医学界新聞

座談会
患者の適正な薬物療法をめざして
高まる薬剤師の役割

内野克喜〈司会〉 中村 均
東京逓信病院
薬剤部長
千葉大学医学部附属病院
副薬剤部長
清野敏一 松木俊明
東京大学医学部附属病院
薬剤部入院調剤主任
東京逓信病院
薬剤部長代理


 医療の現場では薬剤師の役割が重要視されてきている。
 特に1992年の医療法改正において,「医療提供の理念に基づき,良質かつ適切な医療を行なうことが医師,歯科医師,薬剤師,看護婦その他の医療の担い手の責務」と明記され,以来,医療チームの一翼を担う薬剤師の自覚も高まってきている。今日,薬剤師の役割が注目されてきた背景の1つに「医薬分業」の推進があり,機能分担によって特に調剤薬局(病院薬剤部)では明確化された新たな機能が付加された。また「ソリブジン」に代表される薬物の副作用・相互作用が社会的にも問題となり,薬物の適正使用に対する認識が高まってきたことも要因である。
 このような状況の中で,薬剤師の機能として「病棟薬剤師」や「かかりつけ薬局」がクローズアップされてきている。
 そこで本号では,「患者の適正な薬物療法をめざして高まる薬剤師の役割」と題して,第一線で活躍されている「病院薬剤師」にご出席をお願いし,外来患者および入院患者の薬剤業務への薬剤師の役割を話し合って頂いた。


第I部:外来患者に対する薬剤業務への薬剤師の役割

(1)院外処方せん

広域拡散への努力

 内野 本日は病院薬剤師として第一線でご活躍の先生方にご出席頂いて,日頃お感じになっていることに関して忌憚のないご意見をお伺いできればと思います。
 まず,外来患者に対する薬剤業務への薬剤師の役割について考えてみますと,院外処方せんの問題があります。東大や千葉大の院外処方せんの発行率はどの程度でしょうか。
 清野 東大では85%を超えています。また,広域への拡散率も50%に迫っています。地域別では東京都が60%,首都圏の埼玉県,千葉県,神奈川県を合わせて30%,その他が10%で,北海道から九州まで超広域に拡散しています。
 中村 千葉大の場合には72%で推移しています。広域への拡散率は50%弱で,東大とは広域度が比較になりませんが,千葉県下全域に拡散している状況です。
 内野 広域に拡散させることは大変困難だったと思いますが,東大ではどのようなことをなさったのですか。
 清野 まず,患者に迷惑をかけないということが大原則でした。そこで,院外処方せんを応需できる「薬局リスト」を作りました。現在では,東京都薬剤師会を始めとして,近県の薬剤師会の協力によって,約3500の薬局のリストが集まっています。
 また,広域拡散を開始した当初は手書き処方せんでしたので,記載不備が多く見受けられました。これらを改善して,適正な処方せんを発行することにもかなりの労力を注ぎました。処方する医師に対しては,意図した薬物療法が正確に薬剤師に伝わる「処方せんの書きかた」を機会があるごとに説明しました。1昨年の7月から外来処方せんは処方オーダーシステムになり,記載上の不備はなくなりました。
 しかし,現状では薬物間相互作用,重複,禁忌となる疾患などの処方内容を鑑査できるオーダーシステムは少なく,さらに完全なチェック機能を持ったシステムはほとんどないと思います。そこで,薬剤師がこの処方鑑査業務を行なうことが不可欠です。現在は,独自の処方鑑査支援システムを利用して,すべての外来処方せんを対象に院外処方せんを含めた処方内容の鑑査を行なっています。これによって,薬物間相互作用などが回避でき,適正な処方せん発行につながりますし,処方せんを応需した保険薬局では医療機関への疑義照会の件数が減少します。
 内野 千葉大ではどうですか。
 中村 東大と同様ですが,院外処方せんを発行する際に大前提になるのが,保険上において適正な処方せんを発行するということです。従来は倍量処方などの不適切な処方せんが発行されていましたが,ここ1年ほどをかけて病院全体で是正してきました。処方オーダーシステムで「警告」の注意を出しても,医師はほとんど無視して処方してしまいますので,ブロックをかけて処方不可にしました。これからは電算機による薬物間相互作用のチェックなどを採用したいと思っています。

