医学界新聞

総合健診の未来像を論議

第24回日本総合健診医学会が開催される


 日本総合健診医学会(会長=聖路加国際病院院長 日野原重明氏)第24回大会が,細野清士 大会長(三越厚生事業団)のもと,さる1月26―27日の両日,「総合健診の過去・現在・未来」をメ インテーマに,東京・新宿区の新宿パークタワーで開催された。
 今学会では,一般演題140題のほか,特別講演「総合健診と循環器疾患」(日大総合健診センター 医長 久代登志男氏),教育講演「早期食道癌の診断」(クマガイ・サテライト・クリニック代表 熊谷 義也氏),大会長講演「総合健診の過去・現在・未来」(細野清士氏)および,メインシンポジウムとし て「総合健診の未来像」(司会:PL東京健康管理センター 田村政紀氏,牧田総合病院附属健診センター  笹森典雄氏)などが開催された。本号では,このシンポジウムを中心に学会報告をする。


 学会のメインテーマである「総合健診の過去・現在・未来」と題し講演を行なった細野会長は, 「今日の総合健診は1958年に開始された聖路加国際病院での人間ドックから始まった」と,人間ドックの 歴史や,人間ドックの定着とともに普及した自動化健診施設の歴史を紹介。また,1976年に日本自動化健 診学会が設立され,総合健診医学会と名称を変更し今日に至った経過を解説した。さらに,早期発見から 発症の予防,健康予測から健康増進へと総合健診の目標が進み,脳ドック受診者が増加していることにつ いても触れる一方で,「日本では人間ドックの受診者が増えているが,欧米では金がかかる,必要ないと の理由から減少している」ことも明らかにした。

シンポジウムとして「総合健診の未来像」

 シンポジウムの司会を務めた笹森氏は,「総合健診の未来像」について,健康的な生活習慣を身につ けるためには1次予防を充実させる必要があると提言。その一翼を担う総合健診の未来像をより具体化す ることを目的として,5人の演者がそれぞれの立場からの意見を述べた。

忘れてならないメンタルヘルスケア

 最初の演者である竹下広文氏(日本標識)は,受診者の立場で病気の早期発見,予防医学の大切さを 述べるとともに,未来へ向けて「全国どこの病院でも,自分自身の健診データを見ることのできるシステ ムの実現」を切望。これに対し笹森氏は,「データの互換性については現在学会でも検討中」であること を明らかにした。
 産業衛生の立場からは,「おもしろ健康管理フォーラム」を主宰,実践している埋忠洋一氏(三和銀 行東京健康管理センター所長)が登壇。健診の問題点として,(1)何となく健康と言われた人にどう対処し ていくか,(2)保健指導が必要な人に対し健康教育を行なっているが十分なのか,(3)メンタルヘルスがお ざなりになっている傾向にどう対応するのかという3点をあげ,これらを解決するのが近未来の目的と指 摘。また「あらゆる健康度に応じた効果的な方法の開発が必要」と,氏が実践している「回遊式健康教育」 などが紹介された。

総合健診に活かせる健康危険度予測

 3人目に登壇した伊津野孝氏(東邦大)は,健康予測の観点から今後総合健診がめざすものについて の見解を表明。総合健診に求められる機能として,「健康の異常を見つけるだけではなく健康を監視する サーベイランス機能,個人の健康歴を作成し継続的に監視するシステム」などをあげた。また,総合健診 の現在と近未来を比較し,「現在の目的は治療が主であるが,これからは予防が重点となる。目標も症状 改善から生活様式の改善となり,近未来では健康指導に重点が置かれるようになるだろう」と予測した。 さらに,伊津野氏らが研究しているHRA(Health Risk Appraised:健康危険度予測)について解説。これは 検査成績をもとに,疾病ごとにリスク評価を行ない,保健指導,健康教育に供することを目的としており, 性別,年齢,医療歴,生活様式により発症確率が決まるモデル。そのメリットとしては,「個人の生活様 式をシミュレートすることで,自分の健康リスクを理解し,どのような生活様式の改善をするべきかを自 分で選択できること」をあげた。

健康増進と専門ドックの開設

 小山和作氏(日赤熊本健康管理センター所長)は,「癌をはじめあらゆる疾病を可能な限り予知し, 早期発見し,疾病管理に適切に橋渡しすることは総合健診に課せられた絶対的使命」と前置きし,健康増 進の立場からの意見を述べた。小山氏は,現代医療は死亡率を減少させた一方で,有病率は著しく上昇し たとして,「今日,疾病の予防,健康増進は国民的要求であり,国家社会的事業でもある」と,総合健診 に対する期待の大きさを語り,この発言を裏づけるように,総合健診の受診者の実態を調査した結果を報 告。受診の動機についての回答で上位を占めたのは「癌の早期発見」が最も多く,ついで「もっと健康で 楽しい人生を過ごすために健康増進に期待する」が続いたことを明らかにした。また受診者の食事や運動 などの生活習慣からの分析も披露。「総合健診の目的は,癌の早期発見のみならず,自らの健康度をチェッ クし,そのライフスタイルの歪みに気づき,その改善によって健康づくりをすること。健康増進は人々の QOLを高めるための事業であり,医学の本来の目標」と結論づけた。
 最後の演者となった平塚秀雄氏(平塚胃腸病院長)は,癌の発生率が最も高い消化管検診の立場から 総合健診の未来像について発言。消化器ドックコースを中心とした専門クリニックの開設の経緯を述べる とともに,「日本人のライフスタイルの変容に伴い,胃癌の発生が横ばいであるにもかかわらず大腸癌が 急激な増加を示している」と指摘。また,「癌の早期発見治療につながっているのは,病院機能だけでな く,サテライトであるドックの業績でもある」とも述べた。さらに消化管癌の最終診断となる内視鏡検査 の重要性を説くとともに,これからは「よりよい内視鏡の開発はもとより,内視鏡医・技師などのメディ カルスタッフの養成が必要」と提言した。  

21世紀に向かっての総合健診

 総合ディスカッションでは,埋忠氏の提唱する「おもしろ健康管理フォーラム」の活動が追加報告さ れ,「検尿,血圧測定や皮下脂肪も自分で計り,受診者が目覚めること」を目的に開催されていることが 紹介された。また,平塚氏は内視鏡検査で見つかったポリープをどこまで取るのかの質問に「関係学会で も問題となっており,近々討論することになっている。結論は必ずしも出るわけではないが,ある程度整 理されるのではないか。全部取ると公言する医師もいるが,個人的には小さいのは取る必要がないと考え る」との見解を示した。
 シンポジウムの最後に,日野原氏が特別発言。氏は,「総合健診にもインフォームドコンセントが必 要であり,患者が自分の症状を表現する,言語化できるようにする教育も必要だろう。患者の内的な面を 観ることがこれからの医師に課せられている」,また「機器類の進歩が著しいが,そのデータだけに頼る のではなく,データの持つ内容を読める医師がドックには必要。さらに医師以外の人で,患者が分かるよ うに報告書の説明をする人がこれからは重要となるだろう」など,苦言を呈するとともに,21世紀に向け たこれからの総合健診への課題を提示した。  なお,1994年の人間ドック受診者は133万9090人(日本病院会調査では,127万1305人)で,男性が女 性の1.8倍であったことが総会で明らかにされた。