総合診療 Vol.33 No.9
2023年 09月号

ISSN 2188-8051
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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「発達障害」への理解が、診療を変える

片岡仁美(京都大学 医学教育・国際化推進センター)

 近年、「子どもの時、発達障害と言われました」「夫(妻)が発達障害だと思うんですが…」といった訴えを聞くことが増えてきました。一方で、自分が学生の時に習ったこととは考え方も相当に変わっていることも認識しており、漠然とした苦手感をもっていたかもしれません。しかし、自身も子育てをするなかで「発達」に向き合い、発達障害への理解が進んできました。そうすると、前述の患者さんの悩みへの対処の仕方が明確になるとともに、ふだん接している患者さんの見え方も変わってきたのです。「説明したことが伝わらない」「心配性の度が過ぎる」など、ともすれば“困った患者さん”とも認識されうる方の一部に発達特性があって、このような状況が起こっているのではないか、という可能性を認識するようになり、その点に留意して診察すると格段にコミュニケーションがとりやすくなった経験もあります(総論〔p.1036〕では、その点を明確に論じていただいています)。
 自身の見方が変わるだけで患者さんへの理解がこんなにも変わるのかという経験をし、発達障害(神経発達症)についてプライマリ・ケアの現場を担う先生方と共有させていただきたく、本特集を企画しました。ご執筆の先生方には、その意図を汲んで素晴らしいお原稿をいただきましたこと、心より感謝いたします。発達障害の子どもとその母を支えることに生涯をかけて取り組んでこられた河島淳子先生の真摯な実践をお伝えしたいと願い、実現した巻頭インタビュー(p.1015)と併せて、是非お読みいただけましたら幸甚です。


藤井智香子(岡山大学病院 小児科・小児心身医療科ダイバーシティ推進センター)

 ICD-11(国際疾病分類 第11版)では、disorderの訳に「障害」ではなく「症」を用いるようになり、発達障害は「神経発達症」と改められました。
 『広辞苑』(岩波書店)では、障害を「①さまたげになること。また、さまたげとなるもの」と定義しています。発達「障害」はその人がその人らしい社会生活を送るうえで“さまたげになるもの”だとは思いますが、それは、その人の中にある「特性」によるのでしょうか? われわれがつくった「社会環境」の中にあるのでしょうか? 本田秀夫先生が提唱された「非障害性」の発達障害という概念について、本特集でも触れられていますが(p.1037・1077)、特性が「障害」になるかは環境の影響も大きく、特性がそのまま受け入れられるような環境づくりが重要だと感じます。
 一方で小児科領域では、発達障害(神経発達症)に対する早期発見・早期療育という流れもあり、「特性」をどのように捉えるかは非常に悩ましい問題です。本特集のなかで三木崇弘先生が、「わが子が発達障害ではないか」という心配は「わが子の将来に影をさすのではないか」という心配であり、「幸せに過ごしていってくれるなら、別に発達障害かどうかは関係ない」とも言えると書かれていました(p.1082)。患者さんに対しても、発達障害の有無にかかわらず、より良い医療を提供し、その人生に寄り添う姿勢が大切だと思います。
 本特集は、非常にご高名な先生方に執筆していただくことができ、大変意義深い内容になりました。患者さんへのより深い理解の一助になることを祈念しています。

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医書.jpにて、収録内容の記事単位で購入することも可能です。
価格については医書.jpをご覧ください。

特集 ジェネラリストのための「発達障害(神経発達症)」入門
企画:片岡仁美│藤井智香子

■総論
「発達障害(神経発達症)」アップデート
青木省三│鷲田健二│和迩健太

■各論I 発達障害を理解する──Caseに学ぶ典型例と対処法
①自閉スペクトラム症(ASD)
神尾陽子

②注意欠如多動症(ADHD)
岡 牧郎

③知的発達症(知的能力障害)
佐々木宏太│金生由紀子

④大人の発達障害
村上伸治

⑤発達障害と「心身症」
石崎優子

⑥発達障害“グレーゾーン”
岡田尊司

■各論II 「こんな時どうすればいい?」Q&A──日常診療+αの場面より
Q1 「発達障害かもしれない」と本人(成人)が精査希望したら?
浦谷光裕│飯田順三

Q2 「既往歴」に発達障害と書いてあったら?
山崎知克│岩﨑美奈子

Q3 「カサンドラ症候群なんです」と相談されたら?
宮尾益知

Q4 「同僚(医師)が発達障害ではないか」と思ったら?
吉川 徹

Q5 「わが子が発達障害ではないか」と思ったら?
三木崇弘

■スペシャルアーティクル
神経発達症(発達障害)患者の増加に伴う臨床への影響と「ニューロダイバーシティ」──米国の児童精神科医療に携わる立場から
廣田智也

今月のQuestions 
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題


●Editorial
「発達障害」への理解が、診療を変える
片岡仁美|藤井智香子

●巻頭インタビュー ゲストライブ~Improvisation|23
療育は原石の中に“宝石”を見出す冒険──発達障害の子と母親を育てる「治療教育」
河島淳子×片岡仁美

●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|41
長期間、そばにいるということ
長尾大志

●What's your diagnosis?|249
丸裸にしたつもりでしたが
齊木 颯|伊藤裕司

●対談|医のアートを求めて|4
医療×ウェルビーイング──ウェルビーイングの原点を探る!
石川善樹|平島 修

●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|80
意識障害では、“あ行”の行間を読むことがコツだ。
屋島福太郎|鈴木智晴|仲里信彦、他(監修)

●Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?|42
お腹が空いてお腹が痛い
上田剛士

●ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学|6
「眼」は亡くなってもモノを言う
森田沙斗武

●臨床医のためのライフハック|限りある時間を有効に使う仕事術|6
習慣形成──脱・3日坊主! 臨床医が“良い習慣”を身につけるには?
中島 啓

●総合診療外来・在宅
当院での発熱外来の取り組み
新宅将之

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