疑義照会への対応と等質の医療を提供するために

 内野 院外処方せんを発行された患者にとって,院内と院外の調剤の質に差がないことが必須ですが,この差をなくすための努力はどのようにされていますか。またこれに関連して,薬局からの疑義照会に対してどのように対応していますか。東大の例からお願いします。
 清野 まず等質の調剤については,東京都薬剤師会の各支部ごとの薬剤師を対象に,処方鑑査,計量調剤,服薬指導の3つをテーマに毎月1回,3か月を1クールとして「調剤技術研究会」を開催しています。
 疑義照会については,薬剤部が窓口になって,大部分の問い合わせを受け付けています。薬局からの疑義照会用のファックスが設置してあり,当直時を含めて24時間対応で受け付けています。薬剤部で回答できるものは薬剤部で解決し,医師に確認しなければ回答できないものについては,医師に確認してから回答しています。
 ファックスを利用するのは,電話だけの応対ですと情報が正確に伝わらない可能性があるからです。ですから,ファックスでのやり取りが原則となっています。
 内野 千葉大ではどうですか。
 中村 東大と同様に「調剤技術懇話会」を毎月1回開催し,開局薬剤師の方々と一緒に勉強会を行なっています。テーマは処方鑑査,計量調剤,在宅IVH(intravenous hyperalimentation)の調製などです。
 また疑義照会については,千葉大ではわりと早い時期から外来処方オーダーシステムが導入されましたので,いわゆる難読や規格単位の記載がないなどの形式上の不備による疑義照会はほとんどなく,広域拡散に際しても薬局からの疑義照会が少なかったようです。疑義照会は薬剤部の医薬品情報室が窓口になって,医師に確認が必要な場合には医師に確認してから薬局に回答する形式をとっています。
 内野 先ほどの清野先生のお話の調剤技術研究会には,保険薬局の先生方は何人位参加しているのですか。
 清野 1クール30人位ですので,いままで1200人は超えていると思います。
 中村 私どものところでは1クール15~17人です。現在6クール目ですので,100人弱というところです。
 内野 反応はいかがですか?
 清野 参加されている薬剤師の間でレベルの違いがあるように思います。病院薬剤師を経験されて開局されている方もいますし,ほとんど調剤の経験がなく,これから処方せんを応需するために勉強のつもりで参加された方もいますので。
 それから,相互作用に関しても,いま社会問題になっていますので認識されている方が多いのですが,ただ,この組み合わせはこういう問題があるという知識だけなので,これでは医師に円滑な問い合わせが行なえない場合があります。問い合わせをするには,医師に具体的な回避法などを提供する必要がありますので。開局薬剤師の方には感想文を書いてもらい,次回以降の参考にしていますが,最新の生きた情報を得ることができるなど評価を頂いています。
 中村 病院薬剤師と開局薬剤師が連携して,それぞれが役割を果たさなければ薬剤師に明日はないと思います。東大もそうだと思いますが,開局薬剤師の方がこのような研究会に参加されて,「大学病院は敷居が高くて,とても話しづらいと思っていたけど…」などという声をよく聞きます。研究会を通して顔見知りになると,疑義照会をするときなども気楽にできるようになるようです。
 清野 そうですね。お互いに顔を知るとギクシャクがなくなりますし,連携もうまく行なえるようになります。

