新型コロナウイルス・パンデミックによって気づいたこと
山中 克郎（福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科）

　名古屋に住む家族と1年10カ月ぶりに再会した。2歳の孫娘がとても大きく成長していて驚いた。最初はこわがって近づいてこようとしなかったが、しばらくすると近くに寄ってきた。小さな人差し指を左右に動かし、母親のスマホを器用に操作している。生まれた時からインターネットが身近にある「デジタルネイティブ世代」なのだ。
　新型コロナウイルス感染症によって、今まで当たり前と思っていた生活が、実は非常に価値があったことに気がついた。家族との再会はとても嬉しい。そうか、こんな家に住んでいたのだったな。妻が作る家庭料理は最高だ。ご馳走が並ぶわけではないのに、家族と食べる食事は一人で食べる夕食とは比較にならないほどおいしい。
　戒厳令のような、この生活はいつまで続くのであろうか。
　国際連合は、2050年には都市部人口が68％となり、1,000万人以上が暮らす「メガシティ」が世界中で次々に誕生すると予想している（https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20180523）。すでに飛行機で世界中のどこにでも簡単に行ける時代となっている。大都市に住む人々の移動により、いつの日かまた、パンデミックが人類を襲って来るであろう。
　一方で、このパンデミックによって、科学技術の進歩が凄まじいことも実感できた。mRNAワクチンがこんなに早く実用化されようとは、ほとんどの人が考えていなかったであろう。コロナウイルス感染症に有効な薬の開発も目白押しである。
　日経サイエンス2021年9月号緊急解説「人を襲うカビ 真菌感染症」という記事を読んで恐ろしくなった。重症のコロナ患者はAspergillusやMucor、Candida aurisなどの真菌に感染しやすくなる。抗真菌薬に耐性を持つ真菌も徐々に現れている。コロナが収束しても真菌感染症、新型インフルエンザ、多剤耐性の細菌感染症の脅威が迫っている。次のパンデミックにも、人類が英知を集めて立ち向かい、解決することを心から願うのである。
　ありふれた疾患も考察を深めると、実は理解していないことに気がつくことがある。本特集では、「かぜ」というコモンな疾患のさまざまな病型、診療の基本、他疾患（コロナ、インフルエンザ、敗血症）との見分け方を、最前線で活躍する臨床医に解説していただいた。さらに高齢者やこども、妊婦など、バックグラウンドの違いによって起こる症状の違い、漢方薬を使った治療などが解説され、大変読みごたえのある内容となっている。

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　Our main business is not to see what lies dimly at a distance but to do what lies clearly at hand.
　私たちの大切な仕事は、遠くのほうにかすかに存在するものを見ようとすることではなく、目の前にはっきり見えるものをきちんと実行することだ［Thomas Carlyle（1795-1881）］。

特集　withコロナ　かぜ診療の心得アップデート

■座談会
エキスパートが語る！ withコロナ時代の「かぜ診療」
岸田直樹│山本舜悟・[司会］山中克郎

■総論
「かぜ」って何？
高倉俊一

■各論
かぜ診療の基本
1 せき・はな・のど型  普通感冒
藤川裕恭

2 はな型  急性鼻副鼻腔炎
小澤 労

3 のど型  咽頭炎
河野 圭

4 せき型  急性気管支炎
松村榮久

かぜ症状を呈する重要疾患
5 かぜとコロナ（新型コロナウイルス感染症）の見分け方
玉井道裕

6 かぜとインフルエンザの見分け方
大島 良│鈴木 純

7 かぜと敗血症の見分け方
渡邉剛史

患者特性に応じたかぜ診療
8 高齢者のかぜ
宗像慧太│山中克郎

9 小児のかぜ
継 仁│今井丈英│小松﨑英樹

10 妊婦のかぜ
清川 晶

治療と副作用
11 かぜ治療  漢方治療を含めて
須田万勢

今月のQuestions
今月の「めざせ！総合診療専門医！」問題

●Editorial
新型コロナウイルス・パンデミックによって気づいたこと
山中克郎

●What’s your diagnosis?｜230
シニアなら結核だろうが
酒見英太｜西 輝人

●アスクレピオスの杖｜想い出の診療録｜22
身をもって体験するということ  「こんなもん飲めるか！」って思った
白石吉彦

●高齢者診療スピードアップ塾｜効率も質も高める超・時短術｜2
「大動脈解離・肺塞栓」を15分早く診療する
増井伸高

●オール沖縄！ カンファレンス Ver.2.0｜レジデントの対応と指導医の考え｜61
15歳女性の周期的腹痛
嘉陽真美｜徳田安春（監修）

●『19番目のカルテ』を読んで答える！｜あなたの“ドクターG度”検定＆深読み解説｜11
“当たり”の医者  （『19番目のカルテ─徳重晃の問診』第11話より）
山中克郎

●患者さんには言えない!?｜医者のコッソリ養生法｜9
不養生の医者、「酒を飲んでも呑まれない」方法を授かる
須田万勢

●Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー！｜医学と日常の狭間で｜
　患者さんからの素朴な質問にどう答える？｜23
“3秒ルール”は本当ですか？
上田剛士

●“コミュ力”増強！「医療文書」書きカタログ｜20
他職種連携の登竜門！  
「リハビリ処方」「歯科紹介」時のコミュニケーション
天野雅之

●臨床小説｜後悔しない医者｜あの日できなかった決断｜23
一緒に時間を過ごした医者
國松淳和

●投稿　総合診療病棟
大柴胡湯去大黄による薬剤性間質性肺炎を早期診断加療し、救命できた1例
石田洋子｜吉野鉄大｜正木克宜｜渡辺賢治｜福永興壱

●Empirical EYE
ロジックツリーを用いた診断推論カンファレンスのススメ
小栗太一