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認知症の心理アセスメント はじめの一歩

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今後心理職のより深いかかわりが求められる「認知症」。そのアセスメントから支援への導き方までを学べる本が登場。検査結果の背景に脳のどんな障害があるのか、イラストと豊富なデータ、事例でしっかり解説し、公認心理師対策にも生かせる「神経心理学」の基本が身につく。病院や地域、福祉施設など様々な場面でのアセスメントと支援、報告書の書き方も明快に提示。認知症にかかわる心理職が“はじめの一歩”を踏み出せる1冊!
編集 黒川 由紀子 / 扇澤 史子
発行 2018年06月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-03262-9
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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まえがき

 今、目の前に、自分が認知症なのではないかという不安でいっぱいの人がいるとしましょう。これから、その人に認知症の診断材料の1つとなる心理検査を施行するとき、皆さんはどのように導入の説明をするでしょうか。そして、心理検査が進むにつれて、その人の顔が徐々にこわばっていくとき、どのように声をかけるでしょうか。さらに、得られた結果をどのように解釈し、心理アセスメントの結果をどのように本人や家族、ほかの専門職に伝え、その後に活かすでしょうか。
 筆者は、高齢者の医療現場に勤め始めたばかりのころ、これらの問いに対する答えを十分にもたぬまま、ただ無我夢中で心理検査を施行していました。当時は、検査者のかかわりが本人に及ぼす影響を十分に振り返る余裕もなく、本人に必要以上に負担をかけていたかもしれません。認知症の心理アセスメントといっても、それを理解する枠組みもよくわからず、冷や汗をかいたり反省しながら、専門書や文献を手当たり次第調べたり、職場の先生方に教えを請うたりと、手探り状態で勉強する日々でした。
 超高齢社会となった現在、心理職に認知症の心理アセスメントが求められる医療現場は、ますます増えつつあります。認知症臨床で多用されている改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)や Mini-Mental State Examination(MMSE)は、健常であれば満点近い成績が期待される検査であることは、テレビや新聞を通して多くの人が知りうる事実となり、事前に日付や場所を問う見当識課題の練習をしてくる人も少なくありません。これらの検査での失敗は、本人に認知機能の「低下」を突きつけるだけではなく、容易に回復しえない衝撃をもたらすことさえあります。それと同時に、本人・家族にとって認知症の心理アセスメントは、その後の人生を方向づける重要な意味をもつ場合も少なくありません。したがって、認知症の心理アセスメントは十分な配慮のもと、適切な面接法に基づいて行わなくてはなりません。そのうえで、行動観察に鑑みて、どの認知機能が低下している、もしくは保持されているのかを、適切に評価することが重要です。さらにその人が日常生活でどのような不自由を感じ、それを本人がこれまで続けてきた習慣や保たれている強みでどのように補うのかといった生活支援の知恵や環境の工夫とあわせて、認知症であっても、この先なんとかやっていけそうだという展望を本人と家族・支援者に提供するのが、本書における認知症の心理アセスメントの基本的な考え方です。
 これまでにも、認知症の心理アセスメントを取り上げた良書は数多く出版されていますが、勤め始めたばかりの自分を振り返っても、初学者が最初に手に取るには、専門的すぎて及び腰になってしまうものが多かったように思います。本書は、かつての筆者と同じような苦労や悩みを抱えている皆さんに、あのころ、手元にあればよかったと思うような認知症の心理アセスメントのエッセンスを伝える書籍をつくりたいと、恩師の黒川由紀子先生と企画したものです。リハビリテーションや慢性期病院、福祉施設などのさまざまな現場で、アセスメントを活かした魅力的な心理臨床を実践されている先生方や、認知症臨床のあり方をともに模索し続けてきた仲間の協力を得てつくることができました。そして、イラストを描いてくださった赤池佳江子さんのおかげで、手に取りやすく、心温まるデザインになりました。何といっても、これまで出会った多くの患者さんとそのご家族、ご指導いただいた先生方、多職種の皆さん、心理職の先輩、後輩との出会いがなくては本書を完成することはできませんでした。この場を借りて、皆様に深く感謝申し上げます。