(2)服薬指導

薬物間相互作用の回避

 内野 次に,先ほどもお話が出ましたが,処方鑑査の中でも薬物間相互作用の回避は重要な問題だと思います。
 東京逓信病院の処方オーダーシステムにおける薬物間相互作用などのチェックの状況をお話し下さい。
 松木 個々の薬剤同士の相互作用とその薬剤と相互作用を起こし得る薬剤群の2方向からチェックしています。
 重篤な症例が報告されている相互作用については,入力できないようにしたいのですが,現状では警告表示にとどめています。そこで,このような処方は問い合わせをしています。また,複数の診療科から処方され,その投与期間内に相互作用を起こし得る組み合わせがあった場合にも,警告が出るようになっています。
 中村 警告が表示された時点で,医師は処方変更しますか。
 松木 ええ,処方変更しています。医師がどの程度警告を意識しているかをアンケート調査したことがありますが,ほぼ100%の医師が警告に従うと回答しています。
 中村 警告により処方を変更した記録が取れますか。
 松木 残念ですが取れません。手書き処方せんでは訂正したことがわかるのでいいのですが………。
 清野 松木先生も先ほど指摘されていましたが,東大病院でも複数の診療科に受診している患者が30~40%いますので,処方鑑査といっても1枚の処方せんのチェックでは不十分で,患者の服薬しているすべての薬剤を対象としてチェックする必要があります。
 東大でも処方鑑査の支援のためのシステムを構築して運用しています。これは,患者の過去5回分の処方データの中から相互作用が問題になる薬剤の薬名,分量,投与日,科名を「処方情報紙」に出力して,そこで今回の処方薬とチェックします。ここで発見されるものが大体70%あります。それから重篤な症例が報告されている相互作用については,警告を出すのはいいのですが,そこから先の代替薬や具体的な回避法を医師に提供しなければ,医師はどうしたらいいのかわからないことも多いと考えられます。この点が発生源でのチェックの問題点になっています。
 松木 東京逓信病院では現在,注射薬のオーダーシステムを構築中です。それにはオーダー画面とは別の画面に回避法が表示できるようにしたいと考えています。
 清野 例えば,テルフェナジンとエリスロマイシンのように致死的な症例が報告されている組み合わせは,入力をブロックするという形が現実味があると思います。
 ただ,薬剤師が医師と直接話しながら,相互作用の重篤度やどのような形で起こるのかなどを説明した時点で,処方変更になるケースもかなりありますので,すべてを電算機に任せるというのも苦しい部分があります。
 中村 それから病名がないとチェックできない場合もあります。オーダーシステムで病名と薬剤の適合をチェックすることも考えていますが,なかなか難しいですね。

薬品名の開示

 内野 ところで,患者への薬品名の開示について,東京逓信病院の例を話して下さい。
 松木 はい。東京逓信病院の薬の袋には必ず薬品名が記載されていますが,これは構築時にかなり議論されて実現しました。
 以前の手書き処方せんの時には,患者が処方せんを直接薬剤部に持ってきました。そこで患者は処方された薬剤を知ることができたのです。しかし,オーダーシステムですと処方情報が直接薬剤部に出力されるので,患者は何が処方されたのかわからなくなりました。しかしこれからの医療は,できるだけ情報を開示し,説明しながら治療すべきであると思います。その意味からも薬品名を開示しました。
 しかし,抗癌剤も開示するのかということが問題になります。抗癌剤の薬品名は,薬袋に記号化して表示することも可能ですが,このような例はほとんどありません。
 内野 清野先生,同様な目的で東大では「処方カード」を発行しているそうですが,それについて説明して下さい。
 清野 A4版の用紙の右にA5版の処方せん,左に「処方カード」を印字出力させています。
 この「処方カード」の部分はタグシールになっており,薬品名,分量,用法・用量が印字されます。これを患者に提供しています。この「処方カード」を「お薬手帳」に時系列で貼り,患者自身が薬歴を一元管理することの重要性を指導しています。このようなシステムでは抗癌剤が処方された場合でも隠すわけにはいきませんから,問題が起こらないか懸念されましたが,いままでのところ問題は起こっていません。医師が抗癌剤が処方された患者に薬品名などを知らせたくなければ,「処方カード」の部分を切り取ってもらっています。
 松木 私どもでは,治験薬のような記号化するを試みをしています。抗癌剤が処方されている患者を含めた患者アンケートでは,薬品名の開示を約98%の患者が歓迎すると回答しています。
 内野 千葉大ではどうしていますか。
 中村 入院患者の薬袋には薬品名が記載されています。これは看護婦が患者に配薬する際の処方せんとの確認に役立っているようです。
 清野 現代は『医者からもらった薬がわかる本』などがベストセラーになる時代ですからね。薬品名や相互作用などの情報を提供することにより,相互作用や副作用から患者自身が身を守るという自覚を持って頂きたいわけです。
 内野 先ほど清野先生から「お薬手帳」の話が出ましたが,お薬手帳には他の施設の処方内容が貼ってあるということもあるのですか。
 清野 他の病院ではシールになっていないでしょうから,書き込んでもらうようにしています。あるいは持ってきて頂ければ,こちらで書き込むようにしています。
 患者がこの手帳で自分の薬を管理するという意識を持つことが最も重要なことなので,そのような患者教育をしています。
 内野 なるほど,患者が一元管理しているわけですね。
 清野 患者に一元管理の重要性を理解してもらうのは大変ですが,この「お薬手帳」の発案者である東京大学の伊賀立二教授を先頭に,いまその運動を盛んに行なっているところです。
 中村 処方カードには成分名も同時に印字できるといいですね。行数や文字数の制約はあると思いますが,何とか実現して下さい。
 清野 特に開業医の先生方は1万6千種類もの医薬品の中で,はたしてどの薬がどのような相互作用を起こすのか,ということを把握することは困難だと思います。患者が手帳や薬を持参しても,相互作用の相手側の薬が特定できないのでは相互作用は回避できません。
 現在は処方カードを渡すだけではなく,例えばトリルダンが処方された患者には,専用の「お薬説明カード」を渡しています。このカードには,相互作用の相手側の商品名とその薬剤が処方される可能性のある疾患などについて,具体的に書いてあります。これを手帳に貼り,他の医療機関の医師に見せるように指導しています。患者が他の医療機関で受診した時に,いかにそれらの情報を伝達し,生かすかが最も重要なことですから。
 中村 飲んでいる薬や受けている治療の内容は,患者自身が知るべき時代になってきましたね。
 清野 そうですね。関心が高まってきていると思います。

