセントさえつなげば,あとは月々の電気代を払えば使え るという感覚でね。
 

インターネットにどう接するか

パソコン通信とインターネットのちがい


 岡 結局,パソコン世代ではない先生方は,今でも手書きで原稿を書いていらっしゃる方が少なくな いですよね。そういった先生方だって,必ずしも手書きにこだわっているわけではない。でもワープロに したってそれほど簡単ではない,という理由が大きいと思うのです。誰でも,簡単に,すぐに,というと ころがないとナースにしても一般の方々にもなかなか普及しないのではないでしょうか。
 永田 値段の問題もありますよね。
 岡 そうですよね。普及という点からすれば,他にもいろいろありますが。
 吉原 そういった簡単に使えるインターネット専用機を,だいたい5万円くらいで売り出すのでしょ う。それがドッと市場に出回ると,これまでLANからつないでいた大学関係者といった,いわば知的特権 階級ともいうべき動機付けが割合にはっきりしていた人たちだけではなくて,それこそ家庭の主婦が,子 どもに買ってやった機械を触ってみたら面白いからやってみよう,という話になる。
 岡 テレビ感覚でということですね。
 吉原 そうなると,そういった人たちにとっては,今のインターネットのメニュー内容では1週間も しないうちに飽きてしまうでしょうね。われわれにとっては非常に面白い部分があるのだけれど,彼女た ちにすれば少なくともまず買物ができなくてはならない(笑)。これはまだほとんどないですよね。
 飛行機とかホテルの予約,本の注文といったこともまだまだですから,これから充実させていかない と,せっかく買ってもらった機械もあまり使われないことになります。
 永田 現在ある数少ないショッピングでも,結構探し当てるのが難しいですから。
 吉原 広いインターネットの世界で自分が必要とする情報を見つけるのが難しい。だからそこで情報 の2次産業的な役割を果たすのが出版社や新聞社ということになると思います。例えば「朝日新聞」など はみんなよく知っているから,インターネット上にあればとりあえず見に行く。だから他の会社も自分の 所に行ける入口のマークを,そこに従来の新聞広告のように貼っておいてもらえばよい。
 岡 そこをまたクリックすればよいわけですよね。
 永田 そうすればそこへポーンと飛んでいける。
 吉原 そういったところがインターネットの便利な点です。

「どれが面白いのか」を知りたい

 永田 従来のパソコン通信では,その中に用意されているものしか使えませんでした。でもインター ネットの接続先というのは,「とりあえずの入口」であって,そこから先にどんどん行けるわけです。た だ,どこに行こうかというとき,まだ玉石混淆の状態で,どこに行けばいいかをどうやって知るのかとい うことがどうしても問題になる。
 吉原 今は百科事典的なものしかないですね。
 永田 ええ,評価はせずに,何でも並べているだけです。
 吉原 世界中におそらく何万というWebサイト(WWW形式で情報を提供している,いわばWWWの 放送局)があって,その中には「Yahoo」などに代表されるような検索用のサイトもあります。こうした ものを使って検索すれば,たしかにその関連のものということでダーッと出てはきます。でもここが面白 いですよといった評価はまだされていない。だからおそらく今後は評価ということが重要になってきます よね。ここは三つ星とか,そういったものがね(笑)。
 岡 その三つ星のランクといったのはどうやって決めるのですか。
 吉原 当面はその2次産業の情報提供者が独自の判断ですることになるのでしょうけどね。それで, それを逆に利用者のほうも評価するのです。あそこの評価はアテにならないからもう見るのはやめようと いうことにもなる。
 岡 最後には,信頼に値する確かな評価がなされているものが残っていくということですよね。
 吉原 いまそういった役割を果たしているもの  「サーチエンジン」というのですが,そこに世界 中の人がアクセスしにくるのだけど,その利用者からはお金を徴収していません。たくさんの情報を用意 しておいて,多くの人がアクセスしてくることを前提にしているから,そこに企業の宣伝を載せることで 広告料を取るというシステムになっているのです。

