医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


POSや看護診断を導入する際のヒントに

POSにもとづく看護診断と標準看護計画 前坂外喜子 監修

《書 評》中木高夫(名大医療技術短大教授)

 宇治黄檗病院とのおつきあいは研修医の2年目にまでさかのぼります。いまから22年も前のことです。とはいっても,生活費かせぎの夜間当直のバイトで,POSとは縁もゆかりもない関係でした。
 POS,そして看護診断を通してのおつきあいが始まったのが,本書にも触れられているように,平成元年8月の「地獄の研修会」からのことです。
 その後,研修会のときなどに,POSの定着の状況を知らせていただいたりしていました。なかでも,病院でよく使用する看護診断を選び出して,到達目標や介入計画をコンパクトにまとめ,表にしたものを見せてもらったときには,臨床で看護診断を有効に使っていく実際の姿を見て感心したものです。

随所に光る独自の工夫

 これも本書のはじめからうたわれていることですが,宇治黄檗病院のPOSは中木方式のPOSです(こういう表現は気恥ずかしいものですね)。というのも,拙著『POSをナースに』(医学書院)を参考文献として最もよく利用していただいたからです。
 そういう意味で,ぼくにとって『POSをナースに』が子どもなら,本書は孫と呼べる内容で,ひときわ出版されることがうれしい本です。
 そうはいっても,本書は『POSをナースに』を鵜呑みにしたものではありません。ぼくが強調した「プロブレムごとに」ということは守られていますが,それ以外の,POSの本質から離れたことは,自分たちなりの表現によく消化されています。「プロブレムごとに」という言葉も「問題ごとに整理して記録する」になっているのです。その他にも,導入にあたって,関西弁でいう「しょうもないこと(つまらないこと)」で障害とならないように,いたるところに独自の工夫が散りばめられています。

宇治黄檗病院オーダメイドの「標準看護計画」

 なかでも圧巻は,第5章に精神的・身体的・生活的・社会的に分けて作成された,100頁にもおよぶ標準看護計画です。
 POSに取り組んで,誰もが悩むのはプロブレムのことです。医学的な枠組みのなかで働くクセがついてしまって,何が看護プロブレムなのか分からない。なんとなくケアを実施しているが,それが何に対するものであるかネーミングできない。
 宇治黄檗病院でも同じ悩みに直面したのですが,ちょうどそのころに看護診断が本格的に紹介され,特にケア計画と結びつけたマニュアルが雑誌に翻訳連載されたものを読んだのが,看護診断を取り入れる契機になったそうです。
 そこで,少々取っつきにくい看護診断を噛み砕き,宇治黄檗病院で使用し,検証した標準看護計画(看護計画のお手本)を作成しました。この標準看護計画は,看護診断ごとに定義,成因,到達目標,観察計画,ケア計画,教育計画を表形式にレイアウトしたものです。
 ここでも,言葉の障壁をクリアするための工夫がこらされています。そのため,宇治黄檗病院で使い慣れた用語が使用されているので,他の施設で使用するときには用語を最新の一般的なものにする必要があるかもしれません。
 宇治黄檗病院は精神科・内科を主体とする700床のいわゆる市中病院です。こうした設置条件の病院はたくさんあります。そうした中で宇治黄檗病院がここまで頑張ってこれた秘訣を,本書から読みとっていただきたいと思います。
(B5・頁246 定価3,811円(税込) 医学書院刊)


口腔ケアの実際を具体的に解説する

歯科看護ハンドブック 国立大学歯学部看護部長会議 編集

《書 評》堀 富江(北海道医療大歯学部附属病院看護部長)

 8020運動(ハチマルニイマル運動=80歳まで自分の歯を20本残す運動)が提唱されて久しいが,国民の関心以前に,私たち看護婦をはじめとして医療人がこれをどの程度理解し実行しているかと問われると,かなり評価は低いと考える(と言う私も当大学病院に勤務した1年半前までは自分の歯に対しても関心が薄く,すでに20本の歯は残っていない)。
 これには,1医科教育と歯科教育が分離されている,2看護教育のカリキュラムに歯科看護の講義や実習が必修科目になっていない,3実践に役立つ専門書が少ないなどの要因が考えられる。