 今後、さらに加速する社会の高齢化に伴って、認知症の医療領域だけでなく、診断にアクセスできない地域の高齢者に対する初期集中支援チームやこれまで心理職があまり携わってこなかった福祉領域など、心理職がかかわる高齢者支援の場は全国的にさまざまに広がることでしょう。本書は、そのような現場に初めて立つ人でも、手に取りやすく、検査を受ける人、施行する人、本人を支援する周りの人のすべてにとって有益な書籍となるように、執筆者一同、最大限心がけたつもりです。内容として、代表的な認知症の特徴のほか、認知症と間違われやすい主な疾患、あるいは認知症と健常の中間概念など、さまざまなデータや架空の事例を交えながら認知症の心理アセスメントを理解するための大きな枠組みを示すよう努めました。わかりやすさを優先し、紹介する心理検査や扱う知識も、初学者向けということを意識して単純化していますが、実際には認知症には本書で示す以外に数多くの種類があります。また心理アセスメントの対象は多様な人生を重ねてきた大先輩ですから、○○型認知症と一口にいっても、認知機能の保持/低下の現れ方は実にさまざまです。ですから本書で示す枠組みを参考にしていただきながらも、これにとらわれすぎず、実践を重ねるうちに、「ここがもっと知りたい」という部分が出てきたら、本書を踏み台にして、興味のある部分の知識をどんどん深めていっていただけたら、何よりも嬉しく思います。
 認知症とともに生きる人とご家族を支える皆さんにとって、本書が、認知症の心理アセスメントの「はじめの一歩」を踏み出す一助となれば幸いです。

 2018年 5月
 扇澤史子

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序章 なぜ認知症の心理アセスメントが大切なのか
 A はじめに
 B 認知症のアセスメントの6つのポイント
 C 今後の課題

第1章 知っておきたい アセスメントのための基礎知識
 1 認知症とそのアセスメント
  A 認知症ってどんな病気?
  B 認知症の臨床像とアセスメント
  C 病期・病型に応じたアセスメント
 2 どんな検査をするの?
  A 「神経心理学的検査」と「人格検査」
  B 「神経心理学」の考え方を理解しよう
  C 神経心理学的検査における2つのアプローチ法
  D 3種類の神経心理学的検査
 3 検査にあたって配慮したいこと─本人のパフォーマンス発揮のために
  A 検査環境
  B 検査者の態度や話し方
  C 被検者の意欲や安心感

第2章 部位別にみた 脳の機能とその検査
 1 はじめに
 2 側頭葉内側が担う、記憶を形成する機能とその検査
  A 側頭葉内側のはたらき
  B 側頭葉内側の障害によって生じる症状
  C 側頭葉内側機能の神経心理学的検査によるアセスメント
  D 側頭葉内側機能の観察法や定性的評価によるアセスメント
 3 側頭葉外側が担う、記憶・言葉の理解の機能とその検査
  A 側頭葉外側のはたらき
  B 側頭葉外側の障害によって生じる症状(意味記憶障害を中心に)
  C 側頭葉外側機能の神経心理学的検査によるアセスメント
  D 側頭葉外側機能の観察法や定性的評価によるアセスメント
 4 前頭葉が担う、感情や行動をコントロールする機能とその検査
  A 前頭葉のはたらき
  B 前頭葉の障害によって生じる症状
  C 前頭葉機能の神経心理学的検査によるアセスメント
  D 前頭葉機能の観察法や定性的評価によるアセスメント
 5 後頭葉が担う、物の見え方に関する機能とその検査
  A 後頭葉のはたらき
  B 後頭葉に関連した障害によって生じる症状
  C 後頭葉機能の神経心理学的検査によるアセスメント
 6 頭頂葉が担う、物の位置関係把握の機能とその検査
  A 頭頂葉のはたらき
  B 頭頂葉の障害によって生じる症状
  C 頭頂葉機能の神経心理学的検査によるアセスメント

