術者MITSUDOの押さないPCI

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日本が世界に誇るインターベンショナリストの光藤和明医師が、生前に書き溜めていた原稿をもとに、倉敷中央病院循環器内科の協力により書籍化。数万例を超える治療経験と膨大な研究データを解析した上に成り立つ、“押さない”PCIテクニックの神髄に触れることができる。生涯、一術者として日々カテ室に入り続け、患者の治療に当たった医師の根底に流れる哲学が脈々とつづられている。
光藤 和明
執筆協力 倉敷中央病院循環器内科
発行 2016年07月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-02527-0
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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刊行に際して(門田一繁)/謝辞(光藤和代)

刊行に際して
 光藤和明先生が2015年10月18日,病で急逝されました.PCIの更なる成績向上のための取り組みを含め,これからなさりたいと思われていたことも多く,とても無念であったと思われます.また,ご家族の悲しさも,いかばかりかと察せられます.
 今回,光藤先生が生前に企画され書き溜められておられましたPCIの書が,『術者MITSUDOの押さないPCI』として上梓されました.先生はPCIの領域で,数多くのデバイスの開発に関わり,さまざまな手技を考案され,さらにライブデモンストレーションや手技指導などを通じてPCIの発展に大きく貢献されてこられました.本書では,PCIの多岐にわたる領域のなかでも,先生が“PCIのFinal Frontier”と考えられ,先生のライフワークともいうべき,「慢性完全閉塞病変」と左主幹部を含む「分岐部病変」のテクニックを主体として,最後に,長きにわたりPCIを行われてこられた中で,その本質と考えられた「押さないPCI」について独立した章として加えています.
 光藤先生は1995年に 『PTCAテクニック』(医学書院刊)を上梓されています.その序に「テクニックは経験に基づく部分が非常に多い.そして確かに文字や写真を通して人に伝えることの困難な微妙なテクニックも多くある.しかし,論理で裏打ちできる部分は伝えうる」と書かれておられます.先生のPCIは,卓越したテクニックに加え,その手技自体が豊富な経験とデータに基づくとともに常に論理に裏打ちされたものであったと思います.われわれは,その光藤先生から直接,多くのことをご指導いただきましたが,本書によって先生がなされていたPCIの1つひとつの手技の意義や意味,さらにはその実際について,改めて論理的に学ぶことができるように思います.インターベンションに携わるすべての方々へも,光藤先生のPCIの本質が伝わるものと思われます.
 今回,倉敷中央病院の循環器内科スタッフとともに,光藤先生が遺された原稿を日々のPCIでご指導いただいた先生の言葉を思い返しながらまとめさせていただきました.できるだけ先生の考えをそのまま反映するよう心がけたつもりですが,われわれの力不足のために先生の考えを充分に著すことができていない部分があるものと思われます.その点につきましては,ご容赦いただければと存じます.
 最後に,本書は光藤和明先生の遺された原稿を出版につなげたいというご家族の強い思いによって実現したものです.今回,この上梓に関わらせていただくことができたましたことを故光藤和明先生ならびにご家族の皆様に感謝させていただくとともに,心よりご冥福をお祈り申し上げます.

 2016年7月
 倉敷中央病院循環器内科主任部長
 門田一繁


謝辞
 このたび,皆様のお陰で亡夫の生前の思いを書籍にすることができました.
 夫のPCIに対する思い入れは非常に強く,特に技術の伝達に関してはいつも頭から離れず,何とか文章化して皆様にお伝えしたいと言い続けておりました.そしてわずかな時間があれば,一行でもと書き続け,もう少しで完成というところで突然の病魔に襲われ逝ってしまいました.どんなにか無念であったろうと思われます.残された私共にできることは,そんな夫の思いを書籍化し,皆様に少しでもお伝えすることであると考えております.思えば,医者になったばかりの研修医時代から全力疾走の日々で,そのまま駆け抜けていった人生でした.病魔に襲われる前夜も遅くまで執筆し,いわば命を削ってでも完成させたかったものですので,未完のまま言いたいことが充分に伝わらないもどかしさがあるかもしれませんが,皆様にお読みいただくことで,今後のPCIの発展のために少しでもお役に立つことができれば幸いです.
 刊行にあたり,これまで夫を支えてくださいました全国の皆様,倉敷中央病院循環器内科の皆様,とりわけ多忙な日常診療の中で症例や図表をそろえ,加筆していただきました,田中裕之先生,羽原誠二先生,秘書の金池牧子さんに深く感謝を申し上げます.

