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スピリチュアル・コミュニケーション
医療者のための5つの準備・7つの心得・8つのポイント

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スピリチュアルケアの最も核心的な部分は「コミュニケーション」である。本書は、終末期や高齢者医療の現場で日々患者に向き合う医療者のために、日々のケアのなかでスピリチュアル・コミュニケーションをどう実践すべきかを、わかりやすく解説。具体的な臨床事例、著者らの経験を紹介しつつ、医療者が行うべき準備・もつべき心得、そして具体的なコミュニケーションのポイントを示す。
岡本 拓也
発行 2016年03月判型:A5頁:188
ISBN 978-4-260-02529-4
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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はじめに
人は,
だれかになにかを全部してほしいわけではない。
甘えきって,任せたいだけじゃない。
ただ自分でゆっくりと立ち直っていくあいだ,
その魂に確かに善良なものを,希望を,愛情を
感じられる存在に,
そっといっしょにいてほしいだけ。

存在だけでいいのだ。
人を百倍も千倍も強くしてくれるなら。
そして,その存在は,
人の潜在的な力を
思わぬ形で引き出してくれる。
 私は,2014年の秋から,厳しい北国の冬を越え春にかけて,本書の原稿を書いておりました。
 この言葉は,ちょうどその終わり頃に,朝日新聞での連載がスタートしたよしもとばななさんの小説『ふなふな船橋』(朝日新聞出版,2015年)で,たまたま見つけた素敵な言葉です。
 原稿を書き終え,この「はじめに」を書こうと思って,改めて本書の全体を振り返った時に,この言葉を,ふと思い出しました。“いい言葉だなあ”と思って,書き留めておいた言葉です。もう一度,見直してみて,やはり,“いい言葉だなあ”と感じ入りました。まさに,本書の冒頭に引用させていただくにふさわしい,しっくりとくる言葉です。
 そうです。
 詰まるところ,ここに述べられているような“存在”であるために大切なこと,それはどういったことなのかを言葉にしようとしたのがこの本なのです。ばななさんの言葉を読み直してみて,そのことに,自分自身,改めて思い至ったような次第です。
 私たちは,援助者として,さして大きなことができるわけではありません。
 スピリチュアルな問題は,突き詰めると,その人自身,つまり本人の問題です。したがって,たとえば外科手術のように,患者さん本人が眠っている間に,他人の力を使って取り除いたり縫い合わせたりして解決できることではありません。そのように解決すべきことでもないでしょう。結局のところ,そういった問題は,その人自身のライフ・ワークであり,ライフ・イシュー,つまりは人生の問題なのです。
 そんなわけで,援助する側の人間は,“そっといっしょに”いる,という“存在”そのものの提供以外には,究極的には,何も行いえないのだろうと思うわけです。
 それはしばしば,“寄り添い”と呼ばれることがあります。“寄り添い”とは,何かをするためにそこにいるのではなく,何もできないけれどもそこにいさせていただくという,“存在”そのものの提供に他なりません。“Not Doing, but Being.”というおなじみの表現も,まさに,そのことを伝えようとしているのでしょう。
 しかし,同時に,この“存在”を提供するという時,その“存在”のあり方によって,全く違う結果が生み出されてくることもまた,事実です。
 それは,どういうことなのか?
 それは,一考に値する重要な問いだと思います。
 そして,日々,援助者となる必要性に迫られている現場に置かれている者としては,そんなふうに,“一考に値する”,などと他人事のように悠長に構えていていい問題ではないのであって,この問いに対してきちんと回答しなければなりません。この問いに対する回答を,不十分ではあっても,何とか頑張って言語化しなければなりません。
 この本の原稿を書いている途中から,私は,次のような気持ちで書いていました。つまり,未だ経験が浅く未熟だった頃の自分自身に向けて言ってあげたかった言葉を探して書く,そんな感じです。この本に書かれている内容というのは,やはり,あの,とてつもなく自信がなかった頃の自分自身に向かって,言ってあげたかったことのような気がします。
 もっとも,本書で述べたようなことを,若かった頃の自分に伝えることができたとして,果たして素直に聴く耳をもってくれていたかどうかはわかりませんけれども……。
 まあ,それはさておき,本書のなかに盛り込んだ内容は,じっくりと読み込んでおけば,必ず人を援助する臨床の現場で役に立つものであると思います。
 もちろん,すべての人に当てはまるわけではない部分もあります。しかし,いずれの内容も,私自身の経験から紡ぎ出され,私自身の経験をとおして実験・実証してきたものばかりであることだけは,間違いありません。
 また,言わずもがなのことですが,私自身が,援助者として完成された存在であるなどというわけではもちろんなく,未だ,そして,死ぬ間際まで,発展途上の人間であり続けるのだろうと思います。また,負け惜しみではなく,そうでありたい,とも思います。死ぬこと自体が新しい経験であり,私たちは,死の瞬間まで成長し続けることができるのですから。それは,多くの患者さんたちから教えられてきたことでもあります。
 その意味で,私の心境としては,よしもとばななさんの言葉のなかに表現されているような,“人の潜在的な力を思わぬ形で引き出してくれ”“その魂に確かに善良なものを,希望を,愛情を感じられる存在”に,少しでも近づいていけるように,皆さんと一緒にこの道を歩いていきたい,という思いです。
 本書が,そのような,よき“存在”に,一歩でも半歩でも,ともに近づいていくための一助として用いていただけるならば,それは本当に幸いなことです。