第3章 認知症の病型別にみた 認知機能障害の特徴とアセスメントの実際
 1 はじめに
 2 アルツハイマー型認知症(AD)の特徴とアセスメント
  A 病型の特徴─経過と臨床症状
  B 心理検査でみられるADの認知機能の特徴
  C ADの神経心理学的アセスメントとその後の支援の例
 3 レビー小体型認知症(DLB)の特徴とアセスメント
  A 病型の特徴─経過と臨床症状
  B 心理検査でみられるDLBの認知機能の特徴
  C DLBの神経心理学的アセスメントとその後の支援の例
 4 血管性認知症(VaD)の特徴とアセスメント
  A 病型の特徴─経過と臨床症状
  B 心理検査でみられるVaDの認知機能の特徴
 5 前頭側頭型認知症(FTD)の特徴とアセスメント
  A 病型の特徴─経過と臨床症状
  B 心理検査でみられるFTDの認知機能の特徴
  C FTDの神経心理学的アセスメントとその後の支援の例
 6 認知症と間違われやすい疾患・病態の特徴とアセスメント
  A 老年期うつ病
  B せん妄
  C アルコール性認知症

第4章 場面別にみたアセスメントと結果の伝え方・その後の支援への活かし方
 1 はじめに─アセスメント結果の伝え方
  A アセスメントは誰のために行われるのか
  B フィードバックはどのように行うのか
  C アセスメントレポート(報告書)にはどのような情報を書けばよいか
 2 認知症のリハビリテーションにおけるアセスメント
    ─解釈の視点と結果の活かし方
  A 認知症のリハビリテーションとは
  B どのような点に注目して報告するか
  C リハビリテーション計画の見直し
 3 急性期病院でのアセスメントと結果の伝え方・その後の支援への活かし方
    (リエゾンを中心に)
  A 急性期病院における心理職の役割
  B 多職種チームによるアセスメントと支援
  C アセスメント結果の伝え方・支援への活かし方
 4 慢性期病院・療養型病院でのアセスメントと結果の伝え方・
    その後の支援への活かし方
  A 慢性期病院・療養型病院とは
  B 慢性期病院・療養型病院に入院する高齢者の特徴
  C 慢性期病院・療養型病院におけるアセスメントの目的
  D 慢性期病院・療養型病院におけるアセスメントの留意点
  E アセスメント結果の伝え方・支援への活かし方
 5 福祉施設でのアセスメントと結果の伝え方・その後の支援への活かし方
  A 福祉施設における心理職の役割とアセスメントの考え方
  B 福祉施設におけるアセスメント
  C 福祉施設で心理職として働く際に大切にしている視点や姿勢
 6 地域に出向くアセスメントと結果の伝え方・その後の支援への活かし方
    (アウトリーチを中心に)
  A 認知症アウトリーチチームの目的と方法、心理職の役割
  B アウトリーチ活動におけるアセスメントの具体例
  C アセスメント結果の伝え方・支援への活かし方

第5章 対談 認知症の心理アセスメント、その先へ
 なぜ、アセスメントが重要なのか
 「二足のわらじ」を履けるようになろう
 検査の点数の「その先」を考える
 「認知症」と「老い」をどうとらえるか
 絶望と喪失から、「英知」にたどりつく
 認知症の本人が気軽に出向き、話し合える場を
 高齢者臨床の現場で働く心理職へのメッセージ

さらに学びを深めたいあなたへ

あとがき

索引

Column
 人格のアセスメントを取り入れた心理支援
 検査を受けた本人の気持ち
 他職種から心理職へのメッセージ Vol.1〈看護師〉
 他職種から心理職へのメッセージ Vol.2〈医師〉
 他職種から心理職へのメッセージ Vol.3〈ソーシャルワーカー(SW)〉

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「ケアや支援の効果を高めるアセスメント」がわかる一冊
書評者: 繁田 雅弘 (慈恵医大教授・精神医学/慈恵医大病院メモリークリニック)
 「心理検査が進むにつれて,その人の顔が徐々にこわばっていくとき,どのように声をかけるでしょうか」「これらの検査での失敗は,本人に認知機能の“低下”を突きつけるだけではなく,容易に回復しえない衝撃をもたらすことさえあります」(まえがきより)。認知機能や精神機能を評価する場合,観察よりも課題や刺激を与えて反応をみるほうが,領域ごとの心理・精神機能の正確な評価が可能である。しかしその一方で,課題や刺激はしばしば致命的な傷跡を残す。認知症疾患の場合は,病名が引き起こす予後不良との偏見や先入観と強く関係している。治療や介入の効果を高めるには初期治療の段階からそういった偏見や先入観を払拭したいが,残念ながら評価というものはしばしばそれらを助長してしまうわけである。著者たちは多くの臨床経験からそのことを実感しているのであろう。

