医学界新聞

第55回日本医学放射線学会開催される

「幸せを運ぶ放射線医学 」をメインテーマに



 第55回日本医学放射線会が,高島力会長 (金沢大教授)のもと,さる4月2―4日の3日間,横浜市のパシフィコ横浜にて開催された。
 昨年レントゲンによるX線発見から100周年を迎え,放射線医学は新しい世紀に入ったと言える。 今回のメインテーマは「幸せを運ぶ放射線医学―その技術と臨床」。開会の挨拶に立った会長の高島氏は このテーマについて,「人類に幸せを運ぶというX線発見の原点を忘れるべきでないこと,また今後の放 射線医学は技術と臨床が協力して歩まねばならないことを自覚してのもの」であると解説した。

一般演題の質を重視

 学会は,シンポジウム,教育講演,特別講演以外にも,フィルム・インタープリテーション・セッショ ンや,名誉会員と語るトーク・セッション,東京フィルハーモニー交響楽団によるコンサートなど様々な 企画があり,大規模な催しとなった。
 また,学会の基盤である一般演題(口演562題,展示256題)に関しては,今回の採用にあたって 論文の質を重視し,採択率は約75%となった。その分時間配分を工夫し,ポスター展示は8時から20時ま で閲覧時間を設け3日間通して展示されるなど,充実した議論のための配慮がなされた。
 さらに展示では,機器展示である「国際医用画像展」の他に,学術特別展示「放射線医学の Quantam Jump―"Intelligent" WorkstationとMultimedia」と題して,(1)コンピュータ支援診断(CAD)デモ ンストレーション,(2)インターネット入門,(3)電子保存・DICOM規格からなる電子情報合同展示が企画 され,多くの入場者の関心を集めた。

エネルギー差分法の有用性

 会長講演「金沢大学病院における胸部X線単純撮影の現況とエネルギー差分法導入について」で高島 氏は,Fuji Computed Radiography(FCR9501ES)を用いての胸部X線単純撮影における1回撮影エネルギー 差分法の臨床的有用性について,評価結果を報告した。
 エネルギー差分法とは,低圧と高圧でそれぞれのX線吸収量が違うことを利用し,骨のみ,軟部 組織のみの画像などを提供する方法。高島氏は1031例を検討した結果を解説し,軟部画像では非石灰化結 節の検出,骨画像では骨の変化の検出や病的所見の否定において,臨床的に有用であると述べた。また, エネルギー差分法は通常胸部X線画像に付加した情報であり,読影にも通常の画像と軟部画像,骨画像の 3枚並列が必要で,これまで指摘されてきた軟部画像の有用性だけでなく骨画像の有用性も認めるべきで あるとした。
 さらに,1回撮影エネルギー差分法導入に臨床的価値が認められるのはルーチン検査として実施 される場合であることを強調。また「なぜ胸部X線単純撮影がルーチン検査なのかについて放射線医学的 根拠を考える必要がある。ルーチンにするなら差分法の位置づけは十分あるが,検査の適応をよりはっき り打ち出す場合には,その位置づけは難しい」とまとめた。

放射線治療個別化に向けた指標

 シンポジウム(2)「放射線治療個別化のための先行指標」(司会=九大 増田康治氏,東女医大 大川 智彦氏)では,「放射線感受性などが症例ごとに把握できれば,必要かつ十分な無駄のない線量を用いる ことができるのではないか」(大川氏)という視点から,治療方針決定のための指標の可能性について討 議された。
 シンポジウムは(1)腫瘍細胞の放射線感受性,(2)放射線によるアポトーシス,(3)正常組織の放射 線感受性の先行指標,また(4)腫瘍細胞の易転移性の分子機構,(5)抗腫瘍免疫能と免疫学的パラメータの 順に進められ,5人の演者が報告を行なった。この中で芝本雄太氏(京大胸部疾患研)は,腫瘍細胞の放 射線感受性を規定する因子について,(1)intrinsic radiosensitivityの他,(2)腫瘍細胞増殖能,(3)低酸素細胞の 割合の3つに分けて解説。(2)では,潜在的倍加時間(短い腫瘍は通常分割照射に対して抵抗性を示す傾向 が示されている)を推定する方法として,サイトカラシンB注入法に言及した。さらにまとめとして, 「複数の因子を併せて推定する方法が望ましい」とし,治療の個別化に向けては,(3)の低酸素状態の推定 方法の研究が重要ではないかと述べた。また精度が比較的高いとされる正常組織の放射線感受性予測につ いては,安藤興一氏(放医研)が報告。正常組織障害発生への関与が指摘されるサイトカインの先行指標 としての有用性について述べ,総合討論では「感受性に個体差をもたらす因子を明らかにすることがスター ト」と指摘した。
 最後に司会の増田氏が,「治療は個別化していくべきであり,そのための先行指標の研究が進む ことで,治療成績も上がる」と今後の研究への期待を述べて,全体を結んだ。