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はじめに

第1章 スピリチュアル・コミュニケーションとは何か
   すべてのケアは心に触れる
   個々に異なる「世界」とスピリチュアル・コミュニケーション
   コミュニケーションをとおして個々の「世界」を理解する
   「理解してくれる存在」になる
   ケアの神髄とは
   「身体を変える」と「心を変える」
   「身体を変える」
   「心を変える」
   心的現実の変化をもたらすことも医療者の大事な仕事
   心の状態を整える
   スピリチュアルケアとは
   スピリチュアルペインをもちうる人間に対するケア
   褥瘡や誤嚥性肺炎との対比で考える
   スピリチュアル・コミュニケーションとは
より詳しく学びたい人のためのコーナー
コラム「陽子さんの教え」

第2章 患者さんに会う前に行うべき5つの準備
 準備1 テンションを調節する
   患者さんに影響を及ぼす「人柄」
   テンションを下げないことで起こること
   「ささいなこと」の積み重ねが経過を変える
 準備2 “明るい静けさ”を意識する
 準備3 ペースを落とす ~忙しい時ほど丁寧に
   “やっつけ仕事”にならないように心がける
 準備4 “100%の力で向き合う”と自分に約束する
   忙しさのなかでも,自分の心を見失わないこと
 準備5 ゆっくり歩く ~自分自身を整える
より詳しく学びたい人のためのコーナー
コラム「捧げものとしての人生」

第3章 患者さんに向き合う時の7つの心得
 心得1 慰めたり励ましたりする必要はない ~いいことを言おうとせず,安定した態度で聴く
 心得2 難しいと考えない
 心得3 対等な人間として向き合う ~同じ弱さを抱えた人間として寄り添う
   敬意と対等感覚のバランス
 心得4 人格と出会う
   戦う前から負けていた私
   人格を見出し,人格と向き合う
 心得5 背伸びせずありのままで向き合う
 心得6 患者さんの問題を代わりに負おうとしない
   「気持ちが晴れない」と言われたら
   援助者ができることは「存在」そのものの提供
   お互いの領分をわきまえてかかわる
 心得7 よき理解者,“応える”存在として,そばにいる
   「答え」を提供する必要はない
   余命告知について
   予後についての質問への対応
   予後を伝える場合の一例
   思いに応じようとする姿勢をもつ
   五感を使って“感じる”練習を積む
ケース集 あなたならどうする?-こんな場面に遭遇したら
コラム「未完成のマフラー」

第4章 スピリチュアルなコミュニケーションを高めるための8つのポイント
 ポイント1 相手の言葉の奥にある欲望や関心に着目する
 ポイント2 成り行きは任せる
   根本にある心情を汲みとる
 ポイント3 自分自身をメンテナンスする
   マインドフルネスは“意識の集中”
 ポイント4 感情や思いへの“気づき”を大切にする
   医療者の感情のあり方が,患者・家族に影響を与える
 ポイント5 自分自身の感情をモニターする
   不快感を抱いた私の経験談
   自分の感情を吟味する
   互いに影響を及ぼしあっていることを知る
   自分の陰性感情に気づく
   臭いものにはフタをしない
 ポイント6 医療者自身が強力な薬であることを自覚する
 ポイント7 自分の陰性感情への対処の仕方を知る
 ポイント8 患者・家族の陰性感情への対処の仕方を知る
   残念な事件
   問題とその解決のカギは,自分の側にある
   主体性を発揮する
   自分の心の手綱は自分でしっかりと握る
   かかわる覚悟を決める
   傾聴しつつ受け流す
   自分の身体の外に「私」を置く
   犠牲になっている家族への言葉がけ
   チームで共有する
   人生道場にいると知る
より詳しく学びたい人のためのコーナー
コラム「マインドフルネスについて」

あとがき
索引

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ケアに悩めるときのバイブル
書評者: 田村 恵子 (京大教授・緩和ケア・老年看護学)
スピリチュアルケアの疑問に応える

