医学界新聞

「がん看護におけるインフォームドコンセントの充実」をテーマに

第10回日本がん看護学会が開催


 第10回日本がん看護学会が,さる2月10-11日の両日,谷口静江会長(栃木県立がんセンター看 護部長)のもと,宇都宮市の栃木県総合文化センターで開催された。今学会には全国から900名を越す参 加申し込みがあり,一般演題78題の発表のほか,三笠宮寛仁親王による第10回記念特別講演「患者と看護 について」およびシンポジウム「告知をめぐるサポートシステムを考える」(座長=埼玉県立がんセンター 看護部長 渡辺孝子氏)が行なわれた。

病棟からテレビ電話で在宅ケア

 一般演題は,患者家族への援助,癌性疼痛,在宅療養,インフォームドコンセントと看護の役割など 12領域に分けて発表が行なわれた。その中で,在宅看護に関する報告が全領域で17題あり,モルヒネ使用 による疼痛コントロールの普及と相まって,携帯用輸液ポンプ等の著しい簡易器機類の開発が,在宅での 療養を可能にさせた背景となっていることが示唆された。
 癌性疼痛に関して,モルヒネ使用による疼痛緩和が進む方向をうかがわせる報告が多い中,菅沼 美保氏(天理よろず相談所病院)らからは,モルヒネ不耐性と診断され,疼痛コントロールが困難な肺癌 進行期にある患者の事例が紹介された。この報告は,麻薬に頼らず効果的な疼痛緩和を図ったという意味 で,新たな看護の可能性として一石を投じた。
 また,在宅療養の報告の中で新しい流れを伝える発表をしたのは阿部勝子氏(国立がんセンター 中央病院)らの「病棟看護婦による終末期の継続看護―テレビ電話で自宅療養を支えた事例」。終末期の 患者の自宅と病棟を結ぶテレビ電話を利用して,症状コントロールの把握から精神面の援助を行なった内 容が紹介された。
 豪雪地帯などでは,訪問看護ステーションがテレビ電話を利用してケアを実践する例がみられる が,都市圏での看護実践例は,これからの新しい看護支援のあり方として注目されるのではないだろうか。

6回の癌手術を乗り越えて

 第10回を記念して行なわれた寛仁親王の講演は,ユーモアを交えて,また時に医療従事者に対し 苦言を呈するなど,会場の参加者を魅了しながら進められた。
 この中で氏は,「癌であることを公言したために告知派と受け止められているが,実は告知派で も反告知派でもない。皇族であるがゆえであり,安心して治療,療養に専念するためにも,マスコミなど に追われることのないよう公表した」と6回に及ぶ手術の経過を淡々と語った。また,幼少期は虚弱体質 であったが,母親に勧められ山岳とスキーを始めたことから体質が改善され,荒っぽい学生時代を過ごし たことにも触れた。現在は世界スキー指導者会議の代表として,また障害者福祉領域で活躍しているが, その頃の闘争心が医師にしつこく問いただす姿勢になったとも語り,「症状の受け止め方は患者一律では なく,それぞれが違うことを医療者は知っておいてほしい」と参加者に訴えた。また最後に,「癌看護・ ターミナル期看護の専門看護婦養成のための財政支援をする財団設立」の構想があることを明らかにした。

告知をめぐるサポートシステム

 シンポジウム「告知をめぐるサポートシステム」では,はじめに座長の渡辺氏から「日本の癌医療で のインフォームドコンセントは,諸外国に比べ遅れているのが現状。一般社会からもその重要性は指摘さ れ,今やいかに告知するかが求められている。癌患者が早期に危機状態から脱するためのサポートシステ ムの確立が看護界では必要」とその意図が述べられた。
 最初に医師の立場で登壇した田中雅博氏(普門院診療所)は,患者600名に行なったアンケート 調査の結果を発表。「進行性の癌だと診断された場合,詳しい説明を聞きたいか」の問いに,85%の人は 「聞きたい」と回答,「聞きたくない」は14%であったと報告。「1人ひとりの人権は尊重されるべきで あり,全員告知するというのでなく,聞きたくないという人には隠すことも必要」と述べた。
 阿久津勲男氏は,7年前に白血病で入院し,骨髄移植を受けたという患者の立場からの意見。 「医師や家族が病気のことを知らせてくれないのは,もう治療しても治らないほど進行しているからだと 思い,医師,家族,看護婦に自分の病気のことを聞くのは,逆に相手を苦しめることになると考えていた」 と発言。また詳しい説明を受けたのは入院後5か月たってからで,「その時には冷静に聞くことができた。 早い時点で説明を受けても,理解することはできなかっただろう」と患者の心理を語った。
 続いて高田タキ子氏(栃木県立がんセンター副婦長)は,90%の患者・家族に告知していると前 置きし,「告知の際には看護婦が必ず同席し,病棟で告知をした当日は家族とともに外泊することを勧め ている」実態を述べるとともに,「癌告知は医療者側の一方的な説明ではなく,患者・家族のQOLの向上 を第一に考慮して行なうべき。告知後のケアには,心療科医,リエゾンナース,MSW,宗教家などの援 助も必要」と結んだ。
 最後に登壇した楡木満生氏(自治医大助教授)は,癌病棟の医療活動を支援する第三者である 「医療カウンセラー」の活動や役割を紹介するとともに,活動を通しての問題点を指摘した。ボランティ アとしての医療カウンセラーは,「医療に関わった経験があり,現場のことや癌病棟の実状を知っている, 家庭に入った看護婦や他の医療従事者で,一定の教育を積んだ者」であり,看護婦が関わりきれない,重 点的に心理的ケアを必要とする患者に対し,本人が希望した場合に医療カウンセラーが関わることがその 活動であると解説した。
 なお総会において,小島操子理事長(聖路加看護大教授)より,日本初の癌専門看護師が年内に 誕生する見込みであることや,第34回日本癌治療学会(開催:11月1-3日,東京国際展示場)から,「在 宅癌治療」に関するシンポジウムを共催したい旨の打診があったこと,第9回国際がん看護学会参加へ向 け会則の英語版作成が検討されていることなどが報告された。
 日本がん看護学会の1月末現在の会員数は1811名で,次回は明年2月8-9日の両日,登坂有子会長 (癌研病院)のもと,東京・池袋のサンシャインシティで開催される。