 すなわちアセスメントの本であると同時に,治療やリハビリ,そして支援を強く意識して書かれた本である。機能を正確に測定するだけでなく,被験者である本人の想いに寄り添い,支援の効果をできる限り高めることをめざしている姿勢を強く感じた。評価は出発点であって,それで完結するものではない。評価によって本人の自尊感情や自己効力感を不必要に下げれば,治療やリハビリの効果をそれだけ失うことになる。本人を失望させ無気力にさせるような評価ならしないほうが良い。そのことをよく知った著者たちだからこそ編むことができた本だと思った。

 心理職も多職種連携の一員であるという強い思いが随所からうかがえる。スタッフが患者に対して陰性感情を持ってしまう場合でも,評価者が病棟スタッフと心理背景を一緒に検討するだけで病棟スタッフの見方が変わりバーンアウトを予防することができるとしている(p.138)。心理職が伝える内容が,かかわるスタッフがケアの方針を自身で考え,やってみようと動機付けられるものであることが重要だとしている。心理職は,個室で被検者と1対1で向き合ってアセスメントするイメージから他の職種から独立して動くように思われがちだが,決してそのようなことはない。むしろ心理職が多職種協働のチームに参加し,その経験と知識を皆で共有することで連携がさらに有機的で視野の広いものになることを,この本は教えてくれる。
敬意と共感こそが,アセスメントの「はじめの一歩」
書評者: 上田 諭 (東京医療学院大教授・精神医学)
 人を診る医療従事者に欠かせない2つの素養がある。ロゴス(理論,言語)とパトス(感情,共感)である。両方を持ってこそ,人に対する真の医療になるはずだ。専門的な理屈ばかりが先行し,思いやりに欠ければ,医療で人を癒すどころか人を傷つけることになりかねない。残念なことに,現在の医療界は理論・技術(ロゴス)優先が目につき,人の心情や思い(パトス)は二の次にされがちである。認知症の心理アセスメントを解説する本書の基本には,その場面で特に忘れてはならないパトスの大切さがある。

 認知症を心配する人で,自ら進んで医療機関に来る人は少ない。周囲に言われてしぶしぶ来る人も多い。その点,他の疾患と大きく異なることをわきまえておかなくてはいけない。病を前に不安と緊張におののいている人に,どう接し,どうアセスメントをし,どう伝えるのか。正確な心理学的知見や理論(ロゴス)に基づく評価だけでいいはずがない。心理職の共感力(パトス)が強く問われている。評価のやり方次第では,本人の不安をさらに増幅し,いっそう生活しづらくさせかねない。まさに,本書で強調する通り,「アセスメントは治療の入り口」である。治療はもう始まっているのである。

 本書では,アセスメントを支える医学的知見や心理学的評価法が,類書をしのぐていねいな表現と豊富なイラストで書かれ,重要なロゴスをわかりやすく学ぶことができる。その上で,どう伝えるか,どう多職種チームで共有し患者にフィードバックするか,というパトス的側面にもページが多く割かれている。特に,編著者・扇澤史子のコラム「検査を受けた本人の気持ち」(p.36)は,医療者が見失いやすいパトスを優しく語り,胸に迫る。認知症にかかわる全ての心理職に,この感受性こそ持ってほしい。旧来の「医学モデル」(ロゴス)に従って診断・投薬にばかり走りがちなわれわれ医師も,もちろん同様である。

 認知症の心理アセスメントにはおのずと,本人にとってつらい「マイナスの評価」をされる,という側面がついてまわる。それを支えるのは,医療従事者や家族を含めた周囲の人々の態度であり見方である。心理職や医療者がまず持たなくてはいけないのは,本書にもしばしば出てくる「人生の大先輩に対する敬意」であろう。病的な面や病気ばかりを見るのではなく,その人の人生を考えて接する。これまで社会に貢献し,家族を長く支えてきたその人の人生を思い起こせば,敬意を払わずにいられない。認知機能の低下が予測されたとしても,「いまのあなたでいい」「認知症でもそのままでいい」と,その人生と現在を肯定して接することを旨としたい。それがまさに本書がタイトルに掲げる「はじめの一歩」でもあるはずだ。

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