 「スピリチュアルペインって難しい。どうケアしたらよいのだろう」と悩んでいませんか。

 こうしたケア提供者の悩みを吹き飛ばすがごとく執筆者の岡本拓也氏は「スピリチュアルな問題は,突き詰めると,その人自身,つまり本人の問題です」(「はじめに」より)と断言しています。このためスピリチュアルケアとは,「“そっといっしょに”にいる,という“存在”そのものの提供以外には,究極的には,何も行いえないのだろうと思うわけです」と述べています(「はじめに」より)。「そうなのだ」とうなずかれる方がたくさんおられると思いますが,ちょっと肩の力を抜いてみると,「でも,これってかなり自分自身が問われるってこと?」と再び不安や疑問を感じるかも……。そうした疑問に端的に応えているのが本書です。

すべてのケアは心に触れる

 第1章では,スピリチュアルケアの真髄をスピリチュアル・コミュニケーションという概念を用いて丁寧にひもといています。そして,第2章では,ケア提供者が患者さんに会う前に行うべき5つの準備が具体的に説明されています。続く第3章では,患者さんに向き合うときの7つの心得が紹介されています。そして,最後には,スピリチュアルなコミュニケーションをどうすれば高めることができるのかが8つのポイントとしてまとめられています。
 
特に,私の印象に残った言葉は「すべてのケアは心に触れる」(p.4)です。日々のケアがそうありたいと改めて感じさせられました。ケアに悩めるときのバイブルとして,手元に置かれてはいかがでしょうか。
スピリチュアリティを図解入りで説明した臨床家向けの入門書
書評者: 木原 活信 (同志社大学社会学部教授・社会福祉学)
 著者の岡本さんとは,京大法学部時代からの30年来の知り合いであり,今では同じ信仰者,スピリチュアリティの探求者,援助者としての共通の関心を求道し続ける盟友である。それゆえ,ホスピス医として並々ならぬ情熱で奮闘している友の姿を目に浮かべつつ読ませていただいた。

 読後感はまことに爽やかであった。本書の姉妹本 『誰も教えてくれなかった スピリチュアルケア』1) が,抽象度の高い内容で,学者向けであったとすると,今回の新著は,具体的,臨床的,実際的でありながらもポエティカルな言葉で紡ぎ出された臨床家向けの入門書であった。それが「未だ経験が浅く未熟だった頃の自分自身に向けて言ってあげたかった」(p.iii)と言うように,後進を励ます内容となっている。

 本書では,人間をスピリチュアルな存在として規定し,スピリチュアルな痛みを持つもの,という前提に立ち,その実例を,自分自身の失敗例を基に書いている。と言ってもここでのスピリチュアリティとは,特殊なものでなく,日常的なものである。それは,「心を込めて行うならば,すべての行為は,“祈り”となります。“祈り”とは,打算のない心で,全身全霊を込めて行う営み,です。いわば,“生活の祈り”,そういう“祈り”があります。決して,神社やお御堂,礼拝堂などで捧げられる“祈り”だけが“祈り”なのではありません」(p.58)という言葉に収斂される。また,近年欧米で話題になっているマインドフルネスについても岡本さんの天才的インスピレーションで的確に理解し,平易な言葉で解説されている。

 これまで抽象度の高く,近寄りがたいイメージであったスピリチュアリティを,5つの準備・7つの心得・8つのポイントで,図解入りで説明してあり,医療者だけでなく,ソーシャルワーカー,心理臨床家,教育者,牧師などにも読んでいただきたい一冊である。
●参考文献
1)岡本拓也.誰も教えてくれなかった スピリチュアルケア.医学書院;2014.

全てのケア提供者の心を軽やかにしてくれる一冊
書評者: 野口 忍 (北摂総合病院退院支援担当看護師長・在宅看護専門看護師)
 「岡本拓也スピリチュアルシリーズ」(勝手に命名),待望の新刊です。

 評者は大阪府がん診療拠点病院,地域医療支援病院である北摂総合病院の法人内の訪問看護師として2000年から2015年1月末まで,多職種と協働しながらがん・非がんの終末期にある方,約200名の在宅看取りをさせていただきました。

 本書にもありますように臨床では,しばしば患者さんから「私だけがどうしてこんな病気になるの?」という,That'sスピリチュアルペインな言葉を投げ掛けられます。まず答えようのないライフ・イシューな問いですが,われわれケア提供者は「何か気の利いた答えを言わなければ!」と葛藤しがちです。

 そんな時,本書の滋味豊かな,5つの準備・7つの心得・8つのポイントを自らの実践を内省しつつ,読み進めることをお勧めします。

 特に第3章の「心得(3)対等な人間として向き合う~同じ弱さを抱えた人間として寄り添う」の項が本書のキモ(勝手に宣言)です。この本を手に取る方には,既知の心得でしょうが,的確に言語化されることで,より意識して実践できるようになるでしょう。

 これらの準備・心得・ポイントを日々実践することで血肉となり,ひいては人間力の涵養につながり,明日からの臨床で対患者さんだけではなく,多職種間のコミュニケーションまでもが,よりスムーズになり得るのです。

 岡本先生の丁寧で温かな言葉遣い,平易な文章,柔らかな挿画と相まって,全てのケア提供者の心を軽やかにしてくれることでしょう。

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