 2016年7月
 光藤和代

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第1章 術者MITSUDOのCTOに対するPCI
 I.アプローチ(穿刺部)
   A.術者MITSUDOのアプローチ選択
 II.シース
 III.ガイディングカテーテル
   A.術者MITSUDOのガイディングカテーテル選択
   B.アンカーテクニック
Column(1) ガイドワイヤー先行法,buddy wire法
Column(2) Anomalous origin coronary artery
 IV.抗凝固戦略
   A.ヘパリン投与
   B.ACT測定のための採血と採血部位
 V.透視・撮影戦略
   A.シネ撮影装置と透視角度
Column(3) 透視(撮影)角度とデテクター面
   B.左右冠動脈同時造影(bilateral angiography),側副血行路造影(対側造影など)
Column(4) Rotation angiography
 VI.Antegrade approach
   A.想定されるCTO形成のメカニズムと閉塞後の経時的変化
   B.閉塞前後の組織変化
   C.想定されるCTO形成メカニズムと閉塞後の経時的変化に応じた
    ガイドワイヤー通過の実際
Column(5) 組織の硬さとガイドワイヤーの進み方
   D.ガイドワイヤー戦略
Column(6) ガイドワイヤーの通過のメカニズム
Column(7) 術者MITSUDOの選択とその理由-その1
   E.マイクロカテーテル
   F.デバイス通過戦略
   G.バルーン拡張からステント留置まで
 VII.Retrograde approach
   A.Retrograde approachの適応
   B.Collateral channelの種類
   C.Collateral channelの選択
   D.ガイディングカテーテル
   E.マイクロカテーテル
   F.透視・造影角度
   G.先端造影
   H.Channel用ガイドワイヤーの選択と操作テクニック
Column(8) Sionガイドワイヤー
   I.Channel通過の確認
   J.マイクロカテーテルの末梢真腔への進行
   K.CTO用ガイドワイヤーの選択と通過戦略,操作法
   L.Direct cross
   M.Kissing wire
Column(9) RCA #2~#IIIの部分の特殊性
   N.Reverse CART
   O.Retrogradeガイドワイヤー通過後,antegradeガイディングカテーテル内への誘導
Column(10) 術者MITSUDOの選択とその理由-その2
   P.Retrogradeマイクロカテーテルのantegradeガイディングカテーテル内への誘導
   Q.Antegrade approachへの変更
 VIII.再びantegrade approach
   A.バルーン拡張
   B.IVUS
   C.真腔とり直し
   D.前拡張からステンティング,後拡張まで
Column(11) Distal protectionの仕方
 IX.トラブルシューティング
   A.ガイドワイヤーエントラップメント
   B.ガイドワイヤー穿孔
   C.Retrograde collateral channelの穿孔,laceration
   D.Uncontrollable bleeding-冠動脈穿孔に対する対応

第2章 分岐部ステンティング
Column(12) ステントデザインとステント留置法,ステント留置技法の組み合わせ
 I.分岐部専用ステント
 II.分岐部に最適化した汎用ステントデザイン
Column(13) よいfractureと悪いfracture
   A.Temporary link stent
 III.分岐部ステンティングを理想に近づけるための留置技法
   A.前拡張でのKBTの必要性とその実際
   B.ステント留置後のKBT
Column(14) バルーンの選択と拡張圧
   C.Stent+KBTにおける基本的手技
Column(15) 巻絡の予防と対策
Column(16) バルーンの形成(リラッピング)
Column(17) 観察角度の重要性
Column(18) POTとKBTの必要性
 IV.分岐部two stent法の理想型
   A.さまざまなtwo stent法に関する短評
   B.Culotte(Y)ステンティング

第3章 右冠動脈入口部ステンティング
 I.Radial force
 II.Preparation
 III.ステント
   A.RCA入口部に適したステントデザイン
   B.ステントがfractureしたときに冠動脈部分にかかる力
   C.Nobori 3.5mm JVステントの特徴
 IV.ステントの位置決め
   A.ステントエッジの位置について
   B.ステント近位端の位置
   C.RCA入口部へのステント留置
 V.IVUSの必要性
 VI.Case studies

第4章 左主幹部(LMT)ステンティング
 I.病変部位・病変形態とステント留置法
 II.ステントデザイン
   A.Conformability
   B.最大拡張径
   C.入口部付近(近位部端)のデザイン
Column(19) Promus PREMIERについて
 III.Preparation
   A.LMT入口部および体部のpreparation
   B.LMT末梢分岐部のpreparation
Column(20) Carinaシフト
Column(21) Lacrosse NSEかAngioSculptかScoreFlexか
   C.LAD,LCX入口部~近位部のpreparation
   D.Lesion preparationの実際
 IV.ステンティングとステント留置手順
   A.比較的長いLMTで,入口部あるいは体部の一部にしかプラークがない場合
   B.分岐部にステントを留置しなければならない場合
   C.入口部までステントを留置しなければならない場合
   D.体部にエッジが位置してもよい場合
   E.Culotteステンティング
   F.Tステンティング
 V.三分枝におけるLMTステンティング
   A.Stent+KBT(triple KBT)
   B.Culotteステンティング,三分枝ステンティング
 VI.LMTステントの実例