具体的な説明のほかイラストや図説も豊富に

 このような現状の中で発刊された本書は,国立大学歯学部附属病院看護部長会議により執筆されたもので,その内容は,(1)口腔の健康のために,(2)ライフサイクル各期の口腔保健,(3)口腔機能障害と看護,(4)部位別症状と看護,(5)歯科外来看護,(6)口腔領域における主な疾患の看護の6章から成り,具体的な説明のほか,イラストや図説も多く,非常に理解しやすく書かれている。
 本書を一読すると,口腔ケアの目的を肺合併症の予防や分泌物・血液等による口臭の除去だけでなく,う触と歯周病の予防に置くことの重要性が理解でき,その方法を知ることができる。また,口腔の機能は食べること,話すこと,呼吸すること,と簡潔明瞭に指摘されている。このように考えるとき,何らかの疾患で治療を受けている患者の口腔観察を十分に行ない,小さなトラブルをも見逃さず,早期に歯科専門医の受診を勧める必要性が理解できることと思われる。

保健婦・歯科衛生士にも

 当院ではこの1年間に10余名の在宅患者の訪問歯科治療を行ない,義歯を作成し,そのほとんどの患者から高い評価を得た。中には80歳を越える高齢者もあり,食物を咀嚼できる喜びを語ってくれた。これは当地を担当する保健婦の紹介によるもので,保健婦の口腔ケアに対する意識の高さによるものと考える。さらに人口が高齢化する今後,在宅看護の中心的担い手である保健婦の方々にもお薦めしたい。
 また,歯科衛生士の方々にもぜひ読んでほしいと思う。看護婦は対象の患者をどのように捉え看護しているかという,看護業務が理解できると考えるからである。歯科衛生士が歯科外来や口腔外科のみにとどまらず,総合病院のあらゆる科のベッドサイドで専門知識と技術を持って看護婦と協働できるようになれば,冒頭の8020運動もさらに効果的になると思う。
(B5・頁144 定価3,708円(税込)医学書院刊)


救急患者の精神的問題解決の手引き

救急患者の精神的ケア
Michael Blumenfield, Margot M.Schoeps 著/堤 邦彦 監訳

《書 評》高橋章子(阪大・保健学科)

 救急患者は身体に巨大な侵襲を受けたことによって,精神的にも危機状況に置かれている。そのため患者や家族の精神的問題は救急医療の大きな課題である。この課題に看護婦が真剣に取り組んでいることは,日本救急医学会看護部会総会の研究演題に占める精神的問題の割合にも示されている。
 しかし,疾患や病態に比べて,心理・精神に関する看護婦の知識は不十分で,普遍化できる対応策を模索し続けてきた。近年,救急医療領域に参入した精神科医から多くの示唆や助言を得ているが,恩恵に浴する者はごく少数である。

経験が多いほど多くの反省や示唆を呼びおこす

 本書は表題からして救急看護婦に興味を抱かせるものであるが,熱傷ユニットにおけるケア経験から生み出された多くの知見は,どの救急領域においても学び取れるものが多分にある。
 構成の意図を無視して興味に沿って見ていくと,まず救急患者が避けられない痛みから始まる。わが国では,痛みの治療が十分に研究されておらず,国民性もあって患者に痛みを我慢させる傾向にある。しかし本書から痛みが患者に及ぼす影響を理解すれば,看護アプローチも変わるのではなかろうか。
 次いで器質性精神症候群,アルコールおよび物質の乱用,肢切断と移植,AIDSなど精神的問題の多い疾患とそれらの薬物療法が詳細に述べられている。それぞれの疾患と患者の持つ問題に改めて共感が湧く。
 看護婦が特に関心のある患者心理については,救急処置室での患者・家族に対するケア,熱傷や外傷に対する心理反応,さらに心理的介入が興味深い。続いて家族へのケアとサポート,医療スタッフへのケアとサポートなど救急医療の展開に沿った流れを頭に浮かべながら読むと,「そうそう」,「なるほど」と頷いたり声を出してしまいそうになる。あの時の患者の心理が分かっていたらこんな援助ができたのになど,経験が多ければ多いほど,反省も示唆も多いのではなかろうか。

随所にケースが挿入される

 スタッフへのケアとサポートは大いに参考になるが,一方リエゾンメンタルヘルス専門家が存在し,“心理社会的回診”(psychosocial round)が行なわれ,それに看護婦も参加できることなどは本当に羨ましい限りである。この夢が日本で実現するのはいつのことか,それまで患者の精神看護は従来どおり,看護婦の努力にかかってくるとすれば,確かな知識を持たなければと改めて思う。そのための手引きとしての本書の意義は大きい。
 本書には,随所にケースが挿入されているため分かりやすく,問題解決のヒントが得られるであろう。さらに貧欲な利用法としては,豊富に引用される研究手法や参考文献を大いに活用して今後の研究の方向づけを得るとよいのではなかろうか。今までばらばらに行なわれてきた研究に一定の方向が得られ,その結果を救急患者の精神ケアに役立て,体系づけることが望まれる。そこまで活用できれば,本書の出版の意義はより高く評価されることであろう。
(A5・頁256 定価4,635円(税込) 医学書院MYW刊)