医学界新聞

看護の実践にいかせる看護診断であるために

青木康子氏(第2回日本看護診断学会学術大会長,川崎市立看護短期大学教授)に聞く



 第2回日本看護診断学会学術大会は,きたる6月6-7日の両日に,横浜市のパシフィコ横浜で開催され ます。「日本看護診断学会」の活動そのものは「日本看護診断研究会」として5年間,滋賀県大津市を中 心に行なってきました。そのためか関西地区からの参加者が多かったわけですが,年々参加者が増えてき て,昨年名古屋市で学会として出発したのです。研究会の時から関東での開催はありませんでしたので, 学会設立2年目の今回はぜひ関東地区で開催をという声が上がりました。その背景には,これまで参加の 少なかった北海道・東北・関東地区の方々も参加しやすくして,全国的な組織に発展させていこうという 考えがあります。

「実践にいかす看護診断」をテーマに

 今回のテーマは「実践にいかす看護診断」としました。これは,関東地区周辺の評議員の方々に企画 委員になっていただき,定期的な会合を持ちましたが,その中で決定したものです。
 看護診断に対しては,「診断名をつけるために看護診断を行なうようになるのではないか」, 「翻訳の言葉でとっつきにくい」という意見があること,必ずしも看護職全体にコンセンサスが得られて いるわけではないことは承知しています。しかし,何のための看護診断かと言えば,対象の個別性をとら え,本当にその人に合ったケアを行なうためには,的確に診断ができなければいけないということが基本 なのです。実践に結びつかない診断,診断名のための診断ということは考えていません。そこで,現実的 な,診断と実践は一連のものという考えを打ち出したテーマとしました。

パネルディスカッションでは参加者もともに診断を

 学会のプログラムもこの趣旨に基づき構成しました。特に招待講演として,アメリカではどのように 看護診断を実践に取り入れ,またどのような問題があり,どう処理・解決してきたかという,より実際的 な講演をハーバード大学のE. Hiltunen氏にしていただきます。
 それから,今回の目玉であるパネルディスカッション「私はこのように看護診断をする」は,模 擬患者のビデオを上映し,壇上のパネラーも会場の参加者も一緒に診断をし,討論に加わるという画期的 なものです。このパネルディスカッションでは,どれがよい診断とか,正しい,まずいと追究するのでは なく,人によって気になることがいろいろ違うところから,看護診断というのはどのようなプロセスを踏 んでいくものかについて,会場全体でやりとりできたらいいなと考えています。一方通行の話を聞いてい るというより,みんなが一緒に参加する方式のほうがより身近に看護診断を捉えられますよね。

会長講演では「助産診断」の学際的面を

 会長講演のテーマは「健康維持・増進における看護診断-助産診断の視点から」です。いまの看護診 断はほとんど健康障害が中心です。病気に対してどのような反応を示すかということを診断しているわけ です。ですから,健康な人の場合に診断分類を当てはめにくい。
 アメリカでもウェルネス型の看護診断の開発は遅れています。出産そのものは病気ではありませ んから,助産診断というのはまさにウェルネス型で,健康増進の段階に相当する看護診断です。特に助産 婦の場合には昔から開業助産婦としての基盤がありますし,診断=助産婦業務のようなものですから,日 本の文化に根ざした健康の維持増進の看護診断を導き出してみてはと提案しようと考えています。健康維 持増進における看護診断は,類型にしても診断基準にしてももう少し学際的に,例えば役割とか人間関係, 家族関係などと言ったときに,産科的な知識とか助産学だけではなくて,心理学,社会学などさまざまな 分野と交流して基準を作っていかなければいけないのかな,と思ったりしています。

問題発見・解決の技術が専門職の要件

 また,今回特に参加者に訴えたいことは,看護診断というのは,看護職の専門性を高めていくには絶 対に確立しなければならないことだということです。専門職の要件としては,その職域特有の問題発見の 技術と問題解決の技術を持っていることが必要です。問題発見の技術というのはすなわち診断で,問題解 決の技術は治療にあたるわけです。
 看護過程はよく4段階とか5段階とか言いますが,私は2段階でいいと思っています。要するに診 断過程と,それから介入過程あるいは看護治療と言われるものです。この看護の診断と治療過程は,看護 職でなければできないというものですから,これを確立して初めて医師や他の専門職の人たちに伍してプ ロフェッションと言えると思っています。そういう意味でいまは過渡期だと思います。今学会が実践と診 断を結びつけるきっかけとなるべく力を入れていますので,ぜひとも多くの看護職の方に興味を持って参 加してほしいと思います。なお,今回は当日の参加申し込みも受け付けます。
 私自身が「看護診断」に興味を持ったのは1971年頃です。日本看護協会の創立25周年記念があり, そこで「職業の専門職性について」という講演があったのですが,その時に,専門職の要件には問題発見 の技術と解決の技術が必要。しかも高度な学問体系に支えられた実用的なものでなければならないという 話でした。それがきっかけとなり今日に至るわけです。いわゆる看護診断はアメリカの看護診断をそのま ま活用していますけれど,日本にはその土壌や文化がありますし,日本の中で現実に診断しているわけで すから,日本的な統一した表現,普遍的なものを導き出す必要があると思っています。