「お薬相談室」と「能動的服薬指導」

 内野 東大病院の新しい外来棟では「お薬相談室」というものがありますね。利用度はどうですか?
 清野 「受付カウンター」,「お薬相談カウンター」,「お薬相談室」の3か所で相談を行なっています。
 受付カウンターは終日,そして相談カウンターと相談室は専属の薬剤師が1日約5時間相談を受け付けています。患者の理解度や混み具合,また詳しい説明が必要な場合など状況に合わせてお薬相談を行なっています。相談件数は1日40~50件です。
 中村 どのような薬剤師が担当しているのですか。
 清野 「相談カウンター」の方は,調剤経験2年以上の薬剤師約30名が輪番制で担当しています。また「相談室」の方は,助手およびベテランの約10名の薬剤師が担当しています。
 内野 千葉大ではどうですか。
 中村 「お薬渡し口」の横に相談コーナーを設けていますが,オープンカウンターでないので,あまりよい形ではないですね。ゆっくりと相談にのるには,少々難しい点があります。
 松木 東京逓信病院では,特に「お薬相談カウンター」は設けていませんが,スペースは確保してありますので,いつでも開設できる体制にあります。また,「お薬渡し口」がオープンカウンターになっていますので,患者からの相談は受けやすいと思います。
 内野 東大は「能動的服薬指導」をしていることで有名ですが。
 清野 先ほど相互作用の回避という話しが出ましたが,処方せんをチェックして,処方された薬に関する注意事項および他施設受診時の注意事項などを患者に説明するわけです。これまでのように,患者が相談に来て初めて対応するような受け身の服薬指導ですと,相互作用に関する注意事項を説明する必要のある患者が漏れてしまいます。ですから,相互作用に注意する必要がある薬剤が初めて処方された患者は必ずカウンターに寄ってもらい,それぞれの薬剤についての注意事項を記載した用紙にそって説明をしています。
 相互作用に関する患者の認識度は,私たちの調査では30%程度しかありませんでした。複数の医療機関を受診されている患者が多い現状では,やはり積極的に知らせないと危険です。
 また,患者の高齢化によって,理解力などが低下している場合も多くなっています。そこで,患者への情報提供の手段として,私たちは「多面的な服薬指導」と呼んでいますが,ピクチャーカードや先ほど述べたような「お薬説明カード」などを利用した説明が有効になってきます。
 松木 外来で服薬指導していると,治療に対する要望などが薬剤師の方に来るのではないですか。
 清野 医師の診療を妨げないことが大原則です。いろいろな要望を持っている方もいて,かなり話が長くなることもありますが,原則は絶対に守らなくてはいけません。
 それから,患者とトラブルが発生したら,必ず主治医に報告することが大事です。これは抗癌剤が処方されている患者の応対でもそうですが,精神科の患者や,不安を持っている患者に応対した場合も生きてきます。
 内野 院外処方せんを出すと薬剤師が削減できるという誤解がよくありますが,患者に適正な薬物療法を実施するためには,外来患者の服薬指導が不可欠であり,薬剤師の果たす役割が多大である,ということが共通した認識のようです。
 清野 ある意味では,入院患者は管理されている状態にありますが,外来患者はそうではない。しかも,外来患者数のほうがはるかに多いわけで,院外処方せんを発行したとしても,薬物療法の安全性,有効性の確保のためには外来患者に対するサービスは重要であると思います。


