医学界新聞

「チーム医療のためのPOS」をめぐり論議

第18回日本POS医療学会開催



 POS(Problem Oriented System=問題指向システム)により質の高い医療をめざす第18回日本POS医療学会が,さる3月2―3日の両日,植村研一会長(浜松医大教授)のもと,浜松市のアクトシティ浜松で開催された。
 今回の学会はメインテーマに「チーム医療のためのPOS」をかかげ,医師,看護婦,薬剤師,臨床検査技師,栄養士など多数の職種が参加して,「これからの看護診断とPOS」など5つのテーマでのワークショップ,特別講演,会長講演などが行なわれた。


 今回の学会で特徴的だったのは,特別講演で矢内原千鶴子氏(阪大教授)が「これからのチーム医療における薬剤師の役割」と題して特別講演を行なうなど,患者の問題解決に果たしている薬剤師の重要な役割が注目されたこと。またワークショップで,より質の高い診療を行なうため,医師がPOSの考え方を理解し実践することをめざした「開業医のためのPOS」のセッションが設けられたことがあげられる。

チーム医療の重要性を指摘

 「チーム医療のためのPOS」と題して会長講演を行なった植村氏は,「入院医療から在宅医療へ,病棟看護から訪問看護へ,院内処方から院外処方へと,医療の中心が病院から地域・家庭に移行している。これからの医療は,医師とコメディカル,家族やボランティアを含めた患者中心の医療を展開しなければならない。今後は,医師中心,病気中心の医療からPOSの医療,全人的医療が必要で,そのためにはチーム医療が不可欠である」と強調した。
 また最近は,麻酔事故や手術ミスなどの場合に必ずしも医療訴訟にはなっていないが,医療過誤がなくても説明の不履行などのディスコミュニケーションによる医事紛争が起きていることを紹介。インフォームド・コンセントの必要性が叫ばれているが,医師がいくら説明したからといっても,患者が説明を理解できたかどうかが問題になると述べ,患者とのコミュニケーションの重要性を指摘した。また医師は宿命的に患者と同じレベルではコミュニケートしないので,患者とのコミュニケーションにおける看護婦や薬剤師の役割の重要性や,POS方式に従ったコミュニケーション技法の必要性を強調した。

看護職の臨床能力向上を

 「POSの基本理念とチーム医療への対応」と題して特別講演を行なった日野原重明氏(聖路加看護大)は「医師は診断と治療,看護婦は患者の生活上・健康上の問題を捉えてきたが,現在は,患者が最も困っている問題をいかに捉えるべきかが問われている」と述べた上で次のように語った。
 「クオリティ・オブ・ライフ(QOL),つまり生命の質,生活の質,人生の快適さなどを認識していなければ患者の本当の問題を捉えることはできない。POSによる記録は,患者のQOLを大切にしながら,問題が効果的に解決されるように,しかもいつも全人的な立場から問題を取り上げて,考え行動するという一連の過程のことを意味している」
 「これからの医療においては,医師の役割,看護の役割,患者の役割がそれぞれ重なり合ってくる。今後,看護の能力が向上し,問題解決技法を使っていけば,医師との共同問題が増え,看護の役割はどんどん変わってくるだろう。さらに,医療を行なう側と受ける側では立場が違うので,医療に対する評価が違うことも認識していなければならない。自分たちがよい医療をしたと思っても,患者は評価しているかどうかわからない。受けた側の評価の情報をどのように得ていくか考えていかなければならない。POSの精神を生かすために,それぞれが特色のある自分のフォームを作り上げることが大切である」
 なお次回第19回の学会は,畑尾正彦氏(日本赤十字武蔵野女子短大教授)を会長に,明年3月1―2日の両日,東京の亜細亜大学で開催される。