医学界新聞

基礎と臨床の融合をめざして

第9回国際がん研究シンポジウム開催



 第9回国際がん研究シンポジウム「脳腫瘍の基礎と臨床」が,野村和弘組織委員長(国立がんセンター中央病院部長)のもと,さる3月12-14日,東京の国立がんセンター内国際研究交流会館で開催された。
 国際がん研究シンポジウムは,1988年より対がん10か年総合戦略事業(1994年からはがん克服新10か年戦略事業)の一環として肺癌,肝癌,多重癌(多発重複癌),食道癌,大腸癌などをテーマに毎年開催され,基礎と臨床の研究者が一堂に会し多大な成果を上げてきた。今年は「脳腫瘍」について,解決された問題,未解決の問題を明らかにすることにより,悪性脳腫瘍克服の道を探ることを目的に開催された。
 今回,国内外それぞれ15名の演者により重点的に論議されたのは,(1)脳腫瘍の発生要因;従来の化学発癌にとどまらず遺伝子の人工的導入による発癌について,(2)脳腫瘍の性格を規定する因子,悪性化を促す遺伝子変化,(3)最新の診断の現状と展望;CT, MRI, PETなどの機器の改良とその臨床応用について,(4)脳の機能分野の確定とその手術への応用,(5)新しい放射線治療の臨床応用,(6)抗癌化学療法の現状と問題点,(7)遺伝子治療の現状と将来性,(8)増加傾向にある転移性脳腫瘍。3日間にわたり170名の参加者とともに基礎と臨床の融合をめざす熱い議論が展開された。
 Julian Little氏(アバディーン大教授)は,脳腫瘍の疫学の全体像を解説。高齢者に脳腫瘍が年々増えていることや農業従事者に脳腫瘍発生が多いことを示すとともに,喫煙・アルコールや食品中のニトロソ化合物や電離放射線,超低波長電磁線が脳腫瘍の発生に及ぼす影響について述べた。
 またVEGF受容体を発見した渋谷正史氏(東大医科研教授)は,ヒト神経膠芽腫に見いだされる変異型EGF受容体と腫瘍の血管新生に深く関与するVEGF受容体について見解を示した。さらに組織委員長を務める野村氏が,1969年から実施している脳腫瘍調査の全国集計結果を報告。治療後生存率が条件によって変わることから予後因子を分析し,臨床試験におけるサブグループ化の必要性を指摘した。
 この他にも,バーチャルリアリティの術前応用,ガンマナイフ治療の可能性と有用性,化学療法の新しい試み,脳腫瘍に有効と思われる遺伝子治療の趨勢など,最新の動向が内外から報告された。