第II部:入院患者に対する薬剤業務への薬剤師の役割

(1)注射薬の調剤

セット渡し

 内野 それでは次に,入院患者に対する薬剤業務について考えてみたいのですが,まず,「注射薬のセット渡し」という問題があります。セット渡しは結構時間がかかりますし,新たに始めるとかなり業務量が増加するのではないですか。
 清野 東大でもセット渡しを実施している診療科が次第に増えています。現在,注射薬専用の調剤室が整備できましたので,今年度中に全診療科を対象として実施する予定です。
 中村 千葉大では小容量のものは処方せん渡しですが,輸液などは箱渡しです。
 今年中に注射薬の処方オーダーが稼働する予定ですので,その時にセット渡しを開始するつもりです。
 松木 東京逓信病院では集中治療室以外の全病棟を対象にセット渡しを行なっています。
 内野 何人の薬剤師で行なっていますか。
 清野 東大では平日が3~4名,休日前日が6~7名が担当しています。
 中村 千葉大では専任者4名で行なっています。
 松木 注射薬の処方せんの枚数は平日が100枚,金曜日は3日分になりますので300枚です。平日が3名,金曜日は4~5名が担当しています。
 内野 相当な業務量ですね。
 清野 そうですね。東大では若い職員が多いこともあって,専任ではなく,スーパーローテーション方式で行なっています。時間帯によって,外来,入院調剤および注射薬調剤と混雑度などに合わせて,効率よく人を配置することができます。
 中村 千葉大ではセット渡しを開始するにあたって,1番問題になったのは搬送の問題です。結局メッセンジャーを雇うことになるわけですが……。
 清野 これは大きな問題ですね。
 内野 セット渡しは経口剤であれば計数調剤にあたると思いますが,今後はIVHの調製も含めて計量調剤に相当する注射薬の混合という問題があると思います。
 そんな中で,サテライト・ファーマシーで注射薬を混合している東京逓信病院の松木先生にお話を伺いしたいのですが。
 松木 私たちの施設では現在,サテライト・ファーマシーが病院内に5か所あり,それぞれの所で薬剤師2名が注射薬の混合を行なっています。
 1日2回,朝9時から10時位までと午後3時から4時位です。1日100件ほどですが,薬剤師は常駐していません。注射薬の混合が終わったら,調剤室などの配属部署に戻ります。先ほどもお話が出ましたが,波動的な配置で行なっています。
 また,サテライト・ファーマシーは病棟の薬剤管理室の機能を持っています。これはオープンスペースになっていて,医師や看護婦が自由に出入りできます。
 内野 看護部門などからの評価はいかがですか。
 松木 注射薬の混合は全科いっせいにではなく,1病棟ずつ逐次始めましたが,始めたら看護部門の方から「うちの病棟もお願いします」というように,どんどん広まっていきました。病院のほうもサテライト・ファーマシーの部屋の確保,クリーンベンチなどの必要な機材の購入など,全面的にバックアップして頂きました。むしろスムーズに行き過ぎて,担当する薬剤師数が追いつかない時期もありました。
 中村 注射薬の混合のためのトレーニングなどはどのようにしていますか。
 松木 これらの業務を先駆的に行なっている北里大学病院や日本大学板橋病院などを見学させて頂き,部内で検討の後にトレーニングを開始しました。
 内野 病棟でこのような業務を行なうことによって,薬剤師に対する医師や看護婦などの理解が深まっていくわけですね。
 松木 そうですね。