学術雑誌の論文掲載システムも変わる

 吉原 ところで,前から考えていることが1つあります。それは要するにWWWによって今までの学 術雑誌の出版システムが変わる可能性が強いということなのですが。
 永田 いま論文の査読という作業をやっていますけど,論文を書いた側からすれば納得のいかないこ とも多々ありますよね。いったい誰がどういった基準でジャッジしているのかを知りたい。だからとにか く投稿されたものを全部掲載して,そのジャッジメントの過程も明らかにするというオープン化が可能だ と思うのです。
 吉原 例えば有名な学術雑誌に「Nature」がありますけど,今の発刊システムは,原稿が投稿されて, それをレフリーがチェックするという過程を踏んでから雑誌に収録される。この収録される条件ですが, 例えばまず1冊に20篇までしか載りませんといったボリュームの制限がある。それと論文の質の問題,本 当にその論文に何か新しい視点があるのか,ということでずっと査読をやってきた。論文の質の吟味とい うことでは,レフリーが正しいという大前提があったわけです。
 ところが歴史的にみると,それが必ずしも正しくない(笑)。典型的な例として,メンデルの遺伝の 法則の論文が100年間お蔵入りしていたということがありますけど,そういったことをどうやって回避す るのか,本当に革命的な発見をわかるレフリーがいるのかといったことが,WWWによって解決できるの ではないか,ということです。それに何よりも,一冊に収録できるボリュームの制限ということが全くな くなってしまう。
 岡 そうすると,質の方は利用者の投票のようなもので決まるのですか。
 吉原 そういうわけでもありません。非常に乱暴な例かもしれませんが,まず私のサーバーに自分の 論文を上げます。次に例えば「Nature」のレフリーに手紙を出すのです。さらに「Science」とか他の学術 雑誌のレフリーにも手紙を出します。こういう論文を書いたけど評価してもらえないかということでね。 そうすると,「Nature」からは二つ星,「Science」は1つしか星をあげません,といった具合になります。 だから「Nature」という雑誌が,雑誌としてまとまった形でインターネット上に出版されるとすれば,そ こに掲載されるのは「Nature」のレフリー委員会が三つ星以上の評価をしたものを収録して,1つの雑誌に するということになります。

ジャッジ自体が妥当かどうか多くの人が判断できる

 永田 インターネットになったら,とりあえず投稿されたものを全部収録して,すべての論文に対す るジャッジも理由を付けて全部載せてほしい。それを見て,今度はその論文なりジャッジ自体が妥当なの か,ということをいろいろな人が判断できるようになるわけです。多くの人たちによってジャッジメント が正当かどうか議論できるようになれば,かなり評価の仕方も変わってくると思います。
 岡 これまでクローズドだった面をみんなで共有してオープンにしていきましょう,ということです ね。投稿論文のジャッジメントなどでは今まで非常にクローズドだったわけですから,そういったものを 公開していくというのは,特に若手研究者にはたいへん意義のあることだと思います。若手研究者の場合, 自分のあるいは人の論文がどのように評価されるかを知ることは,今後自分が研究していく上で大変勉強 になりますからね。
 吉原 特に学術系ということでは,そうなってほしいのです。質のよい論文を見たい人はとにかく有 能なレフリーのいる電子雑誌をクリックすれば,大体質の高い論文が読める。でも逆に,紙媒体ではこれ まで掲載されなかったような論文も含めて全部目を通したいということがあってもいい。いわゆる商業出 版の場合は,もっときちんとまとまったストーリーのようなものがまだ必要なのかもしれませんが。
 岡 看護の分野でいえば,医学とは違う視点があるのに,論文なり投稿なりで意見を言う場が少ない ということがあります。いまだに看護系の出版物は医師と比べれば少ないですから。医師の側にいろいろ と自分の意見を伝えるために投稿をしたいというナースも少なくないのですが,実際に投稿すると,やは り視点が違うということで落とされてしまって価値を認めてもらえないそうです。だからそのようなシス テムを構築すれば,医師の方々にも,看護の側にはこういう意見もあるのだということを知ってもらえる と思うのです。
 吉原 独自に作ってしまえばいいのですよ。
 岡 ああ,やってしまえばいいわけですね。
 吉原 でも実際にそうなっていくのは,ずっと先になるでしょうけどね。仕組みとしては数年前から できるような話なのです。でも人間の考え方というか,しがらみというか………。
 岡 しがらみが大きいですよね。
 吉原 ある意味では今までの権威を否定するような部分も出てきますからね。とりあえずオンライン の雑誌というものは,随分増えてますけど。
 永田 ただ,まだそのあたりの見せ方というところのノウハウがないように見受けられます。いかに 見やすくするか,使い勝手を良くするかということがね。へたしたら,見ただけで読む意欲が削がれると いうことにもなりかねない。だからそういった点では,これまで出版社が培ってきたノウハウというもの を生かしていかなくては,なかなかいいものはできないでしょう。
 吉原 アメリカでも,「今のインターネットは,いままで紙でやっていたことをただ場所を変えてやっ ているだけだ」という強烈な批判をしている人もいます。オンライン雑誌でも紙がそのまま電子化された だけだというものも少なくないですから。
 岡 ただ発信者のメッセージを読むだけでは,従来の雑誌や紙の出版物と変わりません。インターネッ トは相互コミュニケーションが可能なのですから,相互作用ということがもっと実現できるようになれば いいですよね。
 

