特集 疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ 「腹痛診療」を磨き上げる22症例
ISSN | 2188-8051 |
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定価 | 2,750円 (本体2,500円+税) |
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イルネススクリプトと臨床能力
藤沼康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター)
臨床医は日々患者さんの診療をしているのだが、そうした診療の経験を「積む」ことで、臨床能力は伸びていくと昔から言われている。「経験することで臨床能力が伸びる」という言説は、自明のものとされてきた。とすると、多種多様な疾患をとにかくたくさん診る経験があれば、素晴らしい臨床能力は育つということなのだろうか? 昔から、救急対応を多数経験できるといったことを「売り」にしている研修病院は多い。これまで、「たくさんの症例に曝露させること=よい臨床教育」とされてきたのではないか。しかし、本当にそうなのだろうか?
「経験することで臨床能力が伸びる」という言説における“経験”とは何か? そもそも“臨床能力”とは何を意味するのか? といったことを考えなければならない。経験が認知的操作を経て変形・加工され、取り出して使える長期記憶として、その臨床医の脳に保存されるメカニズムを知ることが必要だが、このプロセスのキーの1つが「イルネススクリプト(illness script)」である。有り体に言えば、1つの疾患を診ることができるためには、その疾患の診療に必要な知識が「台本(script)」のように構造化されていなければならないということである。この台本の構成要素は、リスク・病態生理・臨床像の特徴であるとされる。これらの内容は、個々の臨床医によって微妙に異なっているだろう。
興味深いことは、イルネススクリプトが豊かに構造化されるためには、疾患の教科書的な知識だけではなく、症例を経験したコンテキスト(具体的な地域・時間、診療の場など)と実際の臨床経過、患者さんの具体的な特徴(実際の訴え、顔つき、感情、家族の様子、どう改善/悪化したのか、など)といった、個別症例の記憶が必須だということである。言い換えると、「患者を素材に疾患を学ぶ」こと、つまり教科書的な知識記憶の強化を繰り返すだけでは豊かなイルネススクリプトは獲得できず、臨床能力の向上を図ることができないということだ。
むしろ、必要なことは「疾患を素材に患者を学ぶ」というような逆転した姿勢である。疾患をもつ患者を総合的に診る、具体的にどのような生活をしている人なのかを知る、その価値観を知りケアすることで得らえる具体的な経験こそが、真の臨床能力の向上につながるのだ。おそらく、そうした臨床医の姿勢は、患者のケア自体の質向上にも直結する。「イルネススクリプト」「臨床能力」「プロフェッショナリズム」「診療の質向上」は、それぞれが相互に接続していると筆者は考えている。
文献
1) Schmidt HG, Rikers RM : How expertise develops in medicine ; knowledge encapsulation and illness script formation. Med Educ 41(12) : 1133-1139, 2007. PMID 18004989
収録内容
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特集 疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ──「腹痛診療」を磨き上げる22症例
■総論
①「腹痛」とは何か?──中身が見えない箱の中で行われている演劇
腹痛を「考える」会
②「稀だが見逃したくない腹痛疾患」一覧表
原田 拓
■症例集I 小児×腹痛
①急性虫垂炎
伊原崇晃
②機能性消化管疾患
渥美ゆかり
③便秘症
渥美ゆかり
■症例集II 若い女性×腹痛
①Fitz-Hugh-Curtis症候群
柴田綾子│志水太郎
②卵巣出血
山里一志
③上腸間膜動脈症候群
大武陽一│志水太郎
④妊娠中の虫垂炎
福井陽介│志水太郎
■症例集III 若い男性×腹痛
①精巣捻転
平田理紗│相原秀俊│多胡雅毅
②尿膜管遺残症
荒巻芽生│徳島圭宜│多胡雅毅
③前皮神経絞扼症候群
山下 駿│井手則子│多胡雅毅
④1型糖尿病
中島央律紗│藤原元嗣│多胡雅毅
■症例集IV 高齢者×腹痛
①大腿ヘルニア
高江洲 怜│仲里信彦
②腹部大動脈瘤
外間 亮│仲里信彦
③S状結腸軸捻転症
近藤和伸│仲里信彦
④腸間膜動脈閉塞症
新里盛朗│仲里信彦
⑤結節性多発性動脈炎
橋本頼和│仲里信彦
■症例集V さまざまなポピュレーション×腹痛
①糖尿病患者│ケトアシドーシス
藤井洋一│原田 拓
②HIV感染者│アメーバ肝膿瘍
山本祐資│齋田瑞恵│内藤俊夫
③精神疾患患者│腹腔動脈解離
仲吉朝基│綿貫 聡
④ホームレス患者│胃潰瘍
田丸聡子│小坂鎮太郎
⑤在宅認知症患者│腸閉塞
平良宏樹│小坂鎮太郎
⑥在宅認知症患者│下部消化管穿孔
原田 拓
今月のQuestions
今月の「めざせ!総合診療専門医!」問題
●Editorial
イルネススクリプトと臨床能力
藤沼康樹
●What's your diagnosis?|245
いよいよ詰まってきた
酒見英太
●アスクレピオスの杖|想い出の診療録|37
かの日のサッカー少年へ
三澤美和
●ジェネラリストに必要なご遺体の診断学|2
「死亡診断書」を書く時に最も重要なことは?
森田沙斗武
●オール沖縄! カンファレンス Ver.2.0|レジデントの対応と指導医の考え|76
家族に起こった呼吸困難の原因は?
笹原弘道|上 若生|相澤直輝|徳田安春(監修)
●対談「総合診療」達人伝|7つのコアコンピテンシーとその向こう側|5|
多様な診療の場に対応する能力
古屋 聡|奥 知久
●臨床教育お悩み相談室|どうする!?サロン|5
自分より優秀な人って、どう教えたらいいですか?
長野広之|佐田竜一|木村武司
●Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?|38
歩きスマホは頭痛のタネ
上田剛士
●臨床医のためのライフハック|限りある時間を有効に使う仕事術|2
キャリア形成──点と点をつなぎ、強みを倍増する“かけ算”の戦略
中島 啓
●投稿 GM Clinical Pictures
原因不明の胃粘膜障害とイレウス
佐藤沙紀|笹本貴広|柴田昌幸