IVHの調製

 内野 注射薬の混合業務の1つと考えられますが,先ほどから話に出ていますIVHの問題もあります。千葉大ではどうでしょうか。
 中村 ツインバックを用いた4種類の約束処方に加え,患者個々に数種類の注射薬を混合しています。次第に個別処方が多くなってきている現状で,1日75~100パックを調製しています。近い将来は小児科のIVHの調製も考えています。
 3名が専任で行なっていますが,個別処方が多くなっていますので,月1500パックが精一杯です。やはり外科系が多いですね。
 清野 東大も月に1500パックで4種類の約束処方があり,そのうち個別処方が70%あります。
 内野 IVHは約束処方ではなく,次第に注射薬の混合の形態に移っているわけですね。これは診療報酬の問題になってくるのですが,無菌製剤処理加算はIVHだけでなく,薬剤師が注射薬を混合した場合には付けて頂きたいですね。これは医療機関側が要望を高めていかないといけないと思います。
 清野 内服薬との相互作用,配合変化のチェックなどは薬剤師が行なうことは重要な仕事だと思います。

在宅IVHへの参画

 内野 これからIVHはポピュラーな業務になると思いますが,特に在宅のIVHは,東大ではかなり以前から実施していたと思いますが,経腸剤に変わってきているという話ですね。
 清野 そうですね。
 内野 私のところでも,外科などでIVHだけで入院している方は,在宅医療にしたいという要望がかなりあります。そのような場合には,薬剤師の参画が必須だと考えられますが,皆さんのお考えを聞かせて下さい。
 中村 在宅のIVHは,日本薬剤師会のいう「かかりつけ薬局」になるのには一番の近道だと思っています。ですから私は,患者の自宅の近くの保険薬局やその地区の基幹薬局が行なうべきだと考えています。
 各地区の管理センターなどにクリーンベンチなどの無菌調製が可能な設備を作り,そこでトレーニングするのがよいのではないでしょうか。そこで,薬剤師会からの依頼があれば,トレーニングの講師として,無菌調製に熟練した病院薬剤師が協力するという形がよいと思います。先ほどお話しした開局薬剤師との勉強会でテーマの1つにしているのもそういう理由からです。
 内野 在宅医療は保険薬局の協力が必須ですね。
 中村 きめこまやかなサービスを行なえるのは,やはり患者の居住地の薬局だと思います。
 清野 IVHに関する勉強会での内容と参加者の反応を教えて下さい。
 中村 これまでは処方せんを応需することで精一杯だったり,計数調剤だけしか経験していないという方がほとんどで,IVHの調製はもちろんのこと,無菌製剤の調製が初めての方ばかりです。ですから,無菌製剤調製の必要な基礎的な知識などについては,こちらで作成したテキストを使って説明しています。そして,その後に実習に入り,手指の洗浄方法から始まり,クリーンベンチ内でIVHを模擬調製してもらっています。
 清野 私たちの勉強会でも実感しているのは,薬局間で設備面と技術に格差があるということです。ですから無菌調製に必要な設備などを持っている薬局は数えるほどしかないのが現状ではないでしょうか。
 中村 私たちは勉強会を始めて約2年になりますが,「在宅IVHを始めたいので本格的にトレーニングに来たい」という話がないのが残念ですね。
 内野 最後のテーマとして,「入院患者への服薬指導」という問題があります。伊賀立二教授にうかがうと,東大では薬剤師が1週間に33時間かかるというお話ですが,清野先生,何人位の患者に実施されているのですか。
 清野 認可を受けているのは4フロアーで,請求しているのは月70~75名です。
 内野 千葉大ではいかがですか。
 中村 認可を受けているのは1診療科で,月15~20名です。この他,小児科や眼科などでも服薬指導をしています。
 内野 松木先生の施設ではどうですか?
 松木 現在,1病棟41床が対象です。そこには循環器科,心臓外科,呼吸器外科,腎臓内科の患者がいますが,90%の患者に服薬指導を行なっています。