第5章 術者MITSUDOの押さないPCI
 I.押してもよい場合
   A.マイクロカテーテル
   B.小径バルーン
   C.Tornus
   D.ガイディングカテーテルのバックアップ
 II.ガイドワイヤー
   A.ガイドワイヤーを押す力の基本
   B.ガイドワイヤーの操作法
   C.ガイドワイヤーの回転法と押す力
   D.探索(exploration)法
   E.ガイドワイヤーの選択と通過のための補助手段
 III.バルーン(POBA)
   A.分岐部病変
   B.バルーンサイズと拡張圧と拡張スピード
   C.さまざまな解離のメカニズムとそれに対する対策
   D.Lacrosse NSE, ScoreFlex, AngioSculpt, Cutting balloon
 IV.Rotablator
   A.TornusとRotawire
   B.狭窄が屈曲部にあるとき
   C.ガイドワイヤーバイアス,burrバイアスの軽減
   D.Burrの進め方
 V.ELCA
 VI.ステント
   A.ステント留置の一般的注意
   B.Conformableステントの留置
   C.子カテの使用
 VII.IVUS
 VIII.いわゆるアンカーテクニック
   A.アンカーテクニック
   B.同軸アンカー
   C.トラッピング
 IX.Guidewire loop(tag of wire)
 X.IVUS引き抜き
   A.IVUS引き抜き時の引っ掛かり
   B.StuckされないIVUSの引っ掛かりは問題ないか?

索引

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トレーニング中の術者のみならずPCI専門医にとっても貴重な専門書
書評者: 加藤 修 (草津ハートセンター顧問)
 光藤先生が逝去されて,もうすぐ一年が経過しようとしています。この間に,光藤先生に薫陶を受けられた倉敷中央病院心臓センターの先生方やご家族のご尽力により,遺稿をまとめて本書が出版されることになりました。本書が,冠動脈インターベンションに携わる循環器専門医にとって高度な最新の情報を提供し,この分野の進歩に貢献するであろうと考えます。皆さまのご尽力に深く感謝したいと思います。

 本書は過去に出版されたこの分野の書籍に比べ,詳細な多くの技術上の情報の説明がなされているのみならず,光藤先生の一貫した考え方が表現されており,PCIトレーニング中の術者のみならず,PCI専門医にとっても貴重な専門書となっています。評者自身も,多くの点で参考にさせていただきたいと考えています。

 評者と意見の異なる細かい部分もありますが,慢性完全閉塞の領域のみならず,その他の領域においても光藤先生の技術上の諸問題に対する意見,特にその考え方に多くの点で同調できることに驚いています。30年以上,この領域で共に働きながら,またおよそ20年前には慢性完全閉塞に関する技術書を共著させていただく機会がありながら,本書に述べられている技術上の諸問題について,詳細な意見交換をすることが一度もなかったことが残念でなりません。本書の中には,もしそのような機会があれば評者自身ももっと進歩できていたのではないかと感じさせる光藤先生の基本姿勢を読み取ることができます。

 もちろん,個々の技術的内容は常に時代的制約を受けており,将来的には変更や加筆が必要な部分もあるでしょうが,この書は単に,PCI技術の解説書ではなく,この領域の進歩をもたらすためのアプローチ方法,基本的な考え方を行間に読み取ることができる教科書として,多くの専門医の成長に今後長らく貢献するであろうことを確信しています。そして,未来のこの領域の進歩を担う若いPCI専門医が,いつの日かこの教科書を書き換える日が来ることを光藤先生は心待ちにしておられるのではないでしょうか。数年前にCTO Expert Registryの設立について話し合ったときの光藤先生の情熱的な姿が忘れられませんが,光藤先生の熱い思いはその日が来ることにより成就されるのではないかと思います。
PCIが存続する限り永遠の名著
書評者: 山下 武廣 (心臓血管センター北海道大野病院副院長)
 本書は,2015年10月に急逝された光藤和明医師が書きためた原稿を,倉敷中央病院循環器内科スタッフが加筆・整頓して書籍化したPCIの大書である。光藤医師が「PCIのFinal frontier」としたCTO(chronic total occlusion),分岐部ステント術を中心に据え,加えて右冠動脈入口部,左主幹部へのステント術,さらには光藤医師がPCIの本質とした「押さないPCI」を,あえて「押してよい」場面を例示しながら詳述している。