インターネットが“地域差”をなくしていく

電子的距離感という新感覚

 永田 私の場合,いま医学生と,医学部の中の看護学科の学生の両方を教えていますが,インターネッ トに接続したからには,雑誌がうちの図書館には置いてありませんとか,情報がありませんといった言い 訳はさせないようにしています。
 これまでは東京と滋賀ではやはりかなりの情報格差がありましたが,インターネットが使えるように なれば地域差というものは基本的になくなると考えているからです。私自身,3月からアメリカに半年ほ ど留学しているのですが,その行き先に連絡をとって,どういう研究をしたいかといったアプローチもす べてインターネットを使ってやりました。逆にいま自分の大学でもネットワークのサポートをやっている のですが,これも向こうに行ってからも続けてやれという話になっていて,随分昔の感覚とは違ってきて います。
 国内ばかりか,どこの国に行こうが結構ネットワークがつながっていますから,電子的な距離感とい う新しい感覚が別に出てきたということですよね。吉原先生とは,滋賀と宮崎ですから600kmくらい離れ ていますけど,普段から電子メールのやりとりがあるし,インターネットを使ってお互いいろいろ見聞き していますから,距離感はほとんど感じません。逆に2kmくらい隣に立命館大学があるのですが,電子的 な距離感ということではかなり離れているような気がします。
 吉原 大学の内部にも無限の距離の人がいっぱいいますよ(笑)。
 永田 ええ,廊下ではよく顔をみるけど,無限に遠い人が……(笑)。まあそれはともかくとして, 学生にはインターネットなどを使ったコミュニケーションを早く体験させて,感覚を変えてもらうように していきたいと考えていま準備しています。
 吉原 ただ忘れてならないのは,顔を見たこともない人とコミュニケーションを取るのは,ある意味 で難しい面もありますよね。それでトラブルとはいかないまでも,失礼なことが起こる場合もあります。
 永田 「Net News」というのがあって,これはNIFTYのフォーラムみたいに順番に参加者が意見を書 き込んで議論を進めていくのですが,そういった形式だとやはり座長のような方がいて,うまく話を進め てもらうようにしてくれることが必要だと思います。これも,電子メディアだからといって情報に何の手 も加えなくてもいいわけではない,ということの一例ですが。

ナースにもパソコンが必要ということへの病院管理者の理解を

 岡 私の場合は,看護学の研究で情報交換ができるということを何かで知り,具体的に知りたいと思っ ていた情報を海外にアクセスして調べたことがあります。日本国内での看護研究領域での情報交換もでき るのなら,トライしたいですね。海外にアクセスした時は,「Nursing」というキーワードで検索したら 大量に出てきてどこを見たら良いのか迷ったことがありました。
 ただ看護の場合,大学などに所属している人はパソコンやインターネットも整備されていますが,臨 床の場合など,特にクリニックでは,ナースが自由に使えるパソコン自体ないところが多い。ですからと てもじゃないけどそういった恩恵を受けることなどない。インターネットだの電子メールだの言う前に, パソコンすら整備されていないのです。コメディカルの人たちもインターネットを使っていくには,まだ まだ病院経営者の理解が必要だと思いますし,使いやすいかどうかとか,インターネットがどうこうとい う以前の問題がまだ根強く残っています。臨床ナースの方々に,まず文献をCD―ROMやネットワークで 検索しましょうと話してもパソコンがないので苦労することが多いのです。
 病院管理者はナースもコンピュータが必要だということをもっと理解してほしいですね。臨床のナー スでも研究に取り組んでいる人は多いですし,また研究面のみならず看護上の工夫といった実践面でも, 情報がインターネット上に載って相互にやりとりができるようになれば,その意義は計り知れないものが あるように思います。

国レベルで取り組まなくてはならないさまざまな課題が

 吉原 あと何よりも言っておきたいのは,国レベルではとにかくインフラが不足していて,情報が伝 わるスピードがあまりにも遅いですよね。それに著作権や著作料の徴収システムも国が早急に取り組むべ き重要な課題です。
 永田 電子的なものを使ったときには,情報に対する価値を使う側が認めるようにしていかないとい けません。インターネットでは,誰もが情報を発信する側になる可能性が高いわけですから。
 吉原 学術系はオープンのところがほとんどですけど,どれくらいアクセスがあったかというランキ ングくらい出してほしいですよね。
 永田 ええ,今みんながどんなことに関心があるのかということがわかりますからね。何しろアクセ スの数ということでいえば,普通の出版物と比べたら桁が違いますからね。1日に何百件,何千件といっ た数ですから。それを蓄積していけば,1冊の本では到底ありえないような,何千万人という人がその情 報を見るということになるのです。もちろん単純に本とは比べられませんが,インターネットにはそういっ た側面もあることをお話しして本日は終わりたいと思います。