(2)服薬指導

カンファレンスへの参加

 内野 患者のベットサイドに行くにはかなりの努力が必要だと思いますが,重要なポイントは何でしょうか。
 清野 まず,カンファレンスに参加することですね。それに回診に参加させてもらい,患者に対する医師の対応を見学することです。先ほど服薬指導にかかる時間が33時間という話が出ましたが,カンファレンスや回診時の医師からの質問などの対応にかかる時間も含まれています。各病棟ごとに在庫管理を担当する薬剤師が決まっているので,その薬剤師がカンファレンスに参加し,それからベッドサイドに行くという順序です。その基礎作りのために病棟ごとに担当薬剤師を割り当てています。
 内野 カンファレンスに参加している診療科数はどれくらいですか。
 清野 10科です。
 内野 千葉大ではどうですか。
 中村 4診療科ですが,専門別になっている診療科もありますので,6つのグループのカンファレンスに参加しています。人数は原則として2人1組で参加させていますから,12人位でしょうか。もう少し増やしたいのですが,向き不向きがありますから難しいですね。
 内野 誰でもというわけにはいかないですね。松木先生の施設ではどうですか。
 松木 25の機能科があり,そのうち16科のカンファレンスに参加しています。
 清野 16科に何人が参加しているのですか。
 松木 10人位です。例えば私は循環器科に参加しています。循環器科は腎臓内科と心臓内科の2科があって,両方のカンファレンスに参加しています。
 内野 服薬指導を開始するためには,まず良好な人間関係を作ることが大切です。しかし,これは薬剤師の一番苦手とすることだと思いますがいかがでしょうか。
 中村 「薬剤師が病棟にちょっと来て,患者の本当のことがわかるの」とか「患者をいつも見ている私たち看護婦だってわからないことがたくさんあるのに」などと婦長に言われることもあります。病棟に出るためには,特に看護部門と意思の疎通を図ることが大事ですね。
 それから,服薬指導をする時に大事なことは,患者のバックグラウンドを知るということです。真の服薬指導をするには,例えば退院しても身寄りがないとか,家庭内でもめごとがあって精神的に不安定であるとか,日中は正常な精神状態だが夜間に異常になるとか,入院時は正常だが退院して自宅に帰ると人が変わってしまうなど,ベッドサイドに毎日行っていても薬剤師がわからないことがあると思います。このような場合には,患者の特殊な状況を考慮した服薬指導が必要です。
 清野 外来の服薬指導でも患者の背景を知ることが非常に大切です。
 内野 東京逓信病院ではどうですか。
 松木 やはり患者の背景を理解しておくことが大事だと思います。
 それから,服薬指導をする上では「キュアかケアか」を考えることも大事です。つまり,薬を飲ませる方が大切なのか,治療全体の処方設計への参画のような方向で進めていくのか,という方針を決める必要があります。
 内野 本日は外来患者および入院患者に対して薬剤師の役割はどのようにあればよいのか,という問題を多くの面からお話しして頂きました。     
 今日の話をまとめますと,今後は薬剤師も医師と同じように専門化していくと思われます。外来患者の薬剤師の業務では東大が行なっているような処方鑑査やお薬相談などが中心になる思います。入院患者の業務では服薬指導および注射薬のセット渡しはごく普通であり,混合調製の業務が早い速度で進展すると考えられます。そのためには機械にできる部分は自動化して,人的・時間的余裕を生み出すことが必須だと思います。
 本日はお忙しいところお集まり頂きまして,ありがとうございました。先生方の今後のご活躍をお祈り致します。 (おわり)