 直面し得る陥穽を前もって予測し,リスクを可及的回避しながらいかに確実に手技を完遂するか,通常の技術書では散りばめられる「パール」が,本書では惜しげもなくオンパレードで教示されている。一語一句全てが,膨大な経験と深い洞察に基づいたパールと感じられ,ベテランインターベンショニストであっても1ページ読み進む間に何度もハッとさせられるのではないだろうか。さらにPCIのテクニック論にとどまらず,PCIを用いて医療を行うプロフェッショナルとしての人生哲学が随所に染み出ており,これぞ光藤流PCIの神髄と感じられる。

 これからを担う若き医師たちに,めざすべきインターベンショニスト像を見いだし,見据える機会を与える必読の書であろう。中堅以上のインターベンショニストは,本書の内容をどこまで正確に理解し自身で実行しうるか,キャリア史上最大の到達目標を得るのかもしれない。

 通読後は,本書がPCIという治療法が存続する限り永遠の名著となることを確信させる。
生涯の友
書評者: 齋藤 滋 (湘南鎌倉総合病院循環器科部長)
 その時(1983年)の情景はいまだに鮮明に僕の記憶の中に残っている。当時僕は関西のある病院でバックアップもないまま,ひとりでPCIを行っていた。大阪で開催されたクローズドの冠動脈造影のための症例発表研究会において,その当時はあり得なかった右冠動脈の慢性完全閉塞に対するPCIの症例シネを呈示した。それに対する反応は驚くべきものであり,その会を仕切っておられた「エライ」先生お二人が,僕のことを「どこの馬の骨が」と言われて口撃されたのである。そして,僕に引き続いて光藤和明先生も,PCIの症例を呈示された。残念ながら内容までは覚えていないが,素晴らしいPCIであった。しかしながら,驚くべきことに彼のPCIに対しても,またもや「エライ」先生お二人は口撃された。当時若造であった僕たちは,これらの口撃に対して反論することもできなかった。僕は光藤先生が廊下に出てこられるのを待ち受け,「あんなこと言ってひどいよねえ」と訴えた。

 これが本書の著者であられる光藤先生との初めての出会いであり,生涯の友との出会いだったが,思えばこの時の情景の中に,既に光藤先生の片鱗が光り輝く青魚の鱗のように表されてる。僕にとっての彼は,「反骨」「理想の追求」「物事は理論で説明つく」という信念を持った人である。

 いい加減な考え方しか持たない僕にとっては,時には彼の究極までに研ぎ澄まされた知性と感覚に辟易することもあった。最近は,お互いに忙しく年の単位でゆっくりとお会いすることもできなくなった。しかし,今でも,そう,思いがけず僕たちの前から突然去られた後も彼は生涯の友である。この本の中で,彼は普段カテ室で患者さんたちを治療していた時とまったく同じく生きている。

 最初から最後まで本書を読み,「ああ いつもの光藤和明だ」と思わずにはおれない。タイトルの「押さない」とは裏腹に,本書の中で彼の主義主張はどんどん強く読者に対して「押される」。その内容は,先の3つのテーマ「反骨」「理想の追求」「物事は理論で説明つく」で彩られ,あまりにこれらのテーマが前面に立つが故に,僕には理解し難く,「どうしてそんなにこだわるの?」と思われる面も多々ある。正直僕を含めた凡人には完全には理解して実行することはとても不可能であり,また必ずしもその内容と主張について全面的に受け入れられるものではない。

 往々にしてPCIの書籍や雑誌などの出版物には,欧米で行われた大規模臨床試験データが中心となって示される。そのような試験においては,個々の患者さんに対する治療は平準化されたものでしかあり得ない。したがってそれらの出版物に記載されているPCI手技およびその背景に関する詳細については,一般化されたものしか記載されないのが普通である。しかるに本書においては,著者の時には独善的とも思えるその手技の詳細に関する考え方や主張がとことん書かれている。

 この本は,日本におけるPCIの黎明期から,発展期を駆け抜け,今の成熟期に至るまでPCIについてとことん理論的に考え,細かい部分まで理想を追求し,反骨の精神を持って戦ってきた素晴らしい友,光藤和明の心と技術が溢れ出る本である。ぜひとも若い先生にも読んで,その内容を汲み取り,批判し,そして受け